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4:「K」の部屋
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「イヤホン……ですか。」
駿也も手に取って珍しそうに眺めている。小さくて、耳の中にすっぽりと収まる形状。こんなに小さいのは見たことがないかもしれない。
「今回はこれを試すって事で、俺も同行するんだ。洸一? 聞こえる?」
奏さんが真っ先に耳に入れて話し出した。
「ああ、聞こえる。」
駿也と俺も耳に差し込んだ。うまい具合に耳に密着している。
「扉を通ると、確実に声は小さくなるはずだ。俺の声が聞こえるか?」
「「はい。」」
その声の大きさにびっくりする。声が小さくなってちょうどいいのかもしれない。洸一さんを見ると、ヘッドホンにマイクをつけたもので話しながら、パソコンの画面を見ていた。
「1人ずつ話してくれ。」
「俺は? いい?」
「ああ、さっきで確認できた。」
奏さんはオーケーみたいだ。駿也と2人で顔を見合わせる。駿也に促されたような気がして俺から話すことにした。
「望です。聞こえますか?」
「ああ、大丈夫。」
「駿也です。よろしくお願いします。」
「聞こえた。」
ヘッドホンを外すと、洸一さんが立ち上がってこちらを向いた。
「まずは1年と4か月前だ。奏はほぼ安全だが、駿也と望はリスクが伴う。絶対に知り合いに会うな。これを被れ。」
洸一さんが机の一番下の引き出しから、帽子を2つ取り出した。黒とグレーの帽子。鍔が長くて結構カッコいい。
「俺こっち。はい、駿也。」
俺はグレーの方を選んだ。駿也から貰ったTシャツを着ている。黒のダウンの中だから合わせたことにはならないかもだけど、何となく……。駿也は黒の革ジャンを着ている。きっと合うだろう。
「お前たち、上着は脱げ。9月だ。よく考えろ。」
洸一さんの言葉にハッとする。1年と4か月前に行くって言ってたんだ。半袖でちょうどいい。
ダウンを脱いでその下のシャツも脱ぎ、Tシャツ一枚になった。1月終わりの室内は、暖房が付いていても肌寒い。一気に鳥肌が立った。
「寒……。」
思わず両腕を擦る。革ジャンとシャツを脱いだ駿也が後ろから俺の腕に手を伸ばした。
「温かい……。」
駿也の手が俺の腕を上下する。駿也は確実に俺よりも体温が高い。いつも温かく包み込んでくれるんだ……。
「さ、行くよ。その帽子、Tシャツにピッタリだな。」
奏さんがこちらを見て笑っていた。何だか急に恥ずかしくなってきた。駿也が俺の右手を掴む。俺は駿也を見上げた。よし、行く……。
「奏……。」
声が聞こえて後ろを振り返る。洸一さんが奏さんを包み込むようにそっと抱きしめて、耳元で何か囁いていた。
「わ、分かったから。洸一っ! ……うん、絶対にしない。ヤバくなったら呼ぶから。あ、あの…………2人が見てるからっ!」
「……行くよっ!」
洸一さんを無理矢理引き剥がした奏さんが、何ごともなかったかのように言って窓の方に向かった。後ろから見える耳まで真っ赤だ。
『奏さんの結婚相手って……。』
駿也を見ると、俺の顔を見て頷き、ニッコリ笑った。俺たちも奏さんの後に続く。窓は真っ青な空と入道雲が映し出されていた。
驚いたことに、窓の左側の壁に扉があった。俺たちは、ぽっかりと空いた出口から、少しだけ暗い空間へと入って行った。
駿也も手に取って珍しそうに眺めている。小さくて、耳の中にすっぽりと収まる形状。こんなに小さいのは見たことがないかもしれない。
「今回はこれを試すって事で、俺も同行するんだ。洸一? 聞こえる?」
奏さんが真っ先に耳に入れて話し出した。
「ああ、聞こえる。」
駿也と俺も耳に差し込んだ。うまい具合に耳に密着している。
「扉を通ると、確実に声は小さくなるはずだ。俺の声が聞こえるか?」
「「はい。」」
その声の大きさにびっくりする。声が小さくなってちょうどいいのかもしれない。洸一さんを見ると、ヘッドホンにマイクをつけたもので話しながら、パソコンの画面を見ていた。
「1人ずつ話してくれ。」
「俺は? いい?」
「ああ、さっきで確認できた。」
奏さんはオーケーみたいだ。駿也と2人で顔を見合わせる。駿也に促されたような気がして俺から話すことにした。
「望です。聞こえますか?」
「ああ、大丈夫。」
「駿也です。よろしくお願いします。」
「聞こえた。」
ヘッドホンを外すと、洸一さんが立ち上がってこちらを向いた。
「まずは1年と4か月前だ。奏はほぼ安全だが、駿也と望はリスクが伴う。絶対に知り合いに会うな。これを被れ。」
洸一さんが机の一番下の引き出しから、帽子を2つ取り出した。黒とグレーの帽子。鍔が長くて結構カッコいい。
「俺こっち。はい、駿也。」
俺はグレーの方を選んだ。駿也から貰ったTシャツを着ている。黒のダウンの中だから合わせたことにはならないかもだけど、何となく……。駿也は黒の革ジャンを着ている。きっと合うだろう。
「お前たち、上着は脱げ。9月だ。よく考えろ。」
洸一さんの言葉にハッとする。1年と4か月前に行くって言ってたんだ。半袖でちょうどいい。
ダウンを脱いでその下のシャツも脱ぎ、Tシャツ一枚になった。1月終わりの室内は、暖房が付いていても肌寒い。一気に鳥肌が立った。
「寒……。」
思わず両腕を擦る。革ジャンとシャツを脱いだ駿也が後ろから俺の腕に手を伸ばした。
「温かい……。」
駿也の手が俺の腕を上下する。駿也は確実に俺よりも体温が高い。いつも温かく包み込んでくれるんだ……。
「さ、行くよ。その帽子、Tシャツにピッタリだな。」
奏さんがこちらを見て笑っていた。何だか急に恥ずかしくなってきた。駿也が俺の右手を掴む。俺は駿也を見上げた。よし、行く……。
「奏……。」
声が聞こえて後ろを振り返る。洸一さんが奏さんを包み込むようにそっと抱きしめて、耳元で何か囁いていた。
「わ、分かったから。洸一っ! ……うん、絶対にしない。ヤバくなったら呼ぶから。あ、あの…………2人が見てるからっ!」
「……行くよっ!」
洸一さんを無理矢理引き剥がした奏さんが、何ごともなかったかのように言って窓の方に向かった。後ろから見える耳まで真っ赤だ。
『奏さんの結婚相手って……。』
駿也を見ると、俺の顔を見て頷き、ニッコリ笑った。俺たちも奏さんの後に続く。窓は真っ青な空と入道雲が映し出されていた。
驚いたことに、窓の左側の壁に扉があった。俺たちは、ぽっかりと空いた出口から、少しだけ暗い空間へと入って行った。
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