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教育実習一週目
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お昼を食べ終わって食器洗いを引き受けた後、僕は自室で教材研究の続きをすることにした。ユウが淹れてくれたコーヒーのマグを持って2階へ上がる。自分の部屋のテーブルにマグを置いたとき、窓の外がうるさい事に気づいた。
『若者の声だな。…………!』
何気なく窓から外を見下ろして、途端に固まって凝視してしまった。1,2,3……7人の中学生たちが、家裏の河川敷のアスレチックで遊んでいた。僕が行ってる中学校のジャージだ!
『上地、三井、小池、加納、そしてあれは鈴木? 伊達と佐藤もいるのか?』
全員がバドミントン部の3年生。ようやく苗字を覚えたところだ。みんなで2つのアスレチックとその間に広がる芝生の上で、鬼ごっこをしているようだった。
『まだまだガキだな。』
無邪気に遊んでいる様子に笑いが込み上げる。今は加納が鬼のようだ。アイツは足が速い。チビのくせに瞬発力も抜群だ。ほら、三井が捕まった。
『三井は足が遅いからなあ。』
鬼ごっこの様子をほのぼのと観察し、ふと視線を真下に移すと、途端に体の中で心臓の音が1つ、大きく鳴り響いた。
『小池……っ!』
滑り台の一番上に上がってこちらをジッと見てくる奴、3年2組の学級委員長、いつも冷静な小池だった。ヤバイ……。あれは絶対に俺を見てるよな? カーテンを閉めるか? いや、アイツは目が悪い。メガネの奥の目が俺を捉えているとは限らない。
カーテンを閉めるかどうか迷っているうちに、鬼から逃げてきた加納が小池の隣に上がってきた。小池の視線を不思議そうに眺めた加納がこちらを見上げる。
「わー先生!!」
シャッ
無邪気な笑顔で振られた手に、今度こそカーテンを閉めて窓を背にした。
『やっちゃった……。』
絶対にバレた。しばらくこのままでいよう。部屋の灯りをつけて床に座る。今日遊びに来るって聞いていたんだ。これを回避するために部屋に引き籠ろうとしていたはずなのに。
『僕は何も見ていない。何もなかった。大丈夫だ。』
そう自分に言い聞かせて、テーブルの上の教科書とノートを開き、問題を解き始める。あと半分ほど。1時間もあれば終わるに違いない。そしたら、授業の1時間分ごとに区切って、授業の流れを組み立てるんだ。
ピンポーン
外での子どもたちの声が気にならなくなってきた頃に、家のインターフォンの音がしてビクリと体が揺れた。
「はーい。」
ユウの声がする。任せておいて大丈夫だろう。玄関で客と話をしているようだ。子どもの声が聞こえてきたような気がするのは気のせいに違いない。そうしているうちに、階段を昇ってくる足音が聞こえて、部屋のドアがノックされた。
「カズ、開けてもいい?」
「はい、大丈夫です。」
鉛筆を持ったまま顔を上げると、ユウがドアを開いて顔を覗かせた。
「カズが今行ってる中学校の子どもたちが、会いたいって来てるんだけど、どうする?」
「今は、無理だって言ってください。」
やっぱりか……。バレちゃった。あんなに注意しようとしていたはずなのに、自分の間抜けさにがっかりしながら、ユウに頼んだ。
「だよねーー。分かった。」
何故だかユウは非常に面白いことがあったような顔で、ニヤニヤしながらドアを閉めていった。何がそんなに楽しいんだか。それに王子様はニヤニヤしてても様になるんだな。何故か自分にがっかりしながら、クッションを1つ抱え込んで床に寝転がった。
『若者の声だな。…………!』
何気なく窓から外を見下ろして、途端に固まって凝視してしまった。1,2,3……7人の中学生たちが、家裏の河川敷のアスレチックで遊んでいた。僕が行ってる中学校のジャージだ!
『上地、三井、小池、加納、そしてあれは鈴木? 伊達と佐藤もいるのか?』
全員がバドミントン部の3年生。ようやく苗字を覚えたところだ。みんなで2つのアスレチックとその間に広がる芝生の上で、鬼ごっこをしているようだった。
『まだまだガキだな。』
無邪気に遊んでいる様子に笑いが込み上げる。今は加納が鬼のようだ。アイツは足が速い。チビのくせに瞬発力も抜群だ。ほら、三井が捕まった。
『三井は足が遅いからなあ。』
鬼ごっこの様子をほのぼのと観察し、ふと視線を真下に移すと、途端に体の中で心臓の音が1つ、大きく鳴り響いた。
『小池……っ!』
滑り台の一番上に上がってこちらをジッと見てくる奴、3年2組の学級委員長、いつも冷静な小池だった。ヤバイ……。あれは絶対に俺を見てるよな? カーテンを閉めるか? いや、アイツは目が悪い。メガネの奥の目が俺を捉えているとは限らない。
カーテンを閉めるかどうか迷っているうちに、鬼から逃げてきた加納が小池の隣に上がってきた。小池の視線を不思議そうに眺めた加納がこちらを見上げる。
「わー先生!!」
シャッ
無邪気な笑顔で振られた手に、今度こそカーテンを閉めて窓を背にした。
『やっちゃった……。』
絶対にバレた。しばらくこのままでいよう。部屋の灯りをつけて床に座る。今日遊びに来るって聞いていたんだ。これを回避するために部屋に引き籠ろうとしていたはずなのに。
『僕は何も見ていない。何もなかった。大丈夫だ。』
そう自分に言い聞かせて、テーブルの上の教科書とノートを開き、問題を解き始める。あと半分ほど。1時間もあれば終わるに違いない。そしたら、授業の1時間分ごとに区切って、授業の流れを組み立てるんだ。
ピンポーン
外での子どもたちの声が気にならなくなってきた頃に、家のインターフォンの音がしてビクリと体が揺れた。
「はーい。」
ユウの声がする。任せておいて大丈夫だろう。玄関で客と話をしているようだ。子どもの声が聞こえてきたような気がするのは気のせいに違いない。そうしているうちに、階段を昇ってくる足音が聞こえて、部屋のドアがノックされた。
「カズ、開けてもいい?」
「はい、大丈夫です。」
鉛筆を持ったまま顔を上げると、ユウがドアを開いて顔を覗かせた。
「カズが今行ってる中学校の子どもたちが、会いたいって来てるんだけど、どうする?」
「今は、無理だって言ってください。」
やっぱりか……。バレちゃった。あんなに注意しようとしていたはずなのに、自分の間抜けさにがっかりしながら、ユウに頼んだ。
「だよねーー。分かった。」
何故だかユウは非常に面白いことがあったような顔で、ニヤニヤしながらドアを閉めていった。何がそんなに楽しいんだか。それに王子様はニヤニヤしてても様になるんだな。何故か自分にがっかりしながら、クッションを1つ抱え込んで床に寝転がった。
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