6 / 104
教育実習一週目
2
しおりを挟む
『適当に授業を流しているように見えて、結構押さえてるところはキチンと教えてるんだよな。』
僕は、3年2組の子どもたちを引き連れてランチルームに来ていた。体育館の半分ほどあるここで、全学年で昼食をとる。当番が分けてくれた給食を自分でトレーに乗せていく仕組み。テーブルはどこを選んでもいい。異学年交流で、仲良くするのが狙いなのだとか。
これまでに、佐々木先生や、吉村先生、森田先生とベテランの先生方の授業を一通り見せてもらった。森田先生は毎回ワークプリントを準備して、きっちり授業を進めるけど、僕の趣味じゃない。やっぱりノートに書かせた方が……。
「わー先生、こっち!」
「ん? ああ。」
気がつくと、1つのテーブルを占領していた子どもたちから声がかけられていた。今日のメニューはポークカレーに福神漬け、フルーツヨーグルトに……トマトが2切れ。
『どうしてトマト? あれ? 給食って火を通したものしか出さないんじゃなかったっけ?』
小鉢に入ったトマトに視線を奪われながら、呼ばれたテーブルに近づいていった。
「先生、ここ座って。」
「ありがとう。」
1番端の空いている場所にトレーを乗せて見渡すと、3年2組の男子たちが顔を揃えていた。僕を呼んだのは色黒の……。
「菊池くんだったよね?」
「そう、当たり。全員覚えた?」
「いや……。」
まだまだだ。目の前にいる五十嵐《いからし》と、その隣の加納、僕の隣の菊池は覚えた。でもその他は遠くに座っている小池、あとその隣の三井ぐらいか。
「いただきます。」
スプーンを取ってカレーを掬う。給食のカレーは家で作るのと一味違う。ある程度の辛さはあるけど甘い。フルーティな甘さ。昔、りんごをすりおろすカレールーのCMを見たことがあるけど、実際に入ってるのかな?
「わー先生、中学の時って部活何してた?」
「和《かず》先生。す、水泳……?」
五十嵐に声をかけられて、思わず声が小さくなる。結構得意だった水泳も、部活動では全然通用しないと知って、早々と諦めた。
「へぇ、すげー。泳げるんだ?」
「い、いや。一年でやめたし。」
スイミングスクールで得意だと思っていた平泳ぎも、全然ダメだった。やっぱり体格のいい奴には太刀打ちできない。中学では背が小さい方だったし。
「なんで?」
「ドクター……ストップ?」
お願いだから、それ以上掘り下げないでくれ。今でも平均には届かない身長。結構なコンプレックスなんだ。
「へぇ、体弱いんだ? これもらい。」
斜め前からスプーンを出して、加納が僕のトマトを1つ奪っていった。
「おい、こらっ!」
隣の菊池が声を荒げる。でも僕には好都合。
「あ、菊池くんも食べる? いいよ。」
残りの一個。菊池くんに押しつけて、苦手なトマトがバレることなく食べずに済んだ。
僕は、3年2組の子どもたちを引き連れてランチルームに来ていた。体育館の半分ほどあるここで、全学年で昼食をとる。当番が分けてくれた給食を自分でトレーに乗せていく仕組み。テーブルはどこを選んでもいい。異学年交流で、仲良くするのが狙いなのだとか。
これまでに、佐々木先生や、吉村先生、森田先生とベテランの先生方の授業を一通り見せてもらった。森田先生は毎回ワークプリントを準備して、きっちり授業を進めるけど、僕の趣味じゃない。やっぱりノートに書かせた方が……。
「わー先生、こっち!」
「ん? ああ。」
気がつくと、1つのテーブルを占領していた子どもたちから声がかけられていた。今日のメニューはポークカレーに福神漬け、フルーツヨーグルトに……トマトが2切れ。
『どうしてトマト? あれ? 給食って火を通したものしか出さないんじゃなかったっけ?』
小鉢に入ったトマトに視線を奪われながら、呼ばれたテーブルに近づいていった。
「先生、ここ座って。」
「ありがとう。」
1番端の空いている場所にトレーを乗せて見渡すと、3年2組の男子たちが顔を揃えていた。僕を呼んだのは色黒の……。
「菊池くんだったよね?」
「そう、当たり。全員覚えた?」
「いや……。」
まだまだだ。目の前にいる五十嵐《いからし》と、その隣の加納、僕の隣の菊池は覚えた。でもその他は遠くに座っている小池、あとその隣の三井ぐらいか。
「いただきます。」
スプーンを取ってカレーを掬う。給食のカレーは家で作るのと一味違う。ある程度の辛さはあるけど甘い。フルーティな甘さ。昔、りんごをすりおろすカレールーのCMを見たことがあるけど、実際に入ってるのかな?
「わー先生、中学の時って部活何してた?」
「和《かず》先生。す、水泳……?」
五十嵐に声をかけられて、思わず声が小さくなる。結構得意だった水泳も、部活動では全然通用しないと知って、早々と諦めた。
「へぇ、すげー。泳げるんだ?」
「い、いや。一年でやめたし。」
スイミングスクールで得意だと思っていた平泳ぎも、全然ダメだった。やっぱり体格のいい奴には太刀打ちできない。中学では背が小さい方だったし。
「なんで?」
「ドクター……ストップ?」
お願いだから、それ以上掘り下げないでくれ。今でも平均には届かない身長。結構なコンプレックスなんだ。
「へぇ、体弱いんだ? これもらい。」
斜め前からスプーンを出して、加納が僕のトマトを1つ奪っていった。
「おい、こらっ!」
隣の菊池が声を荒げる。でも僕には好都合。
「あ、菊池くんも食べる? いいよ。」
残りの一個。菊池くんに押しつけて、苦手なトマトがバレることなく食べずに済んだ。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜
水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。
そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー
-------------------------------
松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳
カフェ・ルーシェのオーナー
横家大輝(よこやだいき) 27歳
サッカー選手
吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳
ファッションデザイナー
-------------------------------
2024.12.21~
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる