上 下
66 / 134
2:好きな人は?

2

しおりを挟む
「「いらっしゃいませ。」」
隣のレジに入っていた津村君と声が被った。津村君は大学1年生。俺と同じ大学の経済学部だ。
『田崎さん!』
入り口を見ると、田崎さんがこちらを見て軽く頷いてから、飲料が並ぶエリアに歩いて行った。

『俺の所に来るかな?』
少しだけドキドキしている。店の中には雑誌のコーナーで彷徨いている客が2人。レジはガラ空きだ。混んでいる時は、タイミングが悪くて隣に行ってしまう事があるけど、空いている時は必ずと言っていいほど俺の前に来る。

『来た!』
ただの偶然かもしれないのに、顔が崩れる。嬉しい。こっちに来てくれた。津村君も雑誌を持ってきた客に対応を始めていた。

「田崎さん、バイト終わりですか?」
お茶のバーコードを読み取らせながら、話しかける。今日は半袖のVネックのTシャツ一枚。そういえば、田崎さんはVネックが多い。俺も着てみるかな? 

「ああ、終わり。」
「いいなあ。俺も今日は9時で終わりなんだけど、交代のバイトさんが来ないんですよ。」
交代する予定の齋藤さんが遅れていた。休むと連絡はないから必ず来るはず。店長の田中さんから、バイトを始めたばかりの津村君を1人にしないように言い渡されているから、帰りたくても帰れない。

「大変だな。」
「ええ。あっ、来た!」
バックヤードから急足でこちらに向かってくる齋藤さんが見えた。ごめん、と言っているように顔の前で手を合わせている。齋藤さんは夜の部の責任者。ほぼ毎日と言っていいほど入っている。30代後半のベテランだ。

「望、これで終わりだろ? 向かいのカフェで一緒にコーヒーでも飲まないか?」
齋藤さんに気を取られていた俺は、一瞬何を言われたか分からなかった。えっ!? 望? ま、待って。今……誘われた?

「是非! この前オープンしたとこでしょ? 一度行ってみたかったんですよね。ちょっと待っててください!」
笑顔が全開になっているのが、鏡を見なくても分かる。田崎さんに誘われた! 2人でカフェでお茶を……。
「ああ。外で待ってる。」
冷たいお茶を掴んで、田崎さんが外に出て行った。

「佐々川君、ごめんな! これお詫びの印。」
隣に来た齋藤さんからチョコを手渡され、上の空で受け取った。田崎さんとカフェ……何を飲もうかなっ!?

「ありがとうございます。あとお願いします。」
おざなりにお礼を言って、カウンターから出てバックヤードに向かう。制服を脱いで、パーカーを羽織って……。いや、このパーカーは変だ。このTシャツだけの方が……。いつもの黒のTシャツにジーンズ。もっと違う格好をしてくりゃ良かった。せめて、買ったばかりのあのTシャツなら良かったのに……。

俺はパーカーをバッグに詰めると、財布とスマホを確認して、急いで外に出た。
「お待たせしました! 行きましょう。」
田崎さんはコンビニ前に置いてあるリサイクルボックスにペットボトルを入れていたところだった。俺の姿を見ると、優しく笑ってくれたように感じた。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

束の間のアル《廃王子様は性欲ゼロなのに熱・愛・中!?》

ハートリオ
BL
『夫は妻、その他の家族の同意のもと愛人を持って良しとする。 但し、相手は同性に限る。』 α王国にそんな愛人制度が出来て約50年‥‥‥ 『もしも貴族であるならば、 夫たるもの、愛人を持たねばならぬ。』 それが男性貴族の常識となっているという。 美少年の館 ”ドルチェ ”は貴族男性専門の愛人相談所。 アルはそこで事務員として働いています。 ある日、ドルチェ事務所にエリダヌス伯爵夫妻が訪ねて来て… ドルチェのオーナー・デネブ様、エリダヌス伯爵・シリウス様、 そしてアル。 三人の出会いは必然でした。 前世から続く永遠の愛…の予定でしたが、予定外の事だらけ。 三人は、呪いを解いて、永遠の愛を続けたい! 王族、高位貴族をを中心に魔力持ちがいる、異世界です。 魔力持ちは少なく特別な存在です。 ドレスに馬車…そんな中世ヨーロッパ的な世界観です。 BLというより、恋愛ジャンルかなと思うのですが、どうなんだろうと思いながら一応BLジャンルにしますが、違っていたらごめんなさい。 ファンタジー‥でもないかな…難しいですね。

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

帝国皇子のお婿さんになりました

クリム
BL
 帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。  そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。 「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」 「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」 「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」 「うん、クーちゃん」 「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」  これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

おっさん家政夫は自警団独身寮で溺愛される

月歌(ツキウタ)
BL
妻に浮気された上、離婚宣告されたおっさんの話。ショックか何かで、異世界に転移してた。異世界の自警団で、家政夫を始めたおっさんが、色々溺愛される話。 ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

(…二度と浮気なんてさせない)

らぷた
BL
「もういい、浮気してやる!!」 愛されてる自信がない受けと、秘密を抱えた攻めのお話。 美形クール攻め×天然受け。 隙間時間にどうぞ!

すべてはあなたを守るため

高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです

傾国の美青年

春山ひろ
BL
僕は、ガブリエル・ローミオ二世・グランフォルド、グランフォルド公爵の嫡男7歳です。オメガの母(元王子)とアルファで公爵の父との政略結婚で生まれました。周りは「運命の番」ではないからと、美貌の父上に姦しくオメガの令嬢令息がうるさいです。僕は両親が大好きなので守って見せます!なんちゃって中世風の異世界です。設定はゆるふわ、本文中にオメガバースの説明はありません。明るい母と美貌だけど感情表現が劣化した父を持つ息子の健気な奮闘記?です。他のサイトにも掲載しています。

処理中です...