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1:欅葉祭
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「望!」
昼食が終わり、テーブルの上を片付けようと席を立った途端に後ろから声をかけられた。反射的に顔を向けると、そこには伸一がいた。
「おーい。俺を置いて昼メシとったなぁ?」
「お前、いなかったじゃん。」
伸一は朝一からのシフトで俺たちと入れ代わり、後は自由だと他の友だちと遊びに行ったはず。
「望は俺のモノって言ったろ? 良太、俺に断りを入れろ。」
「「はあーっ?」」
俺の肩に腕を回して、良太に文句を言ってる。思わずついて出た言葉は良太と重なった。
「誰がお前のモノだよっ!」
「望は誰のものでもないだろ。少なくともお前のモノじゃないぞ?」
2人の言葉にも動じず、伸一が呑気に言葉を続けた。
「美久がさ、探してたぜ? 何か渡したいものがあるんだって。」
「美久ちゃん?」
何だろう……? 渡したいもの? んー、分からん。
「預かってないの?」
伸一の両腕をキョロキョロと確認するが、何も持っていなかった。
「何だか直接渡したいって、手紙みたいなの持ってウロウロしてたな。さっき、3年2組で他の子とお茶してたからさ、まだいるんじゃね?」
「ん。じゃ行ってみる。」
隆介や雅人と行動を共にしていたらしい伸一に席を譲って3階の自分たちの教室まで歩いて行った。
階段を昇って3階までたどり着いた途端に、美久ちゃんとその友だちと鉢合わせした。
「あ、ちょうど良かった! 望くん来て。渡したいものがあるの。美羽ちゃん、先行っててくれる?」
どこかに行くことが決まっていたのか、美久ちゃんの友だちはすぐに俺たちから離れて行った。何かあるのかと、俺も良太に教室で待っててもらうように話して美久ちゃんの後ろからついて行く。
「どうしたの?」
南校舎と北校舎を結ぶ連絡通路にある第一理科室のドアの前で立ち止まった美久ちゃんに訊ねる。
「あのね、去年のステージ発表の時に私のスマホで写真を撮ってたんだけど、これ……この人……この写真だけは、どうしても隆介君に見えないの……。私、変?」
美久ちゃんが左手に握りしめていた封筒から取り出したその写真には、王子様の格好をした駿也の横顔が小さく写っていた。
「こ、これ……。」
絶対に駿也だ。間違いない。ちょうど倒れた俺のそばに駆け寄るところ……。跪こうとしたところを舞台の袖から撮ったやつ……。やっぱり駿也は……いた。指先から小さな震えが全身に広がった。
「やっぱり隆介君だよね?」
美久ちゃんの言葉にハッとする。……なんて言う? 去年の一時期、みんなから「どうしたんだ?」と散々言われたことが頭に蘇る。ここで駿也の名前を出しても同じに違いない。
「いや……。ね、美久ちゃん、この写真俺にくれない?」
「えっ? 隆介くんの写真なら他に5,6枚あるけど?」
俺の言葉に、美久ちゃんがキョトンとした顔をした。いや、俺は隆介の写真が欲しいわけじゃないし……。
「いや、これがいい。俺も写ってるし……。」
ルーズショットで撮った写真には、下の方に横たわる俺が写っていた。黄色のスカートが目立つ。
「元のデータは全部消しちゃったけど、これは何だか不思議な写真だからいいわ。望くんにあげる。」
俺はこの日、1年ぶりに、美久ちゃんの好意によって、駿也が絶対にいたという証拠を手に入れた。
昼食が終わり、テーブルの上を片付けようと席を立った途端に後ろから声をかけられた。反射的に顔を向けると、そこには伸一がいた。
「おーい。俺を置いて昼メシとったなぁ?」
「お前、いなかったじゃん。」
伸一は朝一からのシフトで俺たちと入れ代わり、後は自由だと他の友だちと遊びに行ったはず。
「望は俺のモノって言ったろ? 良太、俺に断りを入れろ。」
「「はあーっ?」」
俺の肩に腕を回して、良太に文句を言ってる。思わずついて出た言葉は良太と重なった。
「誰がお前のモノだよっ!」
「望は誰のものでもないだろ。少なくともお前のモノじゃないぞ?」
2人の言葉にも動じず、伸一が呑気に言葉を続けた。
「美久がさ、探してたぜ? 何か渡したいものがあるんだって。」
「美久ちゃん?」
何だろう……? 渡したいもの? んー、分からん。
「預かってないの?」
伸一の両腕をキョロキョロと確認するが、何も持っていなかった。
「何だか直接渡したいって、手紙みたいなの持ってウロウロしてたな。さっき、3年2組で他の子とお茶してたからさ、まだいるんじゃね?」
「ん。じゃ行ってみる。」
隆介や雅人と行動を共にしていたらしい伸一に席を譲って3階の自分たちの教室まで歩いて行った。
階段を昇って3階までたどり着いた途端に、美久ちゃんとその友だちと鉢合わせした。
「あ、ちょうど良かった! 望くん来て。渡したいものがあるの。美羽ちゃん、先行っててくれる?」
どこかに行くことが決まっていたのか、美久ちゃんの友だちはすぐに俺たちから離れて行った。何かあるのかと、俺も良太に教室で待っててもらうように話して美久ちゃんの後ろからついて行く。
「どうしたの?」
南校舎と北校舎を結ぶ連絡通路にある第一理科室のドアの前で立ち止まった美久ちゃんに訊ねる。
「あのね、去年のステージ発表の時に私のスマホで写真を撮ってたんだけど、これ……この人……この写真だけは、どうしても隆介君に見えないの……。私、変?」
美久ちゃんが左手に握りしめていた封筒から取り出したその写真には、王子様の格好をした駿也の横顔が小さく写っていた。
「こ、これ……。」
絶対に駿也だ。間違いない。ちょうど倒れた俺のそばに駆け寄るところ……。跪こうとしたところを舞台の袖から撮ったやつ……。やっぱり駿也は……いた。指先から小さな震えが全身に広がった。
「やっぱり隆介君だよね?」
美久ちゃんの言葉にハッとする。……なんて言う? 去年の一時期、みんなから「どうしたんだ?」と散々言われたことが頭に蘇る。ここで駿也の名前を出しても同じに違いない。
「いや……。ね、美久ちゃん、この写真俺にくれない?」
「えっ? 隆介くんの写真なら他に5,6枚あるけど?」
俺の言葉に、美久ちゃんがキョトンとした顔をした。いや、俺は隆介の写真が欲しいわけじゃないし……。
「いや、これがいい。俺も写ってるし……。」
ルーズショットで撮った写真には、下の方に横たわる俺が写っていた。黄色のスカートが目立つ。
「元のデータは全部消しちゃったけど、これは何だか不思議な写真だからいいわ。望くんにあげる。」
俺はこの日、1年ぶりに、美久ちゃんの好意によって、駿也が絶対にいたという証拠を手に入れた。
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