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教育実習四週目
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トモからのキスは長かった。時折唇が離れたけれど、またすぐに唇が塞がれて時折舌で舐められた。僕は恋愛初心者だって……。息が苦しくなって頭がクラクラしてきた頃、ようやく唇が離れて、頭を抱え込まれた。
「良かった……。」
胸からトモの呟きが聞こえてきて、何故だか鼻の奥が痛み涙が溢れてきた。恥ずかしくなってトモの背中に腕を回し、肩に顔を押し付ける。トモはゆっくりと僕の頭を撫でてくれた。
「帰ろう。」
「ん……。」
しばらくその状態でいて涙も止まった頃、トモが小さく呟いた。顔を離してトモを見上げると、優しく微笑んでいたトモに目元にキスをされた。
「また泣かせた。本当は違うところで啼かせたいんだけどな。」
「?」
トモが言った意味は何だろう? 頭の中で考えているうちに、トモはベンチに置いた手紙を取り上げてジーンズのポケットにしまうと、僕の右手を掴んで歩き出した。
『てっ、手? 手を繋いで帰るのか?』
街灯も少なくて辺りは闇に閉ざされてきたけど、周りをキョロキョロと伺わずにはいられなかった。トモは空いている右手を自分の顔のそばへ持ってきたかと思うと、一人でに話し始めた。
「あ、ユウか? ああ俺。上手くいった。心配かけた。」
えっ? ユウと話をしている? スマホを持っている様子もなかったトモの顔を横から覗き込む。トモは耳元を指で押さえるようにして話をしていた。
「ああ、ああ……。助かる。そうしてくれ、何でもいい。お前とリョウは?」
イヤフォン? いや、イヤフォンなんてしていなかったぞ? 疑問に思ってトモの顔を覗き込むのをやめられなかった。トモは僕の顔を見てウィンクすると、繋いだ手をギュッと握りしめてきた。
「はははっ! そうだな。今日はそうしてくれるとありがたい。……ああ。……ああ、分かった。」
ウ、ウィンクされたって騙されないぞ! トモのウィンクは少しだけ破壊力があった。顔が熱くなり正面に顔を戻す。ちょうど橋のバス停のところまで戻り、激しく行き交う車をやり過ごすために立ち止まった。
「どうした? 顔が赤いぞ?」
今度は反対に顔を覗き込まれる。さっきまでの優しい表情がどこかに消えて、悪戯を考えついたような表情で僕を見ていた。
「ゆ、ユウと話をしていたの?」
「ああ。……これ。」
トモが右耳から何かを取り出して、僕の方に見せてくれた。それは小さく、肌色の雨粒のような形をしていて、僕が初めて見るものだった。
「12年後の通信機器。5人まで登録できて自由に話ができるやつだ。」
「12年後……。」
今の時代にはこんな物は絶対にない。そう言えばトモたち3人はスマホを弄っている様子は一度も見なかった。12年後の世界からやってきた。トモのその言葉を、本当だったと信じずにはいられなかった。
「さ、行こう。」
トモの声で我に返る。もう少しで僕たちのシェアハウスに着く。手を繋いだままで車が途切れた道路を横断し、アスレチックが立ち並ぶ遊歩道へと足を踏み入れた。
「良かった……。」
胸からトモの呟きが聞こえてきて、何故だか鼻の奥が痛み涙が溢れてきた。恥ずかしくなってトモの背中に腕を回し、肩に顔を押し付ける。トモはゆっくりと僕の頭を撫でてくれた。
「帰ろう。」
「ん……。」
しばらくその状態でいて涙も止まった頃、トモが小さく呟いた。顔を離してトモを見上げると、優しく微笑んでいたトモに目元にキスをされた。
「また泣かせた。本当は違うところで啼かせたいんだけどな。」
「?」
トモが言った意味は何だろう? 頭の中で考えているうちに、トモはベンチに置いた手紙を取り上げてジーンズのポケットにしまうと、僕の右手を掴んで歩き出した。
『てっ、手? 手を繋いで帰るのか?』
街灯も少なくて辺りは闇に閉ざされてきたけど、周りをキョロキョロと伺わずにはいられなかった。トモは空いている右手を自分の顔のそばへ持ってきたかと思うと、一人でに話し始めた。
「あ、ユウか? ああ俺。上手くいった。心配かけた。」
えっ? ユウと話をしている? スマホを持っている様子もなかったトモの顔を横から覗き込む。トモは耳元を指で押さえるようにして話をしていた。
「ああ、ああ……。助かる。そうしてくれ、何でもいい。お前とリョウは?」
イヤフォン? いや、イヤフォンなんてしていなかったぞ? 疑問に思ってトモの顔を覗き込むのをやめられなかった。トモは僕の顔を見てウィンクすると、繋いだ手をギュッと握りしめてきた。
「はははっ! そうだな。今日はそうしてくれるとありがたい。……ああ。……ああ、分かった。」
ウ、ウィンクされたって騙されないぞ! トモのウィンクは少しだけ破壊力があった。顔が熱くなり正面に顔を戻す。ちょうど橋のバス停のところまで戻り、激しく行き交う車をやり過ごすために立ち止まった。
「どうした? 顔が赤いぞ?」
今度は反対に顔を覗き込まれる。さっきまでの優しい表情がどこかに消えて、悪戯を考えついたような表情で僕を見ていた。
「ゆ、ユウと話をしていたの?」
「ああ。……これ。」
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「さ、行こう。」
トモの声で我に返る。もう少しで僕たちのシェアハウスに着く。手を繋いだままで車が途切れた道路を横断し、アスレチックが立ち並ぶ遊歩道へと足を踏み入れた。
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