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線が触れる

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「ね、名前聞いてもいい?今更だけどさ。」
「駿也。」
そういえば、名乗り合ってなかった。コイツの名前は一方的に分かってただけで。

「駿也くん、何年?」
「2年。」
「ああああ、やっぱりかあ。B棟で会ったから1年だとばかり思ってたけど、何だか大人っぽいと思ったんだよね。」
仰け反って天を仰ぐ姿で、望が失敗した、と思ってるのが分かる。望の首は細い。というか、全体的に線が細い。色も白く、少しだけ厚めの赤い下唇に目を奪われる。あの唇に……いや、……。

「お前は……1年?」
思考を振り払うように、俺から話しかけた。
「うん。文学部1年。佐々川望。駿也さんは?」
やはり1年か。……ん?駿也「くん」から「さん」に変わったぞ?……分かりやすいやつだ。

「理工学部。田崎駿也。」
自然と出ようとする笑みを押さえて自己紹介をする。名前を告げるのは初めてだ。俺の言葉を聞いた望が顔を輝かせた。

「佐々木っ?俺と一文字違いじゃん!佐々川ってなかなか苗字いないらしくて、ルーツを調べてるんだけど、これといったものがないんだよね。爺ちゃんの爺ちゃんの代からこっちに住んでるみたいだし。佐々木ってのはどこルーツ?」
元気に捲し立てる望に、何で言ったらいいか分からない。佐々木じゃなくて田崎だ。……でも期待に顔を輝かせているのを見て何も言えなくなった。

「知らん。」
「だよねー。今度調べてみよっと。あ、駿也さんは地元?」
望は……凹むという事を知らないのかも知れない。チキンカツに添えてあるキャベツを摘み上げながら聞いてくる望を呆然と眺めた。

「ああ。」
「俺も!俺は欅央高校。ほら、県内1、2を争う大きな欅で有名なとこ。駿也さんは……違うよね?」
「違う。」
欅央高校は兄たちが卒業した高校。地元では進学に力を入れて、結構有名な大学へも卒業生を送り出していた。高校受験で俺もそこを受験した。本当ならば、そこを卒業するはずだった……。

「そうだよなぁ。高校一緒だったら顔ぐらい覚えていただろうし……。どこ?」
「遠いとこ。」
望の高校時代はどんなだったのだろう。母親について行ったりしないで、ここに残っていれば望の事をもっと前から知っていたのだろうか……。
「そっかぁ。」

それからしばらくは2人とも無言で食事を続けた。

「「ごちそうさまでした。」」
ほぼ同時に食事を終えて、食器の返却をするために席を立った。

「ね、駿也さんは午後、何個授業あるの?」
「1つ。」
3時前には授業が終わる。6時からのバイトの前に家に帰って、夕飯の仕込みをしておく。それが俺の日課だった。別に頼まれた訳ではないがなんとなく日常化していた。

「いいなあ。俺はあと2つ。今日はありがと。1人で食べることにならなくて良かった。」
望の笑顔を見て、何となく……また一緒に食べよう、と言いたい俺がここにいる。しかし脳裏にあの小さな女の子と並んで歩く望の姿が蘇り、言いたい言葉は喉の奥へ消えて行った。

「ああ。俺も楽しかった。」
それが今俺が言える精一杯の言葉だった。




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