未来も過去も

１２年前

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「まずは家でしょ！？」
こう君がダンボールを持ち、歩き始めた。並んで歩くと、ほんの少しだけこう君の肩の方が高い。声も前と比べて随分低くなった。
「こう君、何センチになった？」

「１７５。何だか最近、伸びてない気がするんだよね。だんだん止まるかな。父さんも同じぐらいだし。」
もう少し大きくなる予定だった、とこう君が笑顔でこちらを見た。
「平均は、いってるだろ。俺よりも高いし。」
「そうそう。それ大事だから。」
こう君が笑いながら付け加えた。

「ただいま！小野寺さん来たよ！」
玄関から元気よくこう君が声をかけると、奥から巌城さんが顔を出した。
「いらっしゃい！年末も仕事で大変ですね！」
巌城さんの笑顔は今と全く変わらない。白髪は今より少ないが。この人が、実は俺の上司だったんだ。まだ違うんだろうけど。今の会社は創立１０年にもなってない新しい会社だったはず。…いつ転職するんだろう。

「いえ、こちらこそ。すみません、大晦日にお邪魔して。失礼します。」
俺は挨拶をして、もう馴染みになった巌城家へ足を踏み入れた。
「小野寺さんと一緒に年越しできるなんて最高！」
こう君は隣で満足そうだった。

「とりあえず、今回の指示を確認してきますね。お待ち下さい。」
リビングに通されると、こう君はコーヒーを入れに台所へ行き、巌城さんはダンボールを持って自室に閉じ籠もった。
リビングは、あまり変わらないが、テレビが薄型テレビに変わっていた。現代でも使われているのと変わりない。テレビの上に沢山置いてあったミニカーたちも無くなって、テレビの周りはスッキリと片づいていた。

「いらっしゃい。今蕎麦を打ち始めたの。小野寺さんも一緒にどう？」
コーヒーを運んできたこう君の後ろから、おばあさんがやってきた。
「蕎麦？」
今までに蕎麦打ちなんてやったことない！テレビでは見たことあるけど。俺は好奇心いっぱいで台所へ向かった。

蕎麦を打っていたのはおじいさんだった。
「よお、いらっしゃい。」
顔を上げて挨拶をすると、棒を使ってテーブルの上で鏡餅のような蕎麦を延ばしている所だった。

「家では毎年大晦日に蕎麦打ちをするの。ご近所にも分けるのよ。」
結構評判なのだとおばあさんが笑った。
「３０年もやっていると慣れるよな。」
おじいさんが慣れた手つきで３０センチ大に大きく広がった蕎麦をひっくり返した。

「小野寺君、やってみるか？」
「俺もやる！」
コーヒー片手に成り行きを見ていたこう君が口を出し、一緒に蕎麦打ちをすることにした。