未来も過去も

もこ

文字の大きさ
上 下
103 / 110
未来も過去も

2

しおりを挟む
午前の業務を終えて、生田と昼休憩をとった。今朝洸一が作ってくれたフレンチトーストをたくさん食べたのに、味噌ラーメンがペロリと入った。ベルトがきつい。このままじゃ俺の体重はヤバイことになるかも…。

「小野寺君、ちょっといい?」
経理部に戻ると、杉崎課長が待ち構えていた。課長と一緒に隣の小会議室に入る。
「何かありましたか?」
配達?10回目の?でも、巌城さんの家への配達はもう終わりだよな?

「明後日配達に出てもらうよ。」
やはり用事は配達だった。
「はあ…。巌城さんの家への配達は終わったと思いますが、他に…?」
「ああ。詳しくは所長に聞いてくれ。」

『はあぁ?所長?…って誰だっけ?』

今更所長って誰でしたっけ?なんて聞けない。
「所長ですか…。」
「所長室。地下は初めてだろう。俺が案内するよ。」
戸惑っているのが分かったからか、課長が案内役を引き受けてくれて、1時半に約束をしているという所長に会いに出かけた。

エレベーターで一階まで降りてバックヤードを移動する。ここにはいくつかの商品の搬入口があり、外の業者と会うことも多い。店のスタッフもあちらこちらで見かける。上の階と比べるととても賑やかだ。しかし、誰とも会話することなく、俺たちは端までやって来た。

『この感じだと…ここの上には俺の居住スペースがあるな…。』
もう一年近くここに住んでいるから、建物の構造は予想がつくが、一階のここから先は初めて入る場所だった。

『関係者以外立ち入り禁止』
大きく書かれたドアを課長がシーリングキーで開け、中に入る。目の前がすぐ壁に見えたが、そこは左右に広がる細い通路で俺たちは左に移動した。
「今日は特別に俺たちの手紋もシステムに入っている。」
そういうと課長は、行き止まりに見えた壁に手を合わせ、奥の部屋へ入っていった。

後に続いて入ったそこは、エレベーターホールだった。
ちょうど開いていたエレベーターに乗り込む。一か所にしか止まらないらしく、階の表示がなかった。

「ここは初めてだろ?」
動き出したエレベーターにバランスをとりながら、課長に聞かれて正直に答えた。
「はい。何だかドキドキします。」
「下は主に開発部と技術部、企画営業部が占めてる。俺も技術部には一度しか入ったことないけど、ちょっとした工場だよ。」
課長の話が終わると同時に、エレベーターの扉が開いた。

目の前に開かれた場所はとても広い空間で、大勢の人が働いていた。ザワザワとたくさんの声が溢れて活気があった。ざっと30人といったところか。机が3カ所でシマを作っていた。みな忙しいのか見知らぬ客は日常茶飯事なのか、俺たちには無関心だ。向かいの壁には大きな窓が並び、海の景色が広がっていた。

「あれ?ここ地下ですよね?」
…しかも海はないだろ!しかし、窓の外には散歩をしている人や、打ち寄せる波の様子がリアルに映し出されていた。
「ま、詳しくは後で。こっちだよ。」
課長に促されて、窓とは反対側の1番奥の壁に向かって歩いていった。

『所長室』

小さく描かれたプレートがこの奥に部屋があることを物語っている。 
「さあ、行ってきなさい。」
課長は行かないの?ちょっぴり心細くなりながら、俺はプレートの下で手紋を合わせた。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

【BL・R18】可愛い弟に拘束されているのは何ででしょうか…?

梅花
BL
伯爵家長男の俺は、弟が大好き。プラチナブロンドの髪や青色の瞳。見た目もさることながら、性格も良くて俺を『にーに』なんて呼んだりしてさ。 ても、そんな弟が成人を迎えたある日…俺は… 基本、R18のため、描写ありと思ってください。 特に告知はしません。 短編になる予定です。地雷にはお気をつけください!

オメガ転生。

BL
残業三昧でヘトヘトになりながらの帰宅途中。乗り合わせたバスがまさかのトンネル内の火災事故に遭ってしまう。 そして………… 気がつけば、男児の姿に… 双子の妹は、まさかの悪役令嬢?それって一家破滅フラグだよね! 破滅回避の奮闘劇の幕開けだ!!

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

からっぽを満たせ

ゆきうさぎ
BL
両親を失ってから、叔父に引き取られていた柳要は、邪魔者として虐げられていた。 そんな要は大学に入るタイミングを機に叔父の家から出て一人暮らしを始めることで虐げられる日々から逃れることに成功する。 しかし、長く叔父一族から非人間的扱いを受けていたことで感情や感覚が鈍り、ただただ、生きるだけの日々を送る要……。 そんな時、バイト先のオーナーの友人、風間幸久に出会いーー

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

処理中です...