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俺は時を超える
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アルコールが回っているのか望の体温が高い。8月も終わりに近づいたが、夜になっても蒸し暑く、密着しているTシャツがかなり汗ばんできた。望の体は俺の両腕の中にすっぽり収まった。想像していた通り……。
『……。』
俺はこんなところで何をしてるんだ?望の頭に頬を寄せて、これからどうしようか考え始めた時、望の腕がピクンと揺れた。
『起きたか?』
望の頭が頬の下でゆっくりと持ち上がる気配がした。頭から顔を退けると、望がゆっくりと顔を上げて俺の顔を見た。
「………」
そのまま、またゆっくりと顔を下に向けたが、今度は俺の胸に密着させるのを躊躇っているように感じた。
「望?……起きた?」
同じ姿勢のままで聞いてみる。
「……はい。」
体を離して顔を覗き込む。支えなくとも立っていられるようだった。望の顔が真っ赤だ。
「ここ、どこだか分かるか?」
俺の問いに赤い顔の望がゆっくりと周りを見る。そしてまた俯いた。
「FOURですよね……いつの間に……」
「お前、駅前のベンチで潰れていたんだ。初めての酒、飲まされすぎだろ。」
「ああ……そうだ。駿也さんと会ったんですよね?……夢かと思った。」
口調がしっかりしてきた。酔いが覚めてきたのだろう。何か飲ませないと、後がひどくなる。
「家を聞いたら、ここの近くだと言ってたんだ。帰るぞ?……送る。」
望の腕を掴んで歩き出そうとしたが、望は動こうとしなかった。
「い、いや……。もう大丈夫です。すみません、駿也さん。迷惑かけて。」
「迷惑なんかじゃない。送る。行くぞ。どっちだ?」
まだ足元がおぼつかない望の腕を支えながら歩き出す。望も今度は抵抗しなかった。望が指を差した方に足を進めた。
「今日は誕生日で……。」
「知ってる。」
500メートルほど住宅街を歩いたところの小さな店の前に自販機があり、少し休もうとペットボトルの水を買って、望に渡した。2人で店前のベンチに腰掛ける。
「友だちが奢りだと祝ってくれて……。」
「ああ……。」
「気持ち悪くなって、トイレに行った後に逃げてきちゃいました。」
そうか。友だちが放っておいた訳ではなかったのか。憤っていた思いが静まっていくのを感じた。なら、逆に急にいなくなってしまった望を心配しているかもしれない。
「友だちに連絡しなくて大丈夫なのか?心配してるんじゃないか?」
「たぶん駅に着いた時にメールしたような……。」
望は、ポケットからスマホを取り出すと、画面を操作して確かめているようだった。
「大丈夫です。メールしてました。」
「そうか……。」
これでひとまず安心だろう。後は望を家に送り届けるだけ……。少しでも一緒の時間を引き伸ばしたい、そんな思いで俺も買ったペットボトルの蓋を開けた。
『……。』
俺はこんなところで何をしてるんだ?望の頭に頬を寄せて、これからどうしようか考え始めた時、望の腕がピクンと揺れた。
『起きたか?』
望の頭が頬の下でゆっくりと持ち上がる気配がした。頭から顔を退けると、望がゆっくりと顔を上げて俺の顔を見た。
「………」
そのまま、またゆっくりと顔を下に向けたが、今度は俺の胸に密着させるのを躊躇っているように感じた。
「望?……起きた?」
同じ姿勢のままで聞いてみる。
「……はい。」
体を離して顔を覗き込む。支えなくとも立っていられるようだった。望の顔が真っ赤だ。
「ここ、どこだか分かるか?」
俺の問いに赤い顔の望がゆっくりと周りを見る。そしてまた俯いた。
「FOURですよね……いつの間に……」
「お前、駅前のベンチで潰れていたんだ。初めての酒、飲まされすぎだろ。」
「ああ……そうだ。駿也さんと会ったんですよね?……夢かと思った。」
口調がしっかりしてきた。酔いが覚めてきたのだろう。何か飲ませないと、後がひどくなる。
「家を聞いたら、ここの近くだと言ってたんだ。帰るぞ?……送る。」
望の腕を掴んで歩き出そうとしたが、望は動こうとしなかった。
「い、いや……。もう大丈夫です。すみません、駿也さん。迷惑かけて。」
「迷惑なんかじゃない。送る。行くぞ。どっちだ?」
まだ足元がおぼつかない望の腕を支えながら歩き出す。望も今度は抵抗しなかった。望が指を差した方に足を進めた。
「今日は誕生日で……。」
「知ってる。」
500メートルほど住宅街を歩いたところの小さな店の前に自販機があり、少し休もうとペットボトルの水を買って、望に渡した。2人で店前のベンチに腰掛ける。
「友だちが奢りだと祝ってくれて……。」
「ああ……。」
「気持ち悪くなって、トイレに行った後に逃げてきちゃいました。」
そうか。友だちが放っておいた訳ではなかったのか。憤っていた思いが静まっていくのを感じた。なら、逆に急にいなくなってしまった望を心配しているかもしれない。
「友だちに連絡しなくて大丈夫なのか?心配してるんじゃないか?」
「たぶん駅に着いた時にメールしたような……。」
望は、ポケットからスマホを取り出すと、画面を操作して確かめているようだった。
「大丈夫です。メールしてました。」
「そうか……。」
これでひとまず安心だろう。後は望を家に送り届けるだけ……。少しでも一緒の時間を引き伸ばしたい、そんな思いで俺も買ったペットボトルの蓋を開けた。
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