未来も過去も

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「管理人室」

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「おい。起きれるか?」
コウイチの声で目を覚ました。我ながらよく眠れるもんだ。ベッドで体を起こすと、楽に起きられる事に気付いた。

「…楽になった!」
グンと伸びをしてコウイチを見る。まだ背中や太腿に鈍痛はあるが、肩や手足の関節の痛みはすっかりなくなった。服を着替えて濡れた髪のままのコウイチは、カウンターの裏で湯気の上がるものを取り分けていた。そういえば、ほんのりと出汁のいい香りが漂っている。

『ぐーーー。』
腹の虫が盛大に鳴いた。
「ははっ。」
コウイチにも聞こえたらしく、笑いながらお盆を運んできた。

太腿の上にお盆ごと運ばれてきたのは、大きめの丼にたくさん入ったお粥だった。梅干しが1つと紫蘇の葉が散らしてある。

「おいしそう!いただきます!」
レンゲでたっぷりすくってふうふうする。大きな口でかぶりつくと、ほんのりと紫蘇の香りが広がった。
「うまいっ!!」

半分ほど食べたところで、ふと気づいた。
「コウイチのご飯は?」
「俺はもう食べた。…生たらこ・おにぎり。」
カウンターの椅子をこちらに向けて座っていたコウイチが、ちょっぴり意地悪な口調で言った。

「何それ!俺も食べたい!」
ずるいぞ!コウイチ!たらこおにぎりっ!
「はは。バカ。丸一日何も食べなかった奴がよく言う。海苔は消化に悪いだろ。明日の朝作ってやるよ。」

そして、俺に顔を近づけてきた。
「まずは、これを全部食べることが条件だ。」
『絶対に完食する!』
そう決意しながら、レンゲにお粥をすくい口に持っていこうとして、ふとコウイチの濡れたままの前髪が束になっているのに気付いた。

「…コウイチ、…髪の毛切ったら?…男前なんだから。」
レンゲを置いて、コウイチの前髪を摘み上げる。切れ長の目と整った眉が露わになった。
コウイチは椅子ごと後ろに離れ、前髪に手櫛を入れて眉と目を隠してしまった。…あ、おしい…。

「だって、いろいろ見づらいだろ?パソコンだって…。」
俺が気になってたことを言うと、コウイチは聞き取れないぐらいの声で呟いた。
「そんなことはない。…いいんだ。男前なんかじゃなくても…。」

「…それより、いつから呼び捨てに?」
気を取り直したらしいコウイチが、こちらをチラリと見ると、また椅子を前に出しながら近づいてきた。声にも張りが戻ってる。

「!」
あ、あれ?いつから?昨日から脳内で「コウイチ」を連発していた俺は、いつのまにか敬語を忘れてそのまま口にしていたのに気がついた。

「俺の方が4つも年上なんだけどな。」
コウイチが畳みかける。こちらに顔を近づけてちょっぴり口調が意地悪だ。…どうしよう。何だか分からないけど顔が熱くなってきた。しかし、顔を伏せるのは俺のプライドが許さない。そんな俺を見つめていたコウイチは、ポツンと呟いた。


「いいよ。…呼び捨てで。」
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