僕とオオカミどものシェアハウス

もこ

文字の大きさ
上 下
72 / 104
教育実習四週目

17

しおりを挟む
「えっ?」
 小池智治? えっ!? 基治って言った? 基治? 小池? 小池ってあの小池じゃないよな?

「カズにずっと会いたかった。」
 徐にトモの腕が伸びてきてすっぽりと体が覆われた。トモの温かい体温を感じる。何だか安心できると思いつつも、僕の頭の中は真っ白だった。

「ちょ、ちょっと待って。ちょっと待ってください。」
 僕の言葉でトモの力が緩んだ。腕の中からトモを見上げる。少し伸びた前髪から真摯な目が僕を見ていた。自信に満ち溢れていて、そして穏やかな目……。その目が何でも聞いて? と言っているような気がして少しだけ勇気が出てきた。

「もう一度名前を教えて?」
 僕の言葉に、視線を外さないままでトモが口を開いた。

「小池智治。ここには身寄りはいない。天涯孤独になる覚悟で、祖父母も元の世界も置いてきた。元の名は小池基治。12年前、カズに告白をして振られた男。」

「嘘だ。」
 咄嗟に言葉が転がり出ていた。そんなことあるはずがない。トモが小池? あの小池? そんな馬鹿なことあるはずがない。そう思うのに、トモの視線が外せない。いつの間にかこの1か月間で見慣れていた小池の視線と重なって見えてきた。そういえば、鼻の形も、目も、耳も……似ている?

『僕はどうかしてる。あの小池がトモだって? 夢でも見ているに違いない。』

「夢じゃない。」
 僕の思考がそのままトモの口から出てきて、飛び上がりそうになった。僕の体に腕を巻きつけたまま、トモが話し始めた。

「嘘じゃないんだ。昨日は小池基治の家族の葬式があったろ? そしてカズは担任を通じて基治に手紙を渡した。」
 身体中の血が重力に引っ張られ、目の前が暗くなって膝から崩れ落ちそうになる。どうしてトモが知っているんだ! 僕の体の力が抜けていったけれど、トモの腕がそれを許さないと力強く支えていた。

「『絶対に乗り越えられる。』そう手紙には書いてあった。その言葉で俺が、どのくらい勇気づけられたかわからない。家族を失ったことから、すぐに立ち直ることができた。時間が経つにつれて思い出にさえなった。けれども1つだけ、心から離れなかったことがある。……それがカズだ。」

「ど、ど、どうして?」
 やはり信じられない。手紙を渡してもらったことも事実だし、中にはその言葉も書いた。けれども信じることなどできなかった。

「ほら。」
 僕を支えていた右腕が離れて、ジーンズの後ろポケットから何かを取り出した。それは二つ折りになって、少しだけしわくちゃになった茶封筒だった。中から白い紙が出される。見覚えがありすぎる。

「ほら、見て?」
 トモが、僕を左腕で抱え込むようにして横に並び、目の前で手紙を広げた。


「小池基治君へ
 今君の気持ちを考えると、先生もとても辛くなる。本当は君のそばに行って励ましてあげたい。けれどもそれは叶わない。
 だから、気持ちを込めてこの手紙を書く。この手紙で僕の気持ちが伝わって、少しでも君の気持ちが明るくなれば嬉しい。
 『今の気持ちは絶対に乗り越えられる日が来るはずだ。』
 僕の知り合いの受け売りの言葉を使う。今は信じられない気がするだろうけれど、辛い時にはどうか思い出して欲しい。
 五十嵐和」

 その手紙をみた瞬間、全身に強い痺れが駆け抜けたような気がした。


 
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜

水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。 そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー ------------------------------- 松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳 カフェ・ルーシェのオーナー 横家大輝(よこやだいき) 27歳 サッカー選手 吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳 ファッションデザイナー ------------------------------- 2024.12.21~

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...