上 下
30 / 34
俺は時を超える

7

しおりを挟む
アルコールが回っているのか望の体温が高い。8月も終わりに近づいたが、夜になっても蒸し暑く、密着しているTシャツがかなり汗ばんできた。望の体は俺の両腕の中にすっぽり収まった。想像していた通り……。

『……。』
俺はこんなところで何をしてるんだ?望の頭に頬を寄せて、これからどうしようか考え始めた時、望の腕がピクンと揺れた。

『起きたか?』
望の頭が頬の下でゆっくりと持ち上がる気配がした。頭から顔を退けると、望がゆっくりと顔を上げて俺の顔を見た。
「………」
そのまま、またゆっくりと顔を下に向けたが、今度は俺の胸に密着させるのを躊躇っているように感じた。

「望?……起きた?」
同じ姿勢のままで聞いてみる。
「……はい。」
体を離して顔を覗き込む。支えなくとも立っていられるようだった。望の顔が真っ赤だ。

「ここ、どこだか分かるか?」
俺の問いに赤い顔の望がゆっくりと周りを見る。そしてまた俯いた。
「FOURですよね……いつの間に……」

「お前、駅前のベンチで潰れていたんだ。初めての酒、飲まされすぎだろ。」
「ああ……そうだ。駿也さんと会ったんですよね?……夢かと思った。」
口調がしっかりしてきた。酔いが覚めてきたのだろう。何か飲ませないと、後がひどくなる。

「家を聞いたら、ここの近くだと言ってたんだ。帰るぞ?……送る。」
望の腕を掴んで歩き出そうとしたが、望は動こうとしなかった。

「い、いや……。もう大丈夫です。すみません、駿也さん。迷惑かけて。」
「迷惑なんかじゃない。送る。行くぞ。どっちだ?」
まだ足元がおぼつかない望の腕を支えながら歩き出す。望も今度は抵抗しなかった。望が指を差した方に足を進めた。

「今日は誕生日で……。」
「知ってる。」
500メートルほど住宅街を歩いたところの小さな店の前に自販機があり、少し休もうとペットボトルの水を買って、望に渡した。2人で店前のベンチに腰掛ける。

「友だちが奢りだと祝ってくれて……。」
「ああ……。」
「気持ち悪くなって、トイレに行った後に逃げてきちゃいました。」
そうか。友だちが放っておいた訳ではなかったのか。憤っていた思いが静まっていくのを感じた。なら、逆に急にいなくなってしまった望を心配しているかもしれない。

「友だちに連絡しなくて大丈夫なのか?心配してるんじゃないか?」
「たぶん駅に着いた時にメールしたような……。」
望は、ポケットからスマホを取り出すと、画面を操作して確かめているようだった。

「大丈夫です。メールしてました。」
「そうか……。」
これでひとまず安心だろう。後は望を家に送り届けるだけ……。少しでも一緒の時間を引き伸ばしたい、そんな思いで俺も買ったペットボトルの蓋を開けた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

いろいろ疲れちゃった高校生の話

こじらせた処女
BL
父親が逮捕されて親が居なくなった高校生がとあるゲイカップルの養子に入るけれど、複雑な感情が渦巻いて、うまくできない話

王子の恋

うりぼう
BL
幼い頃の初恋。 そんな初恋の人に、今日オレは嫁ぐ。 しかし相手には心に決めた人がいて…… ※擦れ違い ※両片想い ※エセ王国 ※エセファンタジー ※細かいツッコミはなしで

薬師は語る、その・・・

香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。 目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、 そして多くの民の怒号。 最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・ 私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

初恋はおしまい

佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。 高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。 ※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。 今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。

どうも俺の新生活が始まるらしい

氷魚彰人
BL
恋人と別れ、酔い潰れた俺。 翌朝目を覚ますと知らない部屋に居て……。 え? 誰この美中年!? 金持ち美中年×社会人青年 某サイトのコンテスト用に書いた話です 文字数縛りがあったので、エロはないです ごめんなさい

処理中です...