僕とオオカミどものシェアハウス

もこ

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教育実習四週目

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「俺は12年も待った。」
「トモ……。」

 俺の肩に顔を埋めてトモが話し始めた。微かに震えているのが伝わってくる。周りの景色は闇に閉ざされ、街灯に照らされた桜の木の葉だけが時折静かに揺れていた。

「ずっと忘れられなかった。大学に入ってからはカズを探したけれど、全然見つけられなかった。先生になっているだろうと、ユウに誘われた同級会にも顔を出したし、佐々木先生にも聞いてみたけど、何も分からなかった。」

 3年、いや4年後の僕? えっ? 僕はどこで何をしているんだ?

「このシェアハウスにもやってきたけど、カズはいなかった。それどころか誰も住んでいなくて売りに出されてた。」
「そ、そ、そうなの?」
「うん、大学の時。庭も手入れされてなくて草で覆われてた。」

 うん、って……。僕より大きな体で年上なくせに、何だか可愛い? やはり小池……あの小池基治なんだ。何故だか「うん」という呟きで、トモが小池だということがストンと胸の中に落ちていくような気がした。

「トモ、ほら小池? 僕を見て?」
 トモの顔が離れたと同時に、僕は立ち上がってトモの目の前に立った。トモも足の方向をかえて僕に向き合う。トモにジッと見つめられる。あの視線だ。小池からいつも受けていた、あの視線。

「僕は僕。まだ教育実習が終わったばかりで先生にもなってない。」
「うん。」
「先生になるのを諦めるつもりはないけど、将来はもしかしたら、違う職業に就いているのかもしれない。」
「うん、それで?」

 何だかまたドキドキしてくる……僕は、何を言うつもりなんだ?

「そっ、そっ、それでも…………いい?」
 気がついたら、僕の言葉を聞いた途端に素早く立ち上がったトモに、ギュッと抱きしめられていた。

「悪いわけないだろ? 俺の頭の中の時間は12年前ですっかり止まっていたんだ。こうしてまたカズに出会えて想いを伝えられる! 今の俺がどんなに幸せか分かるか? この腕の中にカズがいるんだ。今こうして……夢でもなく妄想でもなく。」

 頭を抱え込まれて、トモの肩に耳が押し付けられた。トモの鼓動を感じる。僕と同じように早鐘を打ってる。そしてこの温かさ……仄かに漂うムスクの香り。安心できるトモの……腕の中。

「カズもう一度告白する。好きだ、好きなんだ……。」
 トモの腕が離れ、大きな手で顔を包み込まれた。真っ正面から見つめ合う。いつの間にか囚われていた視線を恥ずかしがらないようにと、目に力を込めて見つめ返した。

「これからの人生、俺と一緒に過ごして?」

「……はい。よろしくお願いします。」

 ほ、他になんて返事ができる? 気づいてしまった、トモへの気持ち。短いようで長かったこの1か月。小池基治とトモ。まだまだ同一人物とは認められない部分はあるけれど、確かに濃密な時間をともに過ごした。自分の心の1番近いところにこの2人がいたんだ。

 トモの顔が少しだけ傾いて近づいてきた。目を瞑る。とても優しくて長い口付けを受け止めながら、少し冷たくなった風に揺られた桜の葉が、サーーと音を立てるのを聞いた。周りの桜の木々たちに祝福された、そんな気がした。
 
 
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