117 / 134
4:3年と3か月前
1
しおりを挟む
体育館で待ってた奏さんと合流し、器具庫に入る扉を抜けて新田さんの待つ「D」の部屋に戻った。
「お疲れ!」
「お世話になりました。またお願いします。」
「はいよー!」
一瞬立ち止まって挨拶した奏さんの後を追うように、俺たちも礼だけして「D」の部屋を抜け、白い部屋へと降り立った。
「あれ……?『K』の部屋は?」
螺旋階段を降りようとする奏さんに声をかける。洸一さんが待ってるはず。
「ここは、1年と4か月前。洸一や俺自身に会ってはマズイ。急ごう。」
まだ何が何だか分からなかったが、急いで階段を降りていく奏さんの後に続いた。駿也も何も言わずに俺の後ろをついてくる。モールのバックヤードの受付を通って外に出た。
「ふうっ! ちょっとだけ安心した。けど……走るぞ。」
「今何時?」
「1時……13分。でも関係ない。」
奏さんの後を走りながら駿也に話しかける。コンパスの長さの違いか、駿也は余裕がある。ちょっとだけ悔しい。
さっき「K」の部屋から出てきたと思しき物置小屋に着いた。こうやって見ると、2メートル四方ぐらいの何の変哲もない、ただのコンクリートでできた物置小屋に見える。入り口と植木の間に入り込んで引き戸を開けた。
「あれっ? こんなでしたっけ?」
一歩足を踏み入れると、駐車場で使うものだろう、赤と白の縞模様になったロードコーンと、黒と黄色の仕切り棒が雑多に詰め込んであった。右側に人が通れる隙間がある。奏さんは何も言わずにそこを通って壁の裏側に入って行った。
「この奥に扉があるんだ。行こう。」
駿也に手を掴まれて裏側に入ると、ポッカリ空いた空間から「K」の部屋を見る事ができた。けど、目の前に……抱き合う洸一さんと奏さん。呆気に取られているうちに、音もなく入り口が閉まっていった。
「ね、奏さんと洸一さんって……。」
「ああ、結婚してる。洸一さんは開発者。奏さんは昔から開発部で仕上げた技術を体験する仕事をしていたみたいだ。俺も……ここに就職して洸一さんのような開発者になりたいと思ってる。」
そして望と一緒に年を重ねていきたい。そう言って体を引き寄せられ、ギュッと抱きしめられた。
「お、お、俺も……。駿也と一緒がいい。」
メガネが邪魔をしていつものように顔が埋められない。けど、駿也の温かさと爽やかな香りは堪能できる。俺は駿也の背中に腕を回してギュッと抱きついた。
「望の髪……お日さまの匂いがする。初めて嗅いだ日から……忘れられない。」
耳をつけた胸から声が響いてくる。駿也は俺の頭に顔を乗せていた。お日さま? 帽子の上からでも分かるわけ? 自分で自分の髪の匂いが嗅げるわけじゃない。毎日のようにシャンプーしてるけど……俺の髪ってお日さまの香りなのか? 毎日照らされているから?
「ごめん、お待たせ。」
『見られた!』
いつの間にか顔が真っ赤になった奏さんが扉を開けていた。今度は俺の顔が沸騰する。俺は、駿也から体を離して前に立ち、扉を潜った。
「お疲れ!」
「お世話になりました。またお願いします。」
「はいよー!」
一瞬立ち止まって挨拶した奏さんの後を追うように、俺たちも礼だけして「D」の部屋を抜け、白い部屋へと降り立った。
「あれ……?『K』の部屋は?」
螺旋階段を降りようとする奏さんに声をかける。洸一さんが待ってるはず。
「ここは、1年と4か月前。洸一や俺自身に会ってはマズイ。急ごう。」
まだ何が何だか分からなかったが、急いで階段を降りていく奏さんの後に続いた。駿也も何も言わずに俺の後ろをついてくる。モールのバックヤードの受付を通って外に出た。
「ふうっ! ちょっとだけ安心した。けど……走るぞ。」
「今何時?」
「1時……13分。でも関係ない。」
奏さんの後を走りながら駿也に話しかける。コンパスの長さの違いか、駿也は余裕がある。ちょっとだけ悔しい。
さっき「K」の部屋から出てきたと思しき物置小屋に着いた。こうやって見ると、2メートル四方ぐらいの何の変哲もない、ただのコンクリートでできた物置小屋に見える。入り口と植木の間に入り込んで引き戸を開けた。
「あれっ? こんなでしたっけ?」
一歩足を踏み入れると、駐車場で使うものだろう、赤と白の縞模様になったロードコーンと、黒と黄色の仕切り棒が雑多に詰め込んであった。右側に人が通れる隙間がある。奏さんは何も言わずにそこを通って壁の裏側に入って行った。
「この奥に扉があるんだ。行こう。」
駿也に手を掴まれて裏側に入ると、ポッカリ空いた空間から「K」の部屋を見る事ができた。けど、目の前に……抱き合う洸一さんと奏さん。呆気に取られているうちに、音もなく入り口が閉まっていった。
「ね、奏さんと洸一さんって……。」
「ああ、結婚してる。洸一さんは開発者。奏さんは昔から開発部で仕上げた技術を体験する仕事をしていたみたいだ。俺も……ここに就職して洸一さんのような開発者になりたいと思ってる。」
そして望と一緒に年を重ねていきたい。そう言って体を引き寄せられ、ギュッと抱きしめられた。
「お、お、俺も……。駿也と一緒がいい。」
メガネが邪魔をしていつものように顔が埋められない。けど、駿也の温かさと爽やかな香りは堪能できる。俺は駿也の背中に腕を回してギュッと抱きついた。
「望の髪……お日さまの匂いがする。初めて嗅いだ日から……忘れられない。」
耳をつけた胸から声が響いてくる。駿也は俺の頭に顔を乗せていた。お日さま? 帽子の上からでも分かるわけ? 自分で自分の髪の匂いが嗅げるわけじゃない。毎日のようにシャンプーしてるけど……俺の髪ってお日さまの香りなのか? 毎日照らされているから?
「ごめん、お待たせ。」
『見られた!』
いつの間にか顔が真っ赤になった奏さんが扉を開けていた。今度は俺の顔が沸騰する。俺は、駿也から体を離して前に立ち、扉を潜った。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
処女姫Ωと帝の初夜
切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。
七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。
幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・
『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。
歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。
フツーの日本語で書いています。
オトナの玩具
希京
BL
12歳のカオルは塾に行く途中、自転車がパンクしてしまい、立ち往生しているとき車から女に声をかけられる。
塾まで送ると言ってカオルを車に乗せた女は人身売買組織の人間だった。
売られてしまったカオルは薬漬けにされて快楽を与えられているうちに親や教師に怒られるという強迫観念がだんだん消えて自我が無くなっていく。
彼女ができたら義理の兄にめちゃくちゃにされた
おみなしづき
BL
小学生の時に母が再婚して義理の兄ができた。
それが嬉しくて、幼い頃はよく兄の側にいようとした。
俺の自慢の兄だった。
高二の夏、初めて彼女ができた俺に兄は言った。
「ねぇ、ハル。なんで彼女なんて作ったの?」
俺は兄にめちゃくちゃにされた。
※最初からエロです。R18シーンは*表示しておきます。
※R18シーンの境界がわからず*が無くともR18があるかもしれません。ほぼR18だと思って頂ければ幸いです。
※いきなり拘束、無理矢理あります。苦手な方はご注意を。
※こんなタイトルですが、愛はあります。
※追記……涼の兄の話をスピンオフとして投稿しました。二人のその後も出てきます。よろしければ、そちらも見てみて下さい。
※作者の無駄話……無くていいかなと思い削除しました。お礼等はあとがきでさせて頂きます。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
食事届いたけど配達員のほうを食べました
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか?
そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。
近親相姦メス堕ちショタ調教 家庭内性教育
オロテンH太郎
BL
これから私は、父親として最低なことをする。
息子の蓮人はもう部屋でまどろんでいるだろう。
思えば私は妻と離婚してからというもの、この時をずっと待っていたのかもしれない。
ひそかに息子へ劣情を向けていた父はとうとう我慢できなくなってしまい……
おそらく地雷原ですので、合わないと思いましたらそっとブラウザバックをよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる