僕とオオカミどものシェアハウス

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教育実習三週目

16

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『おっ? トモかな?』
 下から物音が聞こえる。玄関で、たぶんトモが荷物を降ろしている。スマホで時刻を確認すると、11時半過ぎ。開けっ放しの窓からは爽やかな風が時折レースのカーテンを揺らし、部屋の中に新鮮な空気を届けてくれていた。手直しをしていた指導案をUSBの中のフォルダに上書きをして、トモの手伝いをしようと腰を上げた。

「お帰りなさい。手伝います。」
「ああ、頼む。車を置いてくる。」
 ちょうど5つ目の箱を持ってきたトモに声をかける。玄関の上り框の部分にダンボールを下ろすと、トモが笑顔を見せた。

『うっ、重いな……。』
 トモが軽々と持っていたから油断をしていたけれど、野菜の箱も魚や肉類の箱も重かった。まして大きなペットボトル8本を詰め込んだダンボールなんて、全然持ち上げられなかった。

「ありがとう。仕舞うのも手伝って?」
 4つ目の箱をようやくキッチンの床に置いて一息ついた時、トモがペットボトル入りの箱を軽々と持ちながらそこに入ってきた。地味に悔しい。あと1週間で実習も終わる。そしたら僕は、筋トレして……彼女を作るんだ!

 トモに指示を仰ぎながら食料を片付ける。舞茸、しめじ、椎茸にえのき……今回はきのこ類が多いな。舞茸ご飯なんかも美味いよな。そんな事を考えながら、食料の保管庫を中心に片付けを手伝っていった。

「昼にパスタを茹でる。ボンゴレとナポリタン、どっちがいい?」
「ナポリタンで!」

 ナポリタンは大好きだ。実家の母がよく作ってくれた。僕がニンマリ笑ってトモを見ると、トモも楽しそうな顔をしていた。

「俺のナポリタンにはトマトをそのまま入れるぞ? いいのか?」
「大丈夫!」
 
 昨日食べた楕円形のミニトマトは本当に美味しかった。僕はもうミニトマトを克服できたに違いない。自信を持ってトモを見ると声に出さずにクツクツ笑っていた。

「僕、もう少し学校での準備したくて。お昼お願いしてもいいですか?」
「……ああ……プッ。」

 笑いが止まらなそうなトモをほっといてキッチンを後にする。何か笑うポイントがあったわけ? けど、あまり笑わないトモの笑顔が見れて少しだけ得した気分。今のうちにもう少しだけ指導案を進めておこうと2階へ上がった。



 下からいい香りが漂ってきた。キッチンで動き回るトモの様子も微かに伝わってくる。風通しを良くしようと、部屋の扉を開け放しにしていた。

「おーーい、わー先生!」
「先生いるーー!?」

 パソコンの画面から目を離して耳を澄ませる。窓の外から声が聞こえた。そうだ、加納たちが来ると言ってたんだ。加納と五十嵐、菊池に小池……。急に昨日のことを思い出して心が震えた。どんな顔をして顔を出せばいいんだ? 2週間前、小池が滑り台の上でこちらを見上げていた事を思い出す。

「おーーい! せんせーーい!」
 部屋から顔を出すと言ったのは自分だ。窓も開いているんだし居留守を使う訳にはいかない。恐る恐る窓際に行って、カーテン越しに外を見る。アスレチックの滑り台の上や周りでこちらを見上げているのは4人。加納、五十嵐、菊池そして佐藤……小池の姿はそこには無かった。

「…………。」
 鼻の奥がツンと熱くなって戸惑う。でも意を決してカーテンを開けて、こちらを見上げている4人に手を振った。

「先生、降りてきてーー!」
 身振りでダメだと表現する。声を出すことはできなかった。自然と涙が出てきて手を思いっきり振った後に、遮光カーテンごと閉めてその場で俯いた。

『小池が来てない。』
 いつかの昼休み「行く。」と言っていた小池。今日来なかったのは僕のせい? 昨日拒絶をしてしまったから?

 誰も見ていないことを良いことに、あふれる涙をそのまま床に落として小池のことを考えていた。たぶん僕は傷つけたんだ。どうすれば良い? どこかに逃げたくても逃げ場はない。あと1週間の実習が残っている。

「カズ……。」
 どうしようもない思いで泣いていると、徐に後ろから誰かに抱きしめられた。


 
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