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10年前
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白い壁を手紋で開ける。いつものように…いるはずのコウイチは居なかった。
「あ、あれ?…おはようございます…。」
恐る恐る入ってみると、奥のパソコンに向かって帽子を被ったコウイチがいた。
「コウイチ!おはよう!」
思わず笑顔になって近づきながら話しかける。
「…おはよう」
どうした?なぜこっちを見ない?
コウイチが操作しているパソコンの2つの画面には、この部屋の天井と、まさにコウイチが今かけているメガネの画像であろう、パソコンの画面が映っていた。その隣のパソコンにはよく分からない数字が並んだ表があり、何秒か毎に数字が変化していた。
「どうした?今日も一緒に飛んでくれるんだろ?新田さんは?」
ここでようやくコウイチがこちらを向いた。
「今来る。」
そのままこちらを見ようとせずに、テーブルへ向かうと、今日の荷物であろう封筒と、スマホ、財布を手渡してきた。
「どうした?…何かコウイチ、変だぞ?」
もともと寡黙なのは分かっている。でも、最近は色々とお喋りして距離が近づいたと思ってたのに…。何だか初めの頃に戻ったような気がした。
「…」
コウイチは答えてくれなかった。
「おっはよ~。」
陽気な声を上げて新田さんがやって来た。
「遅い。」
「ごめんごめん。電車遅れちゃって…。電話したろ?」
新田さんがパソコンの前に座り、画面をチェックし始めた。
「ああ。」
新田さんの高い声にも反応が鈍い…。ほんと、どうしたんだ?
「今日もこの前と一緒でいいね?コウイチの画像が入り口を捉えたら、サヨナラね?」
「ああ、頼む」
サヨナラ?…って帰るって事?
「どうして新田さんは出迎えないんですか?」
俺の疑問に、新田さんが体の向きを変え、分かりやすく答えてくれた。
「それは不必要に拘束されるのが嫌だからだよ。僕はもともと管理人じゃないからね。下で仕事もある。君たちが戻ってくれば身体をスキャンして除染完了するまで居なっきゃならないだろ?時間は半分に短縮になったから、それ程負担でもなくなったけど。」
ナルホド…。そういえばどこかで時短の話を聞いたような…。
「それじゃ、お二人さん、いってらっしゃい!」
新田さんの陽気な声に後押しされ、メガネをかけてスマホを胸ポケットにしまうと、「過去の部屋」の出口に向かった。右側の窓から見える空は、一面の曇り空だった。何となく俺の気持ちも晴れないまま、壁に手紋を合わせた。
「行ってきます。」
「…」
後からついてくるコウイチの心も何処か曇っているようだった。
「あ、あれ?…おはようございます…。」
恐る恐る入ってみると、奥のパソコンに向かって帽子を被ったコウイチがいた。
「コウイチ!おはよう!」
思わず笑顔になって近づきながら話しかける。
「…おはよう」
どうした?なぜこっちを見ない?
コウイチが操作しているパソコンの2つの画面には、この部屋の天井と、まさにコウイチが今かけているメガネの画像であろう、パソコンの画面が映っていた。その隣のパソコンにはよく分からない数字が並んだ表があり、何秒か毎に数字が変化していた。
「どうした?今日も一緒に飛んでくれるんだろ?新田さんは?」
ここでようやくコウイチがこちらを向いた。
「今来る。」
そのままこちらを見ようとせずに、テーブルへ向かうと、今日の荷物であろう封筒と、スマホ、財布を手渡してきた。
「どうした?…何かコウイチ、変だぞ?」
もともと寡黙なのは分かっている。でも、最近は色々とお喋りして距離が近づいたと思ってたのに…。何だか初めの頃に戻ったような気がした。
「…」
コウイチは答えてくれなかった。
「おっはよ~。」
陽気な声を上げて新田さんがやって来た。
「遅い。」
「ごめんごめん。電車遅れちゃって…。電話したろ?」
新田さんがパソコンの前に座り、画面をチェックし始めた。
「ああ。」
新田さんの高い声にも反応が鈍い…。ほんと、どうしたんだ?
「今日もこの前と一緒でいいね?コウイチの画像が入り口を捉えたら、サヨナラね?」
「ああ、頼む」
サヨナラ?…って帰るって事?
「どうして新田さんは出迎えないんですか?」
俺の疑問に、新田さんが体の向きを変え、分かりやすく答えてくれた。
「それは不必要に拘束されるのが嫌だからだよ。僕はもともと管理人じゃないからね。下で仕事もある。君たちが戻ってくれば身体をスキャンして除染完了するまで居なっきゃならないだろ?時間は半分に短縮になったから、それ程負担でもなくなったけど。」
ナルホド…。そういえばどこかで時短の話を聞いたような…。
「それじゃ、お二人さん、いってらっしゃい!」
新田さんの陽気な声に後押しされ、メガネをかけてスマホを胸ポケットにしまうと、「過去の部屋」の出口に向かった。右側の窓から見える空は、一面の曇り空だった。何となく俺の気持ちも晴れないまま、壁に手紋を合わせた。
「行ってきます。」
「…」
後からついてくるコウイチの心も何処か曇っているようだった。
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