ある時、ある場所で

もこ

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4年前、路地裏で(真人)

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『夏休み最後の日!遊ぼうぜっ!カラオケに集合!』
弓道部の元部長からグループメールが届いた。俺は断りのメールを送って今日1日どう過ごそうか考えた。夏休み中バイトしていたカフェも昨日で終わり、進学する予定もなかった俺は、勉強する必要もなく1日フリーだ。母さんの店を手伝ってもいいけど、また友達のことを探られるのも面倒だ。

「母さん、友だちとカラオケ行ってきてもいい?」
店に通じるドアを開けて後ろから声をかけると、仕込みをしていた母さんが手を止めて振り返った。
「いいわ。帰りは何時頃になりそう?」
「夕方…かな。メールするよ。手伝いは必要?」
俺の言葉にまた野菜を切り始めていた母さんが明るく言った。
「大丈夫よ。あなたが学校の時にはいつも母さん1人でやってるんだし。楽しんでらっしゃい。」

身支度を整えて家を出る。今日のカラオケの集まりは11時からだ。高校の近くのカラオケ店。まだ10時だから、バスに乗っても知り合いに会うことはないはず。公園を横切ってバス停まで行こうと、歩き始めた。今日は駅前の大型の書店が目的地。自分でももっと料理ができるようになりたい。今までも簡単なカレーやチャーハンは作っていたけど、将来母さんの店でも出せるようなものを…。


『ここで声をかけられたんだ…。』
最近よく来るようになった噴水エリアのベンチに腰掛ける。辺りには暑い真夏に、噴水の水で遊ぼうとするオムツ姿の子どもや、その母親たちが3組ほど集まって賑やかだった。

真夏の直射日光を浴びながら…夕方の茜色の空を眺めながら…半年以上「裕次郎」の姿を探す日が多くなっていた。でも、最近になって少し諦めが入ってきた。夢だったのかもしれない…。自分の欲望が見せた一夜の夢…。でも、初めての経験は生々しかった。

『送ってく。』
初めての経験の後、タクシーでここまで送ってもらった。タクシーの中でも、歩きながらも裕次郎の体はどこか密着していた。さよならを言う前に、ここで長いキスをした。
『絶対に待ってて…。』
最後の声がまだ頭に残っている…。やっぱり夢じゃない。夢じゃないと信じていたい…。


「さて、行くか…。」
今の時間は15分ごとにバスが出ていたはず。さほど待つことはないだろうと腰を上げて木々が生い茂る遊歩道に入り、バス停へ向かった。



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