上 下
7 / 134
1:欅葉祭

4

しおりを挟む
「望!」
昼食が終わり、テーブルの上を片付けようと席を立った途端に後ろから声をかけられた。反射的に顔を向けると、そこには伸一がいた。

「おーい。俺を置いて昼メシとったなぁ?」
「お前、いなかったじゃん。」
伸一は朝一からのシフトで俺たちと入れ代わり、後は自由だと他の友だちと遊びに行ったはず。

「望は俺のモノって言ったろ? 良太、俺に断りを入れろ。」
「「はあーっ?」」
俺の肩に腕を回して、良太に文句を言ってる。思わずついて出た言葉は良太と重なった。

「誰がお前のモノだよっ!」
「望は誰のものでもないだろ。少なくともお前のモノじゃないぞ?」
2人の言葉にも動じず、伸一が呑気に言葉を続けた。

「美久がさ、探してたぜ? 何か渡したいものがあるんだって。」
「美久ちゃん?」
何だろう……? 渡したいもの? んー、分からん。
「預かってないの?」
伸一の両腕をキョロキョロと確認するが、何も持っていなかった。

「何だか直接渡したいって、手紙みたいなの持ってウロウロしてたな。さっき、3年2組で他の子とお茶してたからさ、まだいるんじゃね?」
「ん。じゃ行ってみる。」
隆介や雅人と行動を共にしていたらしい伸一に席を譲って3階の自分たちの教室まで歩いて行った。



階段を昇って3階までたどり着いた途端に、美久ちゃんとその友だちと鉢合わせした。

「あ、ちょうど良かった! 望くん来て。渡したいものがあるの。美羽ちゃん、先行っててくれる?」
どこかに行くことが決まっていたのか、美久ちゃんの友だちはすぐに俺たちから離れて行った。何かあるのかと、俺も良太に教室で待っててもらうように話して美久ちゃんの後ろからついて行く。

「どうしたの?」
南校舎と北校舎を結ぶ連絡通路にある第一理科室のドアの前で立ち止まった美久ちゃんに訊ねる。
「あのね、去年のステージ発表の時に私のスマホで写真を撮ってたんだけど、これ……この人……この写真だけは、どうしても隆介君に見えないの……。私、変?」
美久ちゃんが左手に握りしめていた封筒から取り出したその写真には、王子様の格好をした駿也の横顔が小さく写っていた。

「こ、これ……。」
絶対に駿也だ。間違いない。ちょうど倒れた俺のそばに駆け寄るところ……。跪こうとしたところを舞台の袖から撮ったやつ……。やっぱり駿也は……いた。指先から小さな震えが全身に広がった。
「やっぱり隆介君だよね?」
美久ちゃんの言葉にハッとする。……なんて言う? 去年の一時期、みんなから「どうしたんだ?」と散々言われたことが頭に蘇る。ここで駿也の名前を出しても同じに違いない。

「いや……。ね、美久ちゃん、この写真俺にくれない?」
「えっ? 隆介くんの写真なら他に5,6枚あるけど?」
俺の言葉に、美久ちゃんがキョトンとした顔をした。いや、俺は隆介の写真が欲しいわけじゃないし……。

「いや、これがいい。俺も写ってるし……。」
ルーズショットで撮った写真には、下の方に横たわる俺が写っていた。黄色のスカートが目立つ。
「元のデータは全部消しちゃったけど、これは何だか不思議な写真だからいいわ。望くんにあげる。」

俺はこの日、1年ぶりに、美久ちゃんの好意によって、駿也が絶対にいたという証拠を手に入れた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

処女姫Ωと帝の初夜

切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。  七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。  幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・  『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。  歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。  フツーの日本語で書いています。

彼女ができたら義理の兄にめちゃくちゃにされた

おみなしづき
BL
小学生の時に母が再婚して義理の兄ができた。 それが嬉しくて、幼い頃はよく兄の側にいようとした。 俺の自慢の兄だった。 高二の夏、初めて彼女ができた俺に兄は言った。 「ねぇ、ハル。なんで彼女なんて作ったの?」 俺は兄にめちゃくちゃにされた。 ※最初からエロです。R18シーンは*表示しておきます。 ※R18シーンの境界がわからず*が無くともR18があるかもしれません。ほぼR18だと思って頂ければ幸いです。 ※いきなり拘束、無理矢理あります。苦手な方はご注意を。 ※こんなタイトルですが、愛はあります。 ※追記……涼の兄の話をスピンオフとして投稿しました。二人のその後も出てきます。よろしければ、そちらも見てみて下さい。 ※作者の無駄話……無くていいかなと思い削除しました。お礼等はあとがきでさせて頂きます。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

女装してパパ活してたら、親戚のおじさんに遭遇してしまった件

雲丹はち
BL
議員の息子であり高校で生徒会長をしている侑一。 小遣い稼ぎに女顔なのをいいことにパパ活してたら親戚のおじさんにうっかり遭遇。 釈明するも、おじさんはなぜかやる気満々で……?

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

嘘の日の言葉を信じてはいけない

斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
嘘の日--それは一年に一度だけユイさんに会える日。ユイさんは毎年僕を選んでくれるけど、毎回首筋を噛んでもらえずに施設に返される。それでも去り際に彼が「来年も選ぶから」と言ってくれるからその言葉を信じてまた一年待ち続ける。待ったところで選ばれる保証はどこにもない。オメガは相手を選べない。アルファに選んでもらうしかない。今年もモニター越しにユイさんの姿を見つけ、選んで欲しい気持ちでアピールをするけれど……。

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

処理中です...