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この状況を変えるために
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「そういえば、お前最近また学食通いだな。」
今泉の言葉で顔を正面に向けた。今日は珍しく眼鏡をかけている。銀縁の眼鏡。鬱陶しいから好まん、とコンタクト一択だったはずだが。白く袖口の広い開襟シャツを着て黒のスラックス。一足早く夏と勘違いしたような格好だがなかなかオシャレだ。
「味噌汁が恋しい。」
味噌汁のお椀を持ち上げて口に運んだ。俺は前と同じように、味噌汁だけ買って席に着いていた。今日はアサリの味噌汁。殻を剥いた冷凍ものではなく、生ものをそのまま味噌汁にしている。これで100円は安いかもしれない。
「へぇ。人恋しくなったのかと思った。」
「それもある。」
「ははっ!今日はやけに素直だな。」
今泉の声に反応して、望がこちらを見た……ような気がした。
「まあな……ちょっと素直になってみようかと思って。」
自分の心に。弁当の唐揚げを箸で掴んで口に入れる。素直に受け入れた方が楽だ。俺は望を諦められない。彼女がいようといまいと……。それを受け入れただけでこんなに楽になるとは思わなかった。
「そういえば、お前、今付き合ってる奴いるのか?」
今泉から、気軽に話を振ってきた。望が、少しだけ身動ぎしたように感じるのは気のせいだろうか?
「今泉は?」
質問に質問で返す。今、ここで、俺のことは言うつもりはなかった。
「俺?いると思うか?いたら駿也の誘いなんかに乗らないさ。」
「いつも男としかつるんでないものな。」
今泉は交流は広いが、女と一緒にいるところを見たことがない。グループで考えてもだ。いつも男だけのグループか、こうやって友だち2人で過ごしていることが多い。
「駿也のこと紹介してくれって言われててさ。どうよ?紹介してもいい?」
「迷惑だな。誰とも付き合うつもりはない。……今は。」
……そう。今は。ゴールデンウィークから3週間になるが、奈々美から会いたいと連絡をもらっていてもまだ、応じていなかった。このままでは奈々美にも悪い。何とかしなければ。
「可愛い子なんだけどな。」
「……興味ない。」
隣のテーブルで微かに身動きをしている望を感じながら、今泉の方を見た。
「悪いけど、断っておいてくれ。」
俺の言葉に、望の動きがピタッと止まるのが分かった。横目で望を見る。望のテーブルでは、望以外の3人が講義の内容で盛り上がっていた。源氏物語がどうの、枕草子がどうのと聞こえてくる。皆文学部か?
「今日は静かだな。」
望にだけ聞こえる声で話しかけると、ハッとしたようにこちらを見た。
「へっ!?ああ……唐揚げの作り方を考えてました。」
取ってつけたような笑顔だ……。どうした?本当に唐揚げのことを考えてた?
「コツは生姜とニンニクの量と割合。」
……俺のことを考えていた?……まさかな。そんなことを考えながら自然と口にしていた。
「へぇ……どのくらい?」
「たっぷり。」
「へぇ……。」
多分、お互いに他のことを考えている……そう感じながら俺は、唐揚げの作り方を伝授していた。
今泉の言葉で顔を正面に向けた。今日は珍しく眼鏡をかけている。銀縁の眼鏡。鬱陶しいから好まん、とコンタクト一択だったはずだが。白く袖口の広い開襟シャツを着て黒のスラックス。一足早く夏と勘違いしたような格好だがなかなかオシャレだ。
「味噌汁が恋しい。」
味噌汁のお椀を持ち上げて口に運んだ。俺は前と同じように、味噌汁だけ買って席に着いていた。今日はアサリの味噌汁。殻を剥いた冷凍ものではなく、生ものをそのまま味噌汁にしている。これで100円は安いかもしれない。
「へぇ。人恋しくなったのかと思った。」
「それもある。」
「ははっ!今日はやけに素直だな。」
今泉の声に反応して、望がこちらを見た……ような気がした。
「まあな……ちょっと素直になってみようかと思って。」
自分の心に。弁当の唐揚げを箸で掴んで口に入れる。素直に受け入れた方が楽だ。俺は望を諦められない。彼女がいようといまいと……。それを受け入れただけでこんなに楽になるとは思わなかった。
「そういえば、お前、今付き合ってる奴いるのか?」
今泉から、気軽に話を振ってきた。望が、少しだけ身動ぎしたように感じるのは気のせいだろうか?
「今泉は?」
質問に質問で返す。今、ここで、俺のことは言うつもりはなかった。
「俺?いると思うか?いたら駿也の誘いなんかに乗らないさ。」
「いつも男としかつるんでないものな。」
今泉は交流は広いが、女と一緒にいるところを見たことがない。グループで考えてもだ。いつも男だけのグループか、こうやって友だち2人で過ごしていることが多い。
「駿也のこと紹介してくれって言われててさ。どうよ?紹介してもいい?」
「迷惑だな。誰とも付き合うつもりはない。……今は。」
……そう。今は。ゴールデンウィークから3週間になるが、奈々美から会いたいと連絡をもらっていてもまだ、応じていなかった。このままでは奈々美にも悪い。何とかしなければ。
「可愛い子なんだけどな。」
「……興味ない。」
隣のテーブルで微かに身動きをしている望を感じながら、今泉の方を見た。
「悪いけど、断っておいてくれ。」
俺の言葉に、望の動きがピタッと止まるのが分かった。横目で望を見る。望のテーブルでは、望以外の3人が講義の内容で盛り上がっていた。源氏物語がどうの、枕草子がどうのと聞こえてくる。皆文学部か?
「今日は静かだな。」
望にだけ聞こえる声で話しかけると、ハッとしたようにこちらを見た。
「へっ!?ああ……唐揚げの作り方を考えてました。」
取ってつけたような笑顔だ……。どうした?本当に唐揚げのことを考えてた?
「コツは生姜とニンニクの量と割合。」
……俺のことを考えていた?……まさかな。そんなことを考えながら自然と口にしていた。
「へぇ……どのくらい?」
「たっぷり。」
「へぇ……。」
多分、お互いに他のことを考えている……そう感じながら俺は、唐揚げの作り方を伝授していた。
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