7 / 34
線が触れる
3
しおりを挟む
「ね、名前聞いてもいい?今更だけどさ。」
「駿也。」
そういえば、名乗り合ってなかった。コイツの名前は一方的に分かってただけで。
「駿也くん、何年?」
「2年。」
「ああああ、やっぱりかあ。B棟で会ったから1年だとばかり思ってたけど、何だか大人っぽいと思ったんだよね。」
仰け反って天を仰ぐ姿で、望が失敗した、と思ってるのが分かる。望の首は細い。というか、全体的に線が細い。色も白く、少しだけ厚めの赤い下唇に目を奪われる。あの唇に……いや、……。
「お前は……1年?」
思考を振り払うように、俺から話しかけた。
「うん。文学部1年。佐々川望。駿也さんは?」
やはり1年か。……ん?駿也「くん」から「さん」に変わったぞ?……分かりやすいやつだ。
「理工学部。田崎駿也。」
自然と出ようとする笑みを押さえて自己紹介をする。名前を告げるのは初めてだ。俺の言葉を聞いた望が顔を輝かせた。
「佐々木っ?俺と一文字違いじゃん!佐々川ってなかなか苗字いないらしくて、ルーツを調べてるんだけど、これといったものがないんだよね。爺ちゃんの爺ちゃんの代からこっちに住んでるみたいだし。佐々木ってのはどこルーツ?」
元気に捲し立てる望に、何で言ったらいいか分からない。佐々木じゃなくて田崎だ。……でも期待に顔を輝かせているのを見て何も言えなくなった。
「知らん。」
「だよねー。今度調べてみよっと。あ、駿也さんは地元?」
望は……凹むという事を知らないのかも知れない。チキンカツに添えてあるキャベツを摘み上げながら聞いてくる望を呆然と眺めた。
「ああ。」
「俺も!俺は欅央高校。ほら、県内1、2を争う大きな欅で有名なとこ。駿也さんは……違うよね?」
「違う。」
欅央高校は兄たちが卒業した高校。地元では進学に力を入れて、結構有名な大学へも卒業生を送り出していた。高校受験で俺もそこを受験した。本当ならば、そこを卒業するはずだった……。
「そうだよなぁ。高校一緒だったら顔ぐらい覚えていただろうし……。どこ?」
「遠いとこ。」
望の高校時代はどんなだったのだろう。母親について行ったりしないで、ここに残っていれば望の事をもっと前から知っていたのだろうか……。
「そっかぁ。」
それからしばらくは2人とも無言で食事を続けた。
「「ごちそうさまでした。」」
ほぼ同時に食事を終えて、食器の返却をするために席を立った。
「ね、駿也さんは午後、何個授業あるの?」
「1つ。」
3時前には授業が終わる。6時からのバイトの前に家に帰って、夕飯の仕込みをしておく。それが俺の日課だった。別に頼まれた訳ではないがなんとなく日常化していた。
「いいなあ。俺はあと2つ。今日はありがと。1人で食べることにならなくて良かった。」
望の笑顔を見て、何となく……また一緒に食べよう、と言いたい俺がここにいる。しかし脳裏にあの小さな女の子と並んで歩く望の姿が蘇り、言いたい言葉は喉の奥へ消えて行った。
「ああ。俺も楽しかった。」
それが今俺が言える精一杯の言葉だった。
「駿也。」
そういえば、名乗り合ってなかった。コイツの名前は一方的に分かってただけで。
「駿也くん、何年?」
「2年。」
「ああああ、やっぱりかあ。B棟で会ったから1年だとばかり思ってたけど、何だか大人っぽいと思ったんだよね。」
仰け反って天を仰ぐ姿で、望が失敗した、と思ってるのが分かる。望の首は細い。というか、全体的に線が細い。色も白く、少しだけ厚めの赤い下唇に目を奪われる。あの唇に……いや、……。
「お前は……1年?」
思考を振り払うように、俺から話しかけた。
「うん。文学部1年。佐々川望。駿也さんは?」
やはり1年か。……ん?駿也「くん」から「さん」に変わったぞ?……分かりやすいやつだ。
「理工学部。田崎駿也。」
自然と出ようとする笑みを押さえて自己紹介をする。名前を告げるのは初めてだ。俺の言葉を聞いた望が顔を輝かせた。
「佐々木っ?俺と一文字違いじゃん!佐々川ってなかなか苗字いないらしくて、ルーツを調べてるんだけど、これといったものがないんだよね。爺ちゃんの爺ちゃんの代からこっちに住んでるみたいだし。佐々木ってのはどこルーツ?」
元気に捲し立てる望に、何で言ったらいいか分からない。佐々木じゃなくて田崎だ。……でも期待に顔を輝かせているのを見て何も言えなくなった。
「知らん。」
「だよねー。今度調べてみよっと。あ、駿也さんは地元?」
望は……凹むという事を知らないのかも知れない。チキンカツに添えてあるキャベツを摘み上げながら聞いてくる望を呆然と眺めた。
「ああ。」
「俺も!俺は欅央高校。ほら、県内1、2を争う大きな欅で有名なとこ。駿也さんは……違うよね?」
「違う。」
欅央高校は兄たちが卒業した高校。地元では進学に力を入れて、結構有名な大学へも卒業生を送り出していた。高校受験で俺もそこを受験した。本当ならば、そこを卒業するはずだった……。
「そうだよなぁ。高校一緒だったら顔ぐらい覚えていただろうし……。どこ?」
「遠いとこ。」
望の高校時代はどんなだったのだろう。母親について行ったりしないで、ここに残っていれば望の事をもっと前から知っていたのだろうか……。
「そっかぁ。」
それからしばらくは2人とも無言で食事を続けた。
「「ごちそうさまでした。」」
ほぼ同時に食事を終えて、食器の返却をするために席を立った。
「ね、駿也さんは午後、何個授業あるの?」
「1つ。」
3時前には授業が終わる。6時からのバイトの前に家に帰って、夕飯の仕込みをしておく。それが俺の日課だった。別に頼まれた訳ではないがなんとなく日常化していた。
「いいなあ。俺はあと2つ。今日はありがと。1人で食べることにならなくて良かった。」
望の笑顔を見て、何となく……また一緒に食べよう、と言いたい俺がここにいる。しかし脳裏にあの小さな女の子と並んで歩く望の姿が蘇り、言いたい言葉は喉の奥へ消えて行った。
「ああ。俺も楽しかった。」
それが今俺が言える精一杯の言葉だった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
【完結】『ルカ』
瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。
倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。
クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。
そんなある日、クロを知る青年が現れ……?
貴族の青年×記憶喪失の青年です。
※自サイトでも掲載しています。
2021年6月28日 本編完結
初恋はおしまい
佐治尚実
BL
高校生の朝好にとって卒業までの二年間は奇跡に満ちていた。クラスで目立たず、一人の時間を大事にする日々。そんな朝好に、クラスの頂点に君臨する修司の視線が絡んでくるのが不思議でならなかった。人気者の彼の一方的で執拗な気配に朝好の気持ちは高ぶり、ついには卒業式の日に修司を呼び止める所までいく。それも修司に無神経な言葉をぶつけられてショックを受ける。彼への思いを知った朝好は成人式で修司との再会を望んだ。
高校時代の初恋をこじらせた二人が、成人式で再会する話です。珍しく攻めがツンツンしています。
※以前投稿した『初恋はおしまい』を大幅に加筆修正して再投稿しました。現在非公開の『初恋はおしまい』にお気に入りや♡をくださりありがとうございました!こちらを読んでいただけると幸いです。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
薬師は語る、その・・・
香野ジャスミン
BL
微かに香る薬草の匂い、息が乱れ、体の奥が熱くなる。人は死が近づくとこのようになるのだと、頭のどこかで理解しそのまま、身体の力は抜け、もう、なにもできなくなっていました。
目を閉じ、かすかに聞こえる兄の声、母の声、
そして多くの民の怒号。
最後に映るものが美しいものであったなら、最後に聞こえるものが、心を動かす音ならば・・・
私の人生は幸せだったのかもしれません。※「ムーンライトノベルズ」で公開中
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる