僕とオオカミどものシェアハウス

もこ

文字の大きさ
上 下
58 / 104
教育実習四週目

3

しおりを挟む
「トモさん、どうかしましたか?」
「……待ってた。」

 トモの呟きは微かに震えているような気がした。いつも冷静に、時には自信ありげに話すトモがだ。身体も少し熱い? やっぱり風邪でも引いたのだろうか?

「今日は僕がうどんを作ります。トモさん、少し横になっていてください。」
「もう少し……もう少しだけこのままでいて?」

 懇願されるように低い声で呟かれた言葉は肩から全身へと響いていった。力が抜ける。トモの抱擁を受け止めながら、どうやって元気づけようかと頭を働かせていた。トモは具合が悪いに違いない。密着した体から熱が伝わってくる。どうしたらいい?

「トモさん……熱は? おでこくっつけて?」
「…………。」

 ふっと体を離したトモが、驚いたような顔をしてこちらを見ていた。自分で前髪をかき上げながら、額を僕につけてくる。

「熱は……ないかな?」
 僕と額を合わせてもさほど熱いと感じない。整えられた眉と、意外と狭かった形の良い額に見惚れる。トモもやっぱりイケメンだ。

 気がつくと、自由になった腕を上げてトモの頬を包み込んでいた。少しだけ爪先立ちになって……何故か自分からキスをしていた。

『!』

 急に我に返って顔を離す。目を開くと、自分よりもっと驚いたような顔をしたトモの顔が目の前にあった。ぼ、僕……キスをした? えっ!? 自分から?

 鞄の左肩の紐がスズっとずり下がる。トモの顔を見つめながら、体が硬直して動かないでいた。頬から耳にかけて熱が広がる。ど、ど、どうしたらいい?

 トモが僕の肩から鞄を下ろして床に置いた。そして、さっき僕がしたように頬がトモの両手で包み込まれた。目を瞑る……自分でも分かっている。次に何がくるのか。自分が、何を期待しているのか。

 トモのキスを受け止めながら、どんどんと鼓動が速くなって、血が全身を隈なく移動しているのが感じられた。トモの舌が僕の唇に触れる。少しだけ開いた隙間から静かに僕の中に入ってきた。

「……ン……。」
 息が苦しくなって思わず声が出る。静かにトモの唇が離れていくと、また額をつけてきた。

「カズ……好きだ。……愛してる。ずっと、ずっと前から。」
「…………。」

 胸が破裂しそうだ。何か言いたくても何て言えばいいのか分からない。自分がした事とそれからトモにされた事で頭がいっぱいで思考が働かなかった。でも嫌じゃない。トモとキスをしても嫌じゃなかった。それだけはハッキリとしていた。

「カズ……。」
 またトモの唇が近づいてくる。もう一度、そう、僕も期待している。目を瞑った。トモの唇が重なり、すぐに強く吸い付かれた。今度は舌が遠慮なく僕の口内を犯す。でも嫌じゃなかった。身体中の熱が一点に集まってくるのを感じながら、僕もいつの間にかトモの舌を追いかけていた。

 ガチャ

「おっと……失礼!」

 バタン

 扉が開く音とユウの声に我に返る。扉の向こうで「おい、やっぱり先に車を置いてこよう! ……いいから。」とユウの声が聞こえた。トモの胸に頭をつけて肩で息をしながら、どうしたらいいか分からなくなっていた。ユウに、ユウに見られた!

 トモが僕の体を優しく引き寄せ、頭にキスをして呟いた。
「大丈夫。何も心配ない。」

 何を心配すればいいわけ? トモの温かい体温を感じながら、でもなお、混乱する頭では何も考えられなかった。
 

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜

水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。 そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー ------------------------------- 松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳 カフェ・ルーシェのオーナー 横家大輝(よこやだいき) 27歳 サッカー選手 吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳 ファッションデザイナー ------------------------------- 2024.12.21~

【完結】白い森の奥深く

N2O
BL
命を助けられた男と、本当の姿を隠した少年の恋の話。 本編/番外編完結しました。 さらりと読めます。 表紙絵 ⇨ 其間 様 X(@sonoma_59)

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

貢がせて、ハニー!

わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。 隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。 社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。 ※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8) ■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました! ■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。 ■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。

悩める文官のひとりごと

きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。 そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。 エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。 ムーンライト様にも掲載しております。 

鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?

桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。 前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。 ほんの少しの間お付き合い下さい。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...