86 / 110
コウイチという男
1
しおりを挟む
「過去の部屋」へ戻った。新田さんはいなかった。俺たちが帰って来るのを見て、部屋を出て行ったのだろう。
俺は、奥にあるソファに座った。笹元公園でそうしてたように、床を見つめて時間が過ぎるのを待った。コウイチは、空間をスキャンするためのスイッチを入れると、俺と反対側のパソコンの前に座った。壁の時計を見ると、針は2時半を差していた。
朝食を摂ってからこう君が入れてくれたコーヒーを飲んだだけで何も口にして無いが、食欲は一切なかった。
『こう君…』
今朝、バスを降りてすぐに会った時の嬉しそうな顔…。
一緒に映画館へ行けると輝かせた顔…。
『好き、好きなんだ…。』
掠れた声で真面目に告白して来た…。
そして、こう君のショックを受けた顔を思い出すと、胸が押し潰されるような気がした。
今までに8回過去に飛んだ。計画ではあと2回行く事になっているはず。
『これから、どうすれば良い?』
少なくとも、今まで通りへらへらと笑って過ごすことができないのは明らかだった。
『次にこう君にあった時、どんな言葉をかける?』
俺は気にしてないよ…。笑って言ってあげることができるだろうか…。
『もし、また同じようなことがあったら?』
きっとまた俺は抵抗するだろう…。俺はコウイチが…。
『コウイチ…』
目を上げると、パソコンに向かうコウイチの後ろ姿が目に入った。まだ、帽子を被ったままだ。机に肘をついて手を顔の前で合わせ、パソコンの画面を熱心に見ているようだ。
『…?…』
立ち上がり、コウイチのそばへ歩いていく。コウイチが見ていたのは、メガネをかけたままの自分の姿だった。パソコンの画面にはパソコンが合わせ鏡のように無数に並んで奥行きを作っていた。
その隣のパソコンには、俺が今見ているコウイチが写し出されている。俺は自分のメガネを外してスイッチを切ると、テーブルの上に置いた。
「コウイチ…?」
声を掛けて、肩に手を置く。コウイチはたった今目が覚めたかのようにビクッと体を揺らし、こちらを振り返った。
「…ああ、ごめん。…考え事をしていた。」
「どうしたの?」
「いや…」
コウイチらしくない。表情も冴えない。そう言えば、今日は朝から変だった。
「コウイチ、なに…」
『何かあったのか?』と言う言葉がコウイチの次の言葉に遮られた。
「余り気にするな。大丈夫だ。今日はゆっくり休め。報告は俺から入れておく。」
…気にするなってコウイチのこと?こう君のこと?
…大丈夫だって何が?
…コウイチは何を知ってるの?
…何でそんなに…辛そうなの?
聞きたいことは山ほどあったが、何も聞けなかった。立ち上がって白い部屋へ出るドアを開けたコウイチに追い立てられるように、俺は「過去の部屋」を後にした。
俺は、奥にあるソファに座った。笹元公園でそうしてたように、床を見つめて時間が過ぎるのを待った。コウイチは、空間をスキャンするためのスイッチを入れると、俺と反対側のパソコンの前に座った。壁の時計を見ると、針は2時半を差していた。
朝食を摂ってからこう君が入れてくれたコーヒーを飲んだだけで何も口にして無いが、食欲は一切なかった。
『こう君…』
今朝、バスを降りてすぐに会った時の嬉しそうな顔…。
一緒に映画館へ行けると輝かせた顔…。
『好き、好きなんだ…。』
掠れた声で真面目に告白して来た…。
そして、こう君のショックを受けた顔を思い出すと、胸が押し潰されるような気がした。
今までに8回過去に飛んだ。計画ではあと2回行く事になっているはず。
『これから、どうすれば良い?』
少なくとも、今まで通りへらへらと笑って過ごすことができないのは明らかだった。
『次にこう君にあった時、どんな言葉をかける?』
俺は気にしてないよ…。笑って言ってあげることができるだろうか…。
『もし、また同じようなことがあったら?』
きっとまた俺は抵抗するだろう…。俺はコウイチが…。
『コウイチ…』
目を上げると、パソコンに向かうコウイチの後ろ姿が目に入った。まだ、帽子を被ったままだ。机に肘をついて手を顔の前で合わせ、パソコンの画面を熱心に見ているようだ。
『…?…』
立ち上がり、コウイチのそばへ歩いていく。コウイチが見ていたのは、メガネをかけたままの自分の姿だった。パソコンの画面にはパソコンが合わせ鏡のように無数に並んで奥行きを作っていた。
その隣のパソコンには、俺が今見ているコウイチが写し出されている。俺は自分のメガネを外してスイッチを切ると、テーブルの上に置いた。
「コウイチ…?」
声を掛けて、肩に手を置く。コウイチはたった今目が覚めたかのようにビクッと体を揺らし、こちらを振り返った。
「…ああ、ごめん。…考え事をしていた。」
「どうしたの?」
「いや…」
コウイチらしくない。表情も冴えない。そう言えば、今日は朝から変だった。
「コウイチ、なに…」
『何かあったのか?』と言う言葉がコウイチの次の言葉に遮られた。
「余り気にするな。大丈夫だ。今日はゆっくり休め。報告は俺から入れておく。」
…気にするなってコウイチのこと?こう君のこと?
…大丈夫だって何が?
…コウイチは何を知ってるの?
…何でそんなに…辛そうなの?
聞きたいことは山ほどあったが、何も聞けなかった。立ち上がって白い部屋へ出るドアを開けたコウイチに追い立てられるように、俺は「過去の部屋」を後にした。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】
海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。
発情期はあるのに妊娠ができない。
番を作ることさえ叶わない。
そんなΩとして生まれた少年の生活は
荒んだものでした。
親には疎まれ味方なんて居ない。
「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」
少年達はそう言って玩具にしました。
誰も救えない
誰も救ってくれない
いっそ消えてしまった方が楽だ。
旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは
「噂の玩具君だろ?」
陽キャの三年生でした。
からっぽを満たせ
ゆきうさぎ
BL
両親を失ってから、叔父に引き取られていた柳要は、邪魔者として虐げられていた。
そんな要は大学に入るタイミングを機に叔父の家から出て一人暮らしを始めることで虐げられる日々から逃れることに成功する。
しかし、長く叔父一族から非人間的扱いを受けていたことで感情や感覚が鈍り、ただただ、生きるだけの日々を送る要……。
そんな時、バイト先のオーナーの友人、風間幸久に出会いーー
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!
みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。
そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。
初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが……
架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。
十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います
塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる