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君と唐揚げ

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「田崎、何だ珍しいな。お前弁当は?」
火、水、木は午後にも講義をとっていていつも弁当持参だ。が、今日は親父も次兄も弁当はいらないという事で俺も久しぶりに学食で昼食をとることにしていた。

「作らなかった。」
「じゃ、一緒に食べようぜ。」
同じ理工学部の今泉と一緒に、学食の入り口と列に並びながら、今日はどんな料理が並んでいるかと想像した。

白飯、豚汁、鯖の味噌煮にほうれん草のソテー。全部合わせて400円。これが安いのかどうか分からないが、暖かい味噌汁はありがたい。弁当でスープは持ってこない。今度スープ用のポットを買うのもいいかもしれない。だんだんと寒くなるし。でも、3人分買うのは…ちょっと高いか。

「ここにしよ。」
今泉に空いている席に導かれて座ろうとした途端に、隣の席の奴と目が合った。

「あっ!唐揚げ君!!」
昨日のトイプードルがまん丸の目を見開いてこちらを見ていた。誰が唐揚げ君だ。今日もTシャツは黒。英語で「誰か遊んで」と書いてある。筆記体で書いてあるから読みづらいが……意味をわかってて着てるのか?

「誰?」
「望、知り合い?」
同じテーブルの男2人がトイプードルに問いかけている。コイツの名前は望というんだ……。3人の中で1番小さいか?

「うん、知り合い知り合い。昨日B棟に忘れ物しててさ……」
知り合いか?俺は一言しか話してないぞ?望という奴は、昨日のほんの2、3分の出来事を事細かに説明していた。

「…それで唐揚げ君の弁当見たらさ、俺すっごく食べたくなったんだよね。」
「だから、今日は唐揚げなんだ。」
「そ。昨日売り切れてたから。いただきます!」
箸を手に取り、きちんと挨拶して食べる。コイツは育ちが良さそうだ。

「う、美味いっ!美味いよ!これ!!」
大きな口で齧ってモグモグしながら、こちらを見た。こら、行儀が悪いぞ。口の中に入れたまま喋るな。

「美味いっ!一つ食べる?」
口の中の唐揚げをゴクンと飲み込んで、にっこり笑って話しかけてくる……。何だ?これ……。目が離せないぞ!?

「いや、いい。」
無理矢理目を離して自分の鯖を見る。ふと気づいた。俺、昨日と同じセリフしか言ってない。

「誰?友だちか?」
目の前の今泉が小声で話しかけてきた。
「ああ。まあ……知り合い。」
とりあえず、味噌煮を食べようと箸を取った。



「望君、お待たせっ!」
今泉と授業の話をしながら箸を進め、半分ほど食事が済んだところで隣のテーブルに女の子がやってきた。

「おうっ!待ってない。伸一たちと先に食べてた。」
トイプー、いや望という奴を初めとして、男3人が笑顔で女の子を見ていた。

「伸一君、また望君と肩組んで歩いてたでしょ?沙織ちゃんに聞いたわ。あの2人怪しくない?って言われちゃった!」
「何、美久ちゃん妬いた?学部が違うと高校の時の友達にも中々会えないんだぜ?懐かしいじゃん。」
ポニーテールの髪を揺らして、望の隣に座った女の子とその目の前の男とのやりとりが続いた。

……そうか。彼女いるのか……。ここの学食が冷房が効きすぎているのか、俺は体が何故か急激に冷えていくのを感じていた。





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