5 / 104
教育実習一週目
1
しおりを挟む
「わー先生、出席取るの? 大丈夫?」
「わーじゃない。和《かず》だっ! ほら、席につきなよ。」
今日は教育実習2日目。「朝の時間、少し遅れるから出席取ってて。」と指導教官の佐々木先生に頼まれて、出席簿を片手に3年2組の教室に入った。教卓の周りに集まってた子どもたちに席につくように声をかけると、一番派手な容姿をした女の子が最後までグズグズして声をかけてきた。
「出席をとるぞ。」
まだ子どもの名前は覚えてない。昨日は朝と帰りのホームルームと、授業を1時間だけ見学させてもらったけど、それで覚えようだなんて無理な話だ。今日は出席取りを任せてもらってラッキーかも。名前と顔が確認できる。
「浅川玲美。」
「はい。」
1番派手な子は浅川……。この子は昨日も絡んできた。馴れ馴れしいんだって。黙っていれば美人なのにな。
「五十嵐剛。」
「センセ、いからし。」
「へっ?」
「『いからし』つよしだって。」
「いからし」? 自分と同じ苗字だから「いがらし」だとばかり思い込んでた。名前って……面白いな!
俄然やる気が湧いてきて、元気に次の名前を呼んだ。
「長内沙那。」
「はい。」
黒髪ストレートの女の子。校則に従って長い髪を1つに束ねているけど、相当な長さだ。腰のあたりまであるんじゃないか?
「加納遼太郎。」
「はい。」
『うげっ!』
体を横にして生意気そうな視線をよこした奴。チビで色白で、目が大きい。てっきり女の子だと思って話しかけたのがいけなかったらしい。昨日の心労はコイツのせいだ。
「菊池佑介。」
「はい。」
へぇ、菊池佑介っていうんだ。あまり目立たない。全然頭に入ってなかった顔。整った顔立ちしているけど、長い髪が邪魔してる。色が黒い。野球部か……サッカー部?
「小池基治。」
「はい。」
あ、こいつは覚えてる。学級委員長をやってる奴。佐々木先生のとこに来て話をしていた。メガネをかけて、結構背が高いけど姿勢が悪い。ちょっぴり暗そうな奴だ。
「佐藤俊輔。」
「はい。」
色白の細い奴。このクラスで1番髪が茶色い。……染めてないだろうな!?
それから淡々と出席を取り、最後の28番、「渡邊優里」まで無事に出席を取ることができた。
「わー先生、みんなの名前覚えた?」
担任の佐々木先生が登場して無事に朝の短学活が終わると、ニヤニヤしながらら1人の男の子がそばに寄ってきた。昨日ずっと睨まれていたような気がした奴。僕の心労の中心だった。
「『かず』だから。そんなにいっぺんに覚えられるわけないだろ? あ、でも君の名前は覚えた。……えっと、りょう、遼太郎だ!」
「正解。苗字は?」
「え? か、か、加藤……?」
覚えたはずの苗字がなかなか出てこず、声が尻すぼみに小さくなっていった。
「違うよ。」
「えーー、ちょっと待って。思い出す。」
「加納です。先生。」
必死に脳みそを動かそうとした瞬間、横からちょっぴり低い声が聞こえた。学級委員長、小池だ。
「基治、バラすな!」
加納が小池の脇腹に拳を入れようとするのをスッとかわして、小池がこちらを見た。
「先生、ここにいていいんですか?」
「あっ!」
1時間めは2年生を担当している吉村先生に数学の授業を見せてもらうんだった! 慌てた僕は、「ありがとう。」と礼だけをして教室を飛び出し、職員室へ向かった。
「わーじゃない。和《かず》だっ! ほら、席につきなよ。」
今日は教育実習2日目。「朝の時間、少し遅れるから出席取ってて。」と指導教官の佐々木先生に頼まれて、出席簿を片手に3年2組の教室に入った。教卓の周りに集まってた子どもたちに席につくように声をかけると、一番派手な容姿をした女の子が最後までグズグズして声をかけてきた。
「出席をとるぞ。」
まだ子どもの名前は覚えてない。昨日は朝と帰りのホームルームと、授業を1時間だけ見学させてもらったけど、それで覚えようだなんて無理な話だ。今日は出席取りを任せてもらってラッキーかも。名前と顔が確認できる。
「浅川玲美。」
「はい。」
1番派手な子は浅川……。この子は昨日も絡んできた。馴れ馴れしいんだって。黙っていれば美人なのにな。
「五十嵐剛。」
「センセ、いからし。」
「へっ?」
「『いからし』つよしだって。」
「いからし」? 自分と同じ苗字だから「いがらし」だとばかり思い込んでた。名前って……面白いな!
俄然やる気が湧いてきて、元気に次の名前を呼んだ。
「長内沙那。」
「はい。」
黒髪ストレートの女の子。校則に従って長い髪を1つに束ねているけど、相当な長さだ。腰のあたりまであるんじゃないか?
「加納遼太郎。」
「はい。」
『うげっ!』
体を横にして生意気そうな視線をよこした奴。チビで色白で、目が大きい。てっきり女の子だと思って話しかけたのがいけなかったらしい。昨日の心労はコイツのせいだ。
「菊池佑介。」
「はい。」
へぇ、菊池佑介っていうんだ。あまり目立たない。全然頭に入ってなかった顔。整った顔立ちしているけど、長い髪が邪魔してる。色が黒い。野球部か……サッカー部?
「小池基治。」
「はい。」
あ、こいつは覚えてる。学級委員長をやってる奴。佐々木先生のとこに来て話をしていた。メガネをかけて、結構背が高いけど姿勢が悪い。ちょっぴり暗そうな奴だ。
「佐藤俊輔。」
「はい。」
色白の細い奴。このクラスで1番髪が茶色い。……染めてないだろうな!?
それから淡々と出席を取り、最後の28番、「渡邊優里」まで無事に出席を取ることができた。
「わー先生、みんなの名前覚えた?」
担任の佐々木先生が登場して無事に朝の短学活が終わると、ニヤニヤしながらら1人の男の子がそばに寄ってきた。昨日ずっと睨まれていたような気がした奴。僕の心労の中心だった。
「『かず』だから。そんなにいっぺんに覚えられるわけないだろ? あ、でも君の名前は覚えた。……えっと、りょう、遼太郎だ!」
「正解。苗字は?」
「え? か、か、加藤……?」
覚えたはずの苗字がなかなか出てこず、声が尻すぼみに小さくなっていった。
「違うよ。」
「えーー、ちょっと待って。思い出す。」
「加納です。先生。」
必死に脳みそを動かそうとした瞬間、横からちょっぴり低い声が聞こえた。学級委員長、小池だ。
「基治、バラすな!」
加納が小池の脇腹に拳を入れようとするのをスッとかわして、小池がこちらを見た。
「先生、ここにいていいんですか?」
「あっ!」
1時間めは2年生を担当している吉村先生に数学の授業を見せてもらうんだった! 慌てた僕は、「ありがとう。」と礼だけをして教室を飛び出し、職員室へ向かった。
0
お気に入りに追加
32
あなたにおすすめの小説
切なくて、恋しくて〜zielstrebige Liebe〜
水無瀬 蒼
BL
カフェオーナーである松倉湊斗(まつくらみなと)は高校生の頃から1人の人をずっと思い続けている。その相手は横家大輝(よこやだいき)で、大輝は大学を中退してドイツへサッカー留学をしていた。その後湊斗は一度も会っていないし、連絡もない。それでも、引退を決めたら迎えに来るという言葉を信じてずっと待っている。
そんなある誕生日、お店の常連であるファッションデザイナーの吉澤優馬(よしざわゆうま)に告白されーー
-------------------------------
松倉湊斗(まつくらみなと) 27歳
カフェ・ルーシェのオーナー
横家大輝(よこやだいき) 27歳
サッカー選手
吉澤優馬(よしざわゆうま) 31歳
ファッションデザイナー
-------------------------------
2024.12.21~
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
貢がせて、ハニー!
わこ
BL
隣の部屋のサラリーマンがしょっちゅう貢ぎにやって来る。
隣人のストレートな求愛活動に困惑する男子学生の話。
社会人×大学生の日常系年の差ラブコメ。
※現時点で小説の公開対象範囲は全年齢となっております。しばらくはこのまま指定なしで更新を続ける予定ですが、アルファポリスさんのガイドラインに合わせて今後変更する場合があります。(2020.11.8)
■2024.03.09 2月2日にわざわざサイトの方へ誤変換のお知らせをくださった方、どうもありがとうございました。瀬名さんの名前が僧侶みたいになっていたのに全く気付いていなかったので助かりました!
■2024.03.09 195話/196話のタイトルを変更しました。
■2020.10.25 25話目「帰り道」追加(差し込み)しました。話の流れに変更はありません。
悩める文官のひとりごと
きりか
BL
幼い頃から憧れていた騎士団に入りたくても、小柄でひ弱なリュカ・アルマンは、学校を卒業と同時に、文官として騎士団に入団する。方向音痴なリュカは、マルーン副団長の部屋と間違え、イザーク団長の部屋に入り込む。
そこでは、惚れ薬を口にした団長がいて…。
エチシーンが書けなくて、朝チュンとなりました。
ムーンライト様にも掲載しております。
鈍感モブは俺様主人公に溺愛される?
桃栗
BL
地味なモブがカーストトップに溺愛される、ただそれだけの話。
前作がなかなか進まないので、とりあえずリハビリ的に書きました。
ほんの少しの間お付き合い下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる