92 / 110
7年前
2
しおりを挟む
「…」
黙って部屋に入ってきたコウイチは、革ジャンにブラックジーンズを合わせてとてもかっこ良かった。中に着たグレーのVネックのシャツから見える鎖骨がとてもセクシーだ。俺は、何を考えていたのかを忘れた。ドキドキするのを抑えられなかった。
「お前、その格好で行くの?」
後ろから新田さんの呑気な声が響いた。
「ああ。何か問題か?」
はっきりと見える切れ長の目を俺から新田さんに移し、コウイチが言った。
「いや、何人引っ掛けに行くつもりかと思って。」
新田さんはめげなかった。はははっ、と笑い声を上げる。
「バカ言ってんな。」
コウイチはそう呟くと、俺に向き直った。
「行くぞ。」
「う、うん。」
過去への扉へ向かうコウイチの後へ向かうと、新田さんの声が後から追いかけてきた。
「お二人さん、いってらっしゃい!帰ってきたら俺は居ないからねー!まだ管理人引き受けてないしー!」
陽気な新田さんの声が、扉が閉まると同時に消えた。
スマホで時間を確認する。まだ4時を過ぎたところだ。5時の約束にはまだまだ時間がある。余裕で巌城家に辿り着けるだろう。立春がもうすぐだとしても、まだ真冬。乾いた刺すような風が容赦なく体温を奪いにかかっていた。
「寒いなっ!」
メガネのスイッチを入れて体をブルっと震わせた俺を見て、コウイチはジャンバーのポケットから何かをとりだした。
「ほら、使え。」
使い捨てカイロが2つも手渡された。…温かい。
「コウイチのは?」
「俺はいい。」
そのまま先に道を渡り、バス停へ向かった。
『コウイチは優しい。』
俺は諦められなかった。例えコウイチに恋人が出来たにしても、俺のことを好きになってもらえなくとも、この気持ちを後悔することはない…。
バスに乗り、目的地が近づくにつれて、こう君の事で俺の頭はいっぱいになってきた。
『会ったらなんて言おう…。』
この2日間、何度も何度も考えたが、いい答えを思いつかなかった。あの日からこう君は3年の月日を重ねている。こう君が吹っ切れて、何事もなかったように接してくれる事を願うしか思いつかなかった。
コウイチは黙って考え込む俺の姿を横目で見ていたが、何もいう事なく、また視線を前に移した。
黙ったままバスを降りて歩きはじめた。この時期は、まだ日の入りが早く、もうあたりはすっかり暗くなっていた。住宅街に入り、人とすれ違うのも少なくなった。何も言わずとも、自然と笹元公園を目指していた。
「俺はここで待つ。」
公園の入り口まで来るとコウイチが呟いた。
「うん、早めに終わらせる…。ありがとう。これ。」
俺はコウイチに使い捨てカイロを返した。寒空の下待たせるのだ。コウイチの方が必要…。
「ああ。行ってこい。」
コウイチはカイロを受け取り、言葉で俺の背中を押してくれた。
黙って部屋に入ってきたコウイチは、革ジャンにブラックジーンズを合わせてとてもかっこ良かった。中に着たグレーのVネックのシャツから見える鎖骨がとてもセクシーだ。俺は、何を考えていたのかを忘れた。ドキドキするのを抑えられなかった。
「お前、その格好で行くの?」
後ろから新田さんの呑気な声が響いた。
「ああ。何か問題か?」
はっきりと見える切れ長の目を俺から新田さんに移し、コウイチが言った。
「いや、何人引っ掛けに行くつもりかと思って。」
新田さんはめげなかった。はははっ、と笑い声を上げる。
「バカ言ってんな。」
コウイチはそう呟くと、俺に向き直った。
「行くぞ。」
「う、うん。」
過去への扉へ向かうコウイチの後へ向かうと、新田さんの声が後から追いかけてきた。
「お二人さん、いってらっしゃい!帰ってきたら俺は居ないからねー!まだ管理人引き受けてないしー!」
陽気な新田さんの声が、扉が閉まると同時に消えた。
スマホで時間を確認する。まだ4時を過ぎたところだ。5時の約束にはまだまだ時間がある。余裕で巌城家に辿り着けるだろう。立春がもうすぐだとしても、まだ真冬。乾いた刺すような風が容赦なく体温を奪いにかかっていた。
「寒いなっ!」
メガネのスイッチを入れて体をブルっと震わせた俺を見て、コウイチはジャンバーのポケットから何かをとりだした。
「ほら、使え。」
使い捨てカイロが2つも手渡された。…温かい。
「コウイチのは?」
「俺はいい。」
そのまま先に道を渡り、バス停へ向かった。
『コウイチは優しい。』
俺は諦められなかった。例えコウイチに恋人が出来たにしても、俺のことを好きになってもらえなくとも、この気持ちを後悔することはない…。
バスに乗り、目的地が近づくにつれて、こう君の事で俺の頭はいっぱいになってきた。
『会ったらなんて言おう…。』
この2日間、何度も何度も考えたが、いい答えを思いつかなかった。あの日からこう君は3年の月日を重ねている。こう君が吹っ切れて、何事もなかったように接してくれる事を願うしか思いつかなかった。
コウイチは黙って考え込む俺の姿を横目で見ていたが、何もいう事なく、また視線を前に移した。
黙ったままバスを降りて歩きはじめた。この時期は、まだ日の入りが早く、もうあたりはすっかり暗くなっていた。住宅街に入り、人とすれ違うのも少なくなった。何も言わずとも、自然と笹元公園を目指していた。
「俺はここで待つ。」
公園の入り口まで来るとコウイチが呟いた。
「うん、早めに終わらせる…。ありがとう。これ。」
俺はコウイチに使い捨てカイロを返した。寒空の下待たせるのだ。コウイチの方が必要…。
「ああ。行ってこい。」
コウイチはカイロを受け取り、言葉で俺の背中を押してくれた。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
処女姫Ωと帝の初夜
切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。
七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。
幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・
『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。
歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。
フツーの日本語で書いています。
αなのに、αの親友とできてしまった話。
おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。
嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。
魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。
だけれど、春はαだった。
オメガバースです。苦手な人は注意。
α×α
誤字脱字多いかと思われますが、すみません。
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
僕が玩具になった理由
Me-ya
BL
🈲R指定🈯
「俺のペットにしてやるよ」
眞司は僕を見下ろしながらそう言った。
🈲R指定🔞
※この作品はフィクションです。
実在の人物、団体等とは一切関係ありません。
※この小説は他の場所で書いていましたが、携帯が壊れてスマホに替えた時、小説を書いていた場所が分からなくなってしまいました😨
ので、ここで新しく書き直します…。
(他の場所でも、1カ所書いていますが…)
帝国皇子のお婿さんになりました
クリム
BL
帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。
そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。
「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」
「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」
「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」
「うん、クーちゃん」
「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」
これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる