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この状況を変えるために
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「駿、待った?ごめんね!遅くなって。」
「いや、大丈夫。」
俺は、1ヶ月ぶりに奈々美のアパートの近くのカフェで待ち合わせをしていた。表通りとは離れているが、ログハウスのコーヒー専門店。前から奈々美が入ってみたいと言っていた場所だ。
「いらっしゃいませ。」
顎髭を生やしたマスターが水を運んでくる。マスターがそこにいるだけで、コーヒーの香りが強まった気がした。平日の午前中にもかかわらず、店は女性客で賑わっている。
「ご注文が決まりましたらお呼びください。」
「何にしようかなー。モカかな?苦いの飲みたい。」
手を上げてマスターを呼び、モカを2つ注文する。最初に飲んでいたブレンドは飲み干してしまった。
「髪の毛切ったんだな。」
長かった髪の毛が肩のあたりまで短くなり、顔を動かすたびに揺れていた。そして紺のロングスカート。奈々美がいつも好んで着ている……。
「就活よー。今、大変なんだから。来月からは公務員試験もあるし。……駿も短くなったわね?後ろ、刈り上げたの?」
「ああ。」
最近、鬱陶しくなって後ろを短くした。前も短くしたいぐらいだったが、俺の髪の毛では全然決まらない。
「……奈々美、ごめん。」
「待って。言わないで。」
「……。」
話を切り出そうとするところを遮られ、言葉に詰まった。
「のぞみさん……のことでしょ?」
全身に痺れが走った。のぞみ……ではないが何故……知ってる?奈々美は優しく微笑んでいた。
「ふふっ。……初めて駿を泊めた日、1度だけ名前を呼んでた。……気づかなかった?」
「お待たせしました。」
コーヒーが目の前に置かれると、奈々美がすぐにカップを持ち上げて口をつけた。
「……何となく分かってた。駿が苦しんでるって……それでもいいか、って思ってたのよね。……私も大概ね。」
「……ごめん。」
奈々美の懐の大きさに何も言うべき言葉が見つからなかった。言葉を探しながら、コーヒーを口に含む。
「それで?上手くいったの?」
無言で首を横に振る。望のことを諦めるつもりはないが、まだ踏み出せてない。
「そう……。駿は優しい。」
いや、優しくはないだろ。優しいなら奈々美との関係をこうやって終わらせようとはしないはず。しばらく、無言の時間が過ぎた。
「私ね、卒業したら実家に戻るの。」
「実家?」
そういえば、奈々美の実家がどこかなんて聞いたことがなかった。いや、別に気にしたことがなかったんだ。
「そう、東京。ここまでも電車を乗り継いで2時間かからないんだけどね、アパート住まいさせてもらってたの。卒業後は家に戻るという約束で。」
「そうか……。」
「そ、だから駿とも今日で終わり。就職してからまたいい男捕まえるわ。」
そう言って微笑んだ奈々美の目は少しだけ潤んでいたように見えた。
「じゃ、行くね。これから優乃と待ち合わせてるの。駿とのこと隠しておくの大変だったんだから!……でも、これでまた心置きなくおしゃべりできるわ。」
半分近く残ったコーヒーを置いて、奈々美が席を立った。
「奈々美。」
「何?」
振り返った顔はとても晴れ晴れとしているように見えた。
「ありがとう。」
今の奈々美にはこれしか言えない。これ以上謝っても余計に傷つけるかもしれない。
「じゃ、今日のコーヒーは駿也の奢りねっ。ごちそうさま。またねっ!」
今度は振り返らず、奈々美がカフェを出て行った。
「いや、大丈夫。」
俺は、1ヶ月ぶりに奈々美のアパートの近くのカフェで待ち合わせをしていた。表通りとは離れているが、ログハウスのコーヒー専門店。前から奈々美が入ってみたいと言っていた場所だ。
「いらっしゃいませ。」
顎髭を生やしたマスターが水を運んでくる。マスターがそこにいるだけで、コーヒーの香りが強まった気がした。平日の午前中にもかかわらず、店は女性客で賑わっている。
「ご注文が決まりましたらお呼びください。」
「何にしようかなー。モカかな?苦いの飲みたい。」
手を上げてマスターを呼び、モカを2つ注文する。最初に飲んでいたブレンドは飲み干してしまった。
「髪の毛切ったんだな。」
長かった髪の毛が肩のあたりまで短くなり、顔を動かすたびに揺れていた。そして紺のロングスカート。奈々美がいつも好んで着ている……。
「就活よー。今、大変なんだから。来月からは公務員試験もあるし。……駿も短くなったわね?後ろ、刈り上げたの?」
「ああ。」
最近、鬱陶しくなって後ろを短くした。前も短くしたいぐらいだったが、俺の髪の毛では全然決まらない。
「……奈々美、ごめん。」
「待って。言わないで。」
「……。」
話を切り出そうとするところを遮られ、言葉に詰まった。
「のぞみさん……のことでしょ?」
全身に痺れが走った。のぞみ……ではないが何故……知ってる?奈々美は優しく微笑んでいた。
「ふふっ。……初めて駿を泊めた日、1度だけ名前を呼んでた。……気づかなかった?」
「お待たせしました。」
コーヒーが目の前に置かれると、奈々美がすぐにカップを持ち上げて口をつけた。
「……何となく分かってた。駿が苦しんでるって……それでもいいか、って思ってたのよね。……私も大概ね。」
「……ごめん。」
奈々美の懐の大きさに何も言うべき言葉が見つからなかった。言葉を探しながら、コーヒーを口に含む。
「それで?上手くいったの?」
無言で首を横に振る。望のことを諦めるつもりはないが、まだ踏み出せてない。
「そう……。駿は優しい。」
いや、優しくはないだろ。優しいなら奈々美との関係をこうやって終わらせようとはしないはず。しばらく、無言の時間が過ぎた。
「私ね、卒業したら実家に戻るの。」
「実家?」
そういえば、奈々美の実家がどこかなんて聞いたことがなかった。いや、別に気にしたことがなかったんだ。
「そう、東京。ここまでも電車を乗り継いで2時間かからないんだけどね、アパート住まいさせてもらってたの。卒業後は家に戻るという約束で。」
「そうか……。」
「そ、だから駿とも今日で終わり。就職してからまたいい男捕まえるわ。」
そう言って微笑んだ奈々美の目は少しだけ潤んでいたように見えた。
「じゃ、行くね。これから優乃と待ち合わせてるの。駿とのこと隠しておくの大変だったんだから!……でも、これでまた心置きなくおしゃべりできるわ。」
半分近く残ったコーヒーを置いて、奈々美が席を立った。
「奈々美。」
「何?」
振り返った顔はとても晴れ晴れとしているように見えた。
「ありがとう。」
今の奈々美にはこれしか言えない。これ以上謝っても余計に傷つけるかもしれない。
「じゃ、今日のコーヒーは駿也の奢りねっ。ごちそうさま。またねっ!」
今度は振り返らず、奈々美がカフェを出て行った。
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