僕とオオカミどものシェアハウス

もこ

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教育実習三週目

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 ガラガラガラ、バン!

 思い切り閉められた反動で、引き戸のドアが10㎝ほどの隙間を開けた。僕はその音でハッとして、すぐにボクサーを身につけて、ドアを閉めて鍵をかけた。

『鍵をかけるの忘れてた……。』
 扉を背にしてずるずると座り込む。心臓が喉元にあるのかというぐらいドキドキしている。いつも風呂に入るのは最後だから、鍵なんか掛けたことがない。みんな、寝ているか自室で寛いでいるのか分からないけど、一度もここにやってきたことなど無いんだ。

『トモに、先に風呂をもらうって言ったんだけどな。』
 でも、長風呂をしていたのは確かだ。途中寝落ちしちゃったし、風呂から上がったと勘違いをしたのかもしれない。でも上がったら、お風呂が空いた事を知らせるのがルールだ。トモは待てなかったのかな? 

『男どうしなんだから、別に気にすることではないだろ?』
 ようやく動けるようになって、パジャマに腕を通しながら考える。修学旅行でも、大学の友だちと遊びで泊まりに行った時でも別に平気だった。トモだってノーマルなんだから、別に平気だろ? あれ? ノーマルだよな? 好きな女性《ひと》がいるって言ってたよな? 「先生」って……。

 トモの想い人を想像しようとして頭を振る。何故だか分からないけど、考えたくない。それよりもあの体。何故上半身裸で歩いてきたのか謎だけど、片腕に洗濯物や着替えを抱えているようだった。180㎝は優に超えている体と厚い胸板。腹筋も割れていない僕の体とは大違いだ。

『僕の腹筋……。』
 洗面台の前に行ってパジャマをめくり上げ、お腹に力を入れてみる。縦にうっすらと線が見える程度。トモの体にはしっかりと筋肉がついていたようだった。

『んーー、なんだか悔しいぞ?』
 逆上せたのか真っ赤に染まった顔と体を確認して、裾を下ろす。ズボンを履いて、脱いだものを洗濯機に放り込み、浴室を出た。

『とにかく、お茶を一杯飲もう。』
 リビングでトモも待っているかもしれない。キッチンのドアを開けて入り込み、リビングを見るが、明かりは点いていたものの誰もいなかった。冷蔵庫からお茶を取り出してコップに注ぎ、一気に飲む。

「ぷはーーっ!」
 一杯では足りなくて2杯目を注いでもう一度。喉が渇いた。シンクには沢山の食器が重ねられている。ホットプレートは誰かが洗ってくれたのか、綺麗になって作業台に置いてあった。食器洗いをしたいところだけど……。

『トモに声をかけなくちゃ。』
 コップをシンクの中に置いて、キッチンを出て階段を昇り、トモの部屋の前まで行った。

「トモさんお風呂上がりました。すみません、長湯してしまって。」
「……ああ。分かった。……ありがとう。」

 トモの声が聞こえて安心する。食器洗いを済ませて今日はもう寝よう。下に降りてキッチンへ戻り、腕まくりをして僕の担当の洗い物を始めた。

 沢山あった食器や鍋洗いも、30分ほどで済んだ。明日の朝ごはん用のご飯も仕掛けておこう。全部済ませても1時間はかからなかったけど、トモが降りてくる足音は聞こえなかった。

『もう一度声を掛けようかな?』
 手を拭いて、廊下に出て階段に向かいながら考える。洗面所の方からも音がしないし、まだトモは風呂には入っていないのだろう。

『でもな……。』
 さっきは声をかけて返事をもらったんだし、2回目は必要ないだろう。声はかけない事に決め、自分の部屋に入ってロフトに上がった。

『あ、歯磨き忘れた。』
 布団に潜り込んだ時に気づいたけれど、またトモと鉢合わせするのだけは避けたい。夜中に目が覚めたら磨くことに決めて、結局そのまま朝までぐっすりと寝てしまった。


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