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君と唐揚げ

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「あれっ?帰ってたのか。バイトは?」
「休んだ。」
家で浅漬けを作ろうとキャベツを切っていると、親父が帰ってきた。18時半。ま、いつもこんなもんだろ。

今日は何故かバイトに行く気になれず、休みの電話を入れた。いつもシフトに穴を空けずに頑張っていたが、今日は何だか調子が悪い。
「大丈夫なのか?」
「ああ。大丈夫。」
「じゃあ、夕飯は駿に任せて風呂でも洗ってくるか。」

親父がリビングを出ていくのを見送りながら、大きめのボールにキャベツを入れる。既に入れておいた人参と胡瓜と一緒に調味料と塩を加えて揉み込む。重石をして冷蔵庫に入れた途端に、母親が帰ってきた。

「あら、駿、早かったわね!」
「ああ。浅漬け仕込んでおいた。今日はトンカツだろ?揚げとくか?」
「母さんがやるわ。元々そのつもりだったし。火だけかけといて。着替えてくる。」

母親に後を任せて、自分の部屋へ上がる。ベッドに横になって目を閉じた。瞼の裏に昼に見た光景が映り出す。望という奴の笑顔……そしてその友だち。

『望君がそっち系だと思われるのは嫌だからねっ!』
美久という女が放った一言がなぜか忘れられない。そっち系とは何だ……。好きになるのに性別が関係あるのか?

いろいろな考え方があるのは長兄の時で学んだはずだが、やはり、自分の一方的な考えを述べるあの物言いには嫌悪感がつのる。望は何も言ってはなかったが……。

『望の彼女か……。』
小柄な女だった。俺とは30㎝ほど違うが、望むとは…しっくりくる。お似合いだ。

「くそっ!」
なぜこんなにイライラする?昨日会ったばかりで、一言二言会話しただけ。今泉には知り合いだと言ったが、知り合いでもなんでもない。ただ2つの並んだ線がほんの少し触れただけ……。

『寝て忘れよう。』
食欲がない……。体調が悪いとバイトも休んだ。いい口実だ。風呂に入って寝てしまおう。

俺は、起き上がって着替えを持ち、自分の部屋を出た。
「おっ!あぶねえな、駿。」
ドアを開けて一歩踏み出した途端に次兄にぶつかりそうになる。多分、会社から帰ったところだ。親父と一緒のところで働いていても、行動は別々。いつも次兄の雄也の方が遅い。

「デート?」
「デートだったらこんな格好で今ここにいるか。もうすぐメシだってよ。お袋が呼んで来いって。」
それもそうか。会社の作業着を着たままだ。それでも巨大な体がベージュ色の作業着で膨れて見える。そもそも、作業着を着たまま帰っちゃ駄目なんじゃなかったか?昔親父と兄たちが会話していた事を思い出したが、別にいい。……俺には関係ない。

「俺はいいや。風呂に入って寝る。言っといて。」
雄也に伝言を頼み、一番風呂に入るべく、脱衣所に向かった。




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