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その線には触れたくない

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「ええっ!駿也!?……駿也なのっ!?」
できれば静かに過ごしてほしい空間に、女の高い声が響いた。

「いらっしゃいませ。」
水をテーブルに置く。相手は客だ。知り合いでも平常心で対応したいが……。
「ダメっ!優乃。この子、私を振った奴。」
高い声で言い放った奈々美が、友だちらしき女を連れてテーブルに座っていた。

俺は、駅ビルの最上階にあるレストランでバイトをしていた。パスタ料理がメインだが、手作りのピザもやっている。客は、昼間は買い物途中の女性で、夜は夜景が見える事も手伝ってカップルが多かった。

奈々美の誘いを断って1ヶ月とちょっと。ハッキリと興味がないと伝えた。今の俺は、恋愛だとかセッ・スだとかどうでもいい。世間は12月になって、クリスマスムードも高まり、俺の友だちも彼女を作ると息巻いている。今日もカップルが多かった。……俺は……どうでもいい。

「えーっ!?奈々美、知り合いだったの?っていうか、振られたっていう事は告ったわけ?」
「そうそう。考えとくって言ったくせに、次に会ったときにはバッサリ。」

「ご注文がお決まりになりましたらお呼びください。」
言い捨てて、カウンターの裏に回る。面倒臭い。あそこのテーブルには運びたくない。

「どうした?元カノ?」
同じバイトの榎本がニヤニヤ笑って聞いてきた。
「いや。」
「注文取ってきてやろうか?」
「……頼む。」
ニヤケ顔で行ってくるコイツに借りを作るのは気が引けたが、面倒な事この上ない。ありがたい申し出を受けることにした。



「すみませーん。」
榎本と担当テーブルを交換してしばらく動き回っていると、奈々美のテーブルから声が上がった。行きたくないが、榎本は1番テーブルにカルボナーラを運ぶところだ。奈々美がこちらを見ている。俺を呼んでるのに行かないのは……。

「お待たせいたしました。」
2人は食事を終えて、コーヒーを飲んでいるところだった。
「ミニパフェ2つお願いします。チョコと苺と1つずつ。」
確か優乃と呼ばれていた女が遠慮がちに注文してきた。
「ありがとうございます。少々お待ち下さい。」
おざなりの笑顔を貼りつけて背を向けようとした所で、カフェエプロンを掴まれた。

「何か?」
エプロンを掴んでいるのは奈々美だ。笑顔が引きつる。
「ね、彼女できたの?」
どうでもいいだろ。お前には関係ない。内心毒づきながら、ゆっくりと言葉を選んだ。
「ご想像にお任せします。……少々お待ち下さい。」
改めて背を向ける。今度は引き止める者はいなかった。

「何だ?またモテてるのか?」
カウンター裏にはいると、先に戻ってきた榎本がニヤつきながら聞いてきた。
「勘弁してくれ。チョコ、苺ミニ1つ。」
「ありがとうございまーす。」
厨房に注文を告げると、オーナーの呑気な声が聞こえた。



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