45 / 104
教育実習三週目
10
しおりを挟む
金曜日の放課後、僕が提出した指導案を見ると言っていた佐々木先生の代わりに、体育館にやってきていた。バドミントン部は個人が無理しない限り、そんなに大きなケガはしない。ただ、ふざけて遊びだす事がないように目を光らせといてくれ。そう頼まれていた。体育館は半面を男子バドミントン部、もう半面を女子バスケ部が使っていて、結構な賑わいを見せていた。
「最後、3年の守備練やるぞ! 5分間ずつ。加納から!」
部長の上地の一声でコートの周りに部員が移動し、指名された加納とその対面に1・2年生が3人並んだ。1:3での守備の強化練習。もうすぐ来る大会へ向けて3年生の技術の強化だ。今日はゲーム形式での練習はしないのか?
『上手いなあ。』
流石に俊足の加納だけある。ほとんど落とす事なくシャトルを拾い上げて返している。たまにコートの外に落ちたり、ネットに引っ掛けたりはするけど大したもんだ。
ピーー
「「「ありがとうございました!」」」
足の調子が悪くて練習に参加できない1年の井上が、僕の左隣で電子ホイッスルを鳴らした。3年は伊達が出てきて、1・2年も交代した。3年生の順番は大体同じ。だれも何も言わないうちにスッと交代している。1・2年生は少し揉めているようだ。伊達の相手をするもの以外、固まってジャンケンをし始めた。
「智也、やっぱり4分にして。時間がない。」
「はい。」
上地の声でハッとする。井上の名前って智也《ともや》だったっけ? 残り時間を計算したらしい上地の手腕と、練習メニューをちゃんと把握している部員たちの動きで、3年生全員が時間内に守備練を終了できた。
「五十嵐先生、お願いします。」
部活の最後、ダウンを終えて後片付けをし、僕の周りに集まる。今日は佐々木先生は来ない。上地が指示をして、ちゃんと練習メニューを終えられた。大したものだ。
「みんな、部長の指示を聞いてよく動いてた。ただ、1・2年生も守備練の時にはあらかじめ順番を決めていたらどうだ? 3人の時や2人の時があるだろ? 順番を決めていた方が、ジャンケンで時間を取る事もないと思うぞ?」
「「「はい。」」」
僕の言葉に全員が揃って返事をする。大会も近づいてきたからか、加納も結構真剣な表情だ。お前、そんな表情もできたんだな。
「じゃあ終わろ。みんな気をつけて帰れよ? 明日はいつも通り9時からな? じゃあ上地、よろしく。」
上地の終了の号令で皆が挨拶を返し、今日の練習が終わった。良かった。無事に終了だ。これから佐々木先生に指導案の指導を受けて……僕も明日と明後日は休みだ!
「わー先生、僕、うまかっただろ?」
「おう。めちゃくちゃ上手かったな? 大会頑張れよ?」
加納がまた後ろから飛びついてきたのを払いのけ、顔を見て言ってやる。大会は僕が実習を終えた次の週にある。こっそり応援に行ってやってもいいな。
満足そうに帰っていった加納を見送って、窓の鍵を確かめている上地に気づいた。
「あと先生やっておくからいいぞ? 上地も帰れ。」
「ありがとうございます。」
わらわらと体育館を後にしていく部員の後ろを追うように、上地も走って体育館から出て行った。今日はバスケ部女子がちょっとだけ早く終わったから、もう誰もいない。子どもたちの声がまだ残っているような気がしながら、一つ一つの窓を点検していった。
パタパタパタパタ
誰かが走ってくるような音が聞こえて、体育館の入り口を見る。忘れ物か? ん? 何もないぞ? 体育館をぐるりと見渡しても子どもたちの荷物は何もない。いつも誰かが忘れる水筒も今日は一つもない。
『?』
誰だ? と思っていると足音の主が体育館の入り口に現れた。
「最後、3年の守備練やるぞ! 5分間ずつ。加納から!」
部長の上地の一声でコートの周りに部員が移動し、指名された加納とその対面に1・2年生が3人並んだ。1:3での守備の強化練習。もうすぐ来る大会へ向けて3年生の技術の強化だ。今日はゲーム形式での練習はしないのか?
『上手いなあ。』
流石に俊足の加納だけある。ほとんど落とす事なくシャトルを拾い上げて返している。たまにコートの外に落ちたり、ネットに引っ掛けたりはするけど大したもんだ。
ピーー
「「「ありがとうございました!」」」
足の調子が悪くて練習に参加できない1年の井上が、僕の左隣で電子ホイッスルを鳴らした。3年は伊達が出てきて、1・2年も交代した。3年生の順番は大体同じ。だれも何も言わないうちにスッと交代している。1・2年生は少し揉めているようだ。伊達の相手をするもの以外、固まってジャンケンをし始めた。
「智也、やっぱり4分にして。時間がない。」
「はい。」
上地の声でハッとする。井上の名前って智也《ともや》だったっけ? 残り時間を計算したらしい上地の手腕と、練習メニューをちゃんと把握している部員たちの動きで、3年生全員が時間内に守備練を終了できた。
「五十嵐先生、お願いします。」
部活の最後、ダウンを終えて後片付けをし、僕の周りに集まる。今日は佐々木先生は来ない。上地が指示をして、ちゃんと練習メニューを終えられた。大したものだ。
「みんな、部長の指示を聞いてよく動いてた。ただ、1・2年生も守備練の時にはあらかじめ順番を決めていたらどうだ? 3人の時や2人の時があるだろ? 順番を決めていた方が、ジャンケンで時間を取る事もないと思うぞ?」
「「「はい。」」」
僕の言葉に全員が揃って返事をする。大会も近づいてきたからか、加納も結構真剣な表情だ。お前、そんな表情もできたんだな。
「じゃあ終わろ。みんな気をつけて帰れよ? 明日はいつも通り9時からな? じゃあ上地、よろしく。」
上地の終了の号令で皆が挨拶を返し、今日の練習が終わった。良かった。無事に終了だ。これから佐々木先生に指導案の指導を受けて……僕も明日と明後日は休みだ!
「わー先生、僕、うまかっただろ?」
「おう。めちゃくちゃ上手かったな? 大会頑張れよ?」
加納がまた後ろから飛びついてきたのを払いのけ、顔を見て言ってやる。大会は僕が実習を終えた次の週にある。こっそり応援に行ってやってもいいな。
満足そうに帰っていった加納を見送って、窓の鍵を確かめている上地に気づいた。
「あと先生やっておくからいいぞ? 上地も帰れ。」
「ありがとうございます。」
わらわらと体育館を後にしていく部員の後ろを追うように、上地も走って体育館から出て行った。今日はバスケ部女子がちょっとだけ早く終わったから、もう誰もいない。子どもたちの声がまだ残っているような気がしながら、一つ一つの窓を点検していった。
パタパタパタパタ
誰かが走ってくるような音が聞こえて、体育館の入り口を見る。忘れ物か? ん? 何もないぞ? 体育館をぐるりと見渡しても子どもたちの荷物は何もない。いつも誰かが忘れる水筒も今日は一つもない。
『?』
誰だ? と思っていると足音の主が体育館の入り口に現れた。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜
水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。
そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー
-------------------------------
松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳
カフェ・ルーシェのオーナー
横家大輝(よこやだいき) 27歳
サッカー選手
吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳
ファッションデザイナー
-------------------------------
2024.12.21~
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる