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教育実習四週目
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3年2組の教室はあまり人は残っていなかった。廊下でおしゃべりをしたり、外へ遊びに行ったり。でもその中で小池は窓際の自席に座り、その前には長内と渡邊が立っていて、2人と楽しそうに話をしていた。小池の姿を見た瞬間、ほんのちょっとだけ鳩尾の所がツキンとした。……金曜日のことは僕の夢だったのかもしれない。
「小池、帰り支度をして一緒に来い。」
背後から近づくと女の子たちは急に黙り込み、僕の声を聞いた小池が座ったままで反射的に振り向いた。
「わー先生。何かありましたか?」
「家の方から電話があったらしい。佐々木先生に頼まれた。ごめん、先生もよく分からない。ちょっとだけ急いで。」
僕の顔を喰いいるように見ていた小池が、僕から視線を外し立ち上がりながら女の子たちに話しかけた。
「ごめん。俺、帰らなっきゃみたいだ。あと頼める?」
「いいよー。あと2人でやっとく。また明日ね。」
「ああ。また明日。」
女の子たちが席を離れ、小池も後ろのロッカーへ鞄を取りに行く。手際良く机の中のものを鞄に入れる小池を見ながら、急に何か言わなくてはいけないような気がした。何を? えっ? 僕は何をコイツに言いたいんだ? 急に焦り出した自分に戸惑う。でも気持ちとは裏腹に何も口に出せないまま小池の様子をただ立って見ているだけだった。
「できました。」
「あ、ああ。行こうか。」
鞄を背負った小池とともに廊下を黙って2人で歩く。階段に来たところで小池の方に顔を向けると、眼鏡の奥から見える小池の視線とぶつかった。だからこの視線が……この視線に弱いんだって。何故か小池からこの視線を向けられると身動きが取れなくなるような気がする。
でも何も話すことなく、自分でも何か話さないとと思いながらも思いつかず、結局無言のまま職員室までたどり着いた。慌てた様子の佐々木先生に小池が隣の相談室に連れて行かれた。僕はたった今頼まれた次のクラスの自習プリントを印刷するために、事務室に向かった。
家の裏側の扉を開いて敷地に入る。金曜日にトモとここをくぐり抜けた時、扉の開閉がスムーズにいくことに気づいた。また、リョウが直したのだろうか? 結局、今日の3時間目は僕が3年1組の自習を見守り、佐々木先生がやってきたのは授業が終わる頃だった。
話を聞くと、小池の両親が朝、幼い妹とともに交通事故に遭ったらしい。病院へ駆けつけた祖父母のうち、お祖父さんが小池を迎えにきた。そう佐々木先生から聞いた。何もできることはない。でも、今現在小池がどんな気持ちでいるのかと思うと、少しだけ心が痛んだ。
放課後の部活は体育館が使えないこともあって急遽中止になり、指導案もオーケーをもらってすることがなくなった僕は、久しぶりに5時台のバスに乗って帰ってきた。教育実習最初の日以来だ。
『灯りが点いている?』
そういえば、今日はトモが具合が悪いと朝から自室に閉じこもっていた。仕事は休んだのだろうか? 自分のことばかりで、何も考えずに出かけてきてしまった。リョウもユウも普段通りだったから尚更。
『トモの様子をみて、またうどんでも作ってあげようかな?』
もしかしたら、僕と同じように仕事終わりが早かっただけかもしれない。家にいるのがトモだとも限らない。でも何故かトモがそこにいるような気がした。
「ただいま帰りました。」
玄関には靴が一足、やはりトモだ。熱でもあるのだろうか? 玄関から上がってトモの靴の隣に自分のものを揃える。と同時にリビングのドアが開く音がした。立ち上がって振り向いた途端、そこにいたトモにギュッと抱きしめられた。
「…………お帰り。」
僕の肩に顔を埋めたトモが呟く声が耳に聞こえた。途端に心臓が肋骨を叩き出す。えっ? トモ……どうしたの?
でもトモが呟いた一言が何故か重く響いてきて、しばらく何もできずにそのままでいた。
「小池、帰り支度をして一緒に来い。」
背後から近づくと女の子たちは急に黙り込み、僕の声を聞いた小池が座ったままで反射的に振り向いた。
「わー先生。何かありましたか?」
「家の方から電話があったらしい。佐々木先生に頼まれた。ごめん、先生もよく分からない。ちょっとだけ急いで。」
僕の顔を喰いいるように見ていた小池が、僕から視線を外し立ち上がりながら女の子たちに話しかけた。
「ごめん。俺、帰らなっきゃみたいだ。あと頼める?」
「いいよー。あと2人でやっとく。また明日ね。」
「ああ。また明日。」
女の子たちが席を離れ、小池も後ろのロッカーへ鞄を取りに行く。手際良く机の中のものを鞄に入れる小池を見ながら、急に何か言わなくてはいけないような気がした。何を? えっ? 僕は何をコイツに言いたいんだ? 急に焦り出した自分に戸惑う。でも気持ちとは裏腹に何も口に出せないまま小池の様子をただ立って見ているだけだった。
「できました。」
「あ、ああ。行こうか。」
鞄を背負った小池とともに廊下を黙って2人で歩く。階段に来たところで小池の方に顔を向けると、眼鏡の奥から見える小池の視線とぶつかった。だからこの視線が……この視線に弱いんだって。何故か小池からこの視線を向けられると身動きが取れなくなるような気がする。
でも何も話すことなく、自分でも何か話さないとと思いながらも思いつかず、結局無言のまま職員室までたどり着いた。慌てた様子の佐々木先生に小池が隣の相談室に連れて行かれた。僕はたった今頼まれた次のクラスの自習プリントを印刷するために、事務室に向かった。
家の裏側の扉を開いて敷地に入る。金曜日にトモとここをくぐり抜けた時、扉の開閉がスムーズにいくことに気づいた。また、リョウが直したのだろうか? 結局、今日の3時間目は僕が3年1組の自習を見守り、佐々木先生がやってきたのは授業が終わる頃だった。
話を聞くと、小池の両親が朝、幼い妹とともに交通事故に遭ったらしい。病院へ駆けつけた祖父母のうち、お祖父さんが小池を迎えにきた。そう佐々木先生から聞いた。何もできることはない。でも、今現在小池がどんな気持ちでいるのかと思うと、少しだけ心が痛んだ。
放課後の部活は体育館が使えないこともあって急遽中止になり、指導案もオーケーをもらってすることがなくなった僕は、久しぶりに5時台のバスに乗って帰ってきた。教育実習最初の日以来だ。
『灯りが点いている?』
そういえば、今日はトモが具合が悪いと朝から自室に閉じこもっていた。仕事は休んだのだろうか? 自分のことばかりで、何も考えずに出かけてきてしまった。リョウもユウも普段通りだったから尚更。
『トモの様子をみて、またうどんでも作ってあげようかな?』
もしかしたら、僕と同じように仕事終わりが早かっただけかもしれない。家にいるのがトモだとも限らない。でも何故かトモがそこにいるような気がした。
「ただいま帰りました。」
玄関には靴が一足、やはりトモだ。熱でもあるのだろうか? 玄関から上がってトモの靴の隣に自分のものを揃える。と同時にリビングのドアが開く音がした。立ち上がって振り向いた途端、そこにいたトモにギュッと抱きしめられた。
「…………お帰り。」
僕の肩に顔を埋めたトモが呟く声が耳に聞こえた。途端に心臓が肋骨を叩き出す。えっ? トモ……どうしたの?
でもトモが呟いた一言が何故か重く響いてきて、しばらく何もできずにそのままでいた。
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