36 / 110
14年前
3
しおりを挟む
外に出る。冬の冷たい風が肌を突き刺す。
「…さむ…。」
寒さに気を取られたのは一瞬。俺は違和感に気付いた。後ろを振り返る。今まで廃墟のようだった喫茶店が3階建ての小さなビルになっていた。一階は和菓子屋。今、俺は和菓子屋の入り口から出てきた。道路を渡って全体を見渡す。ビルの右手に階段があり、二階に進むようになっている。
『こっちだろうな。』
メガネのスイッチを入れて、俺は迷わずその階段に向かった。
『IWAKI』
階段下に設置されポストには、目的地がここだという目印がはっきりと描かれていた。俺はニヤッと笑って階段を登った。
「こんにちは。FO配達です。」
ガラス製の扉を開けるとすぐにカウンターが設置され、小柄な女性が座っていた。
「いらっしゃいませ。」
温かな笑顔で出迎えた女性に巌城さんがいるか訊ねると、「少々お待ち下さい。」と言って奥の部屋へ入って行った。
室内を見渡す。まだ新しいオフィスは綺麗に整えられている。カウンターの後ろには事務机が3つ置かれている。机にノートパソコンが置かれているが、閉じられていて使っている形跡はない。反対の広い空間には、立派な応接セットが置いてある。そちらに行くべきかな?
「いらっしゃい!待ってました。」
奥の部屋の扉が開くと、ニコニコ笑った巌城さんが作業着姿で現れた。
ソファまで誘導された俺は、早速鞄から取り出した荷物を差し出した。今日も書類だけだ。ここ何回か続いている。
「いやー、小野寺さんの来る予定がわかってから、随分気分が楽になりました。」
そう、4回目の配達の時に運んできた書類と一緒に、俺の今後の予定一覧が付いていたのだ。俺は見せてもらってないけど。
受付の女性がお茶を運んできた。
「はあ、何よりです。」
女性に礼をしてからお茶を受け取ると、巌城さんがさらに言葉を続けた。
「今日も洸は、絶対自分が帰るまで引き留めておくように煩くて。泊まるんだろうと何度も何度も聞いてきました。」
「そうですか。」
こう君の顔を思い浮かべると、自然に笑顔になる。
「こう君は学校ですか?」
「いや、部活です。今日は土曜日ですよ。」
巌城さんがクスッと笑った。
あ、やらかした。日にちはチェックするが、いつも曜日が疎かになる。巌城さんはまたそんな俺を見て、ニコニコ笑った。
「じゃあ行きますか。ちょっと待ってて下さいね。」
巌城さんが書類を持って立ち上がる。俺は慌てた。
「え、どこに?」
「洸、今日練習試合してるんです。観に行きましょう。」
「小池さん、今日はこれで帰るよ。乾さんから電話があったらよろしく伝えて。他に何かあったら携帯に。小池さんも定時には上がってね。」
受付にいた女性に勤務終了だと言い渡し、俺たちはビルを後にした。
「…さむ…。」
寒さに気を取られたのは一瞬。俺は違和感に気付いた。後ろを振り返る。今まで廃墟のようだった喫茶店が3階建ての小さなビルになっていた。一階は和菓子屋。今、俺は和菓子屋の入り口から出てきた。道路を渡って全体を見渡す。ビルの右手に階段があり、二階に進むようになっている。
『こっちだろうな。』
メガネのスイッチを入れて、俺は迷わずその階段に向かった。
『IWAKI』
階段下に設置されポストには、目的地がここだという目印がはっきりと描かれていた。俺はニヤッと笑って階段を登った。
「こんにちは。FO配達です。」
ガラス製の扉を開けるとすぐにカウンターが設置され、小柄な女性が座っていた。
「いらっしゃいませ。」
温かな笑顔で出迎えた女性に巌城さんがいるか訊ねると、「少々お待ち下さい。」と言って奥の部屋へ入って行った。
室内を見渡す。まだ新しいオフィスは綺麗に整えられている。カウンターの後ろには事務机が3つ置かれている。机にノートパソコンが置かれているが、閉じられていて使っている形跡はない。反対の広い空間には、立派な応接セットが置いてある。そちらに行くべきかな?
「いらっしゃい!待ってました。」
奥の部屋の扉が開くと、ニコニコ笑った巌城さんが作業着姿で現れた。
ソファまで誘導された俺は、早速鞄から取り出した荷物を差し出した。今日も書類だけだ。ここ何回か続いている。
「いやー、小野寺さんの来る予定がわかってから、随分気分が楽になりました。」
そう、4回目の配達の時に運んできた書類と一緒に、俺の今後の予定一覧が付いていたのだ。俺は見せてもらってないけど。
受付の女性がお茶を運んできた。
「はあ、何よりです。」
女性に礼をしてからお茶を受け取ると、巌城さんがさらに言葉を続けた。
「今日も洸は、絶対自分が帰るまで引き留めておくように煩くて。泊まるんだろうと何度も何度も聞いてきました。」
「そうですか。」
こう君の顔を思い浮かべると、自然に笑顔になる。
「こう君は学校ですか?」
「いや、部活です。今日は土曜日ですよ。」
巌城さんがクスッと笑った。
あ、やらかした。日にちはチェックするが、いつも曜日が疎かになる。巌城さんはまたそんな俺を見て、ニコニコ笑った。
「じゃあ行きますか。ちょっと待ってて下さいね。」
巌城さんが書類を持って立ち上がる。俺は慌てた。
「え、どこに?」
「洸、今日練習試合してるんです。観に行きましょう。」
「小池さん、今日はこれで帰るよ。乾さんから電話があったらよろしく伝えて。他に何かあったら携帯に。小池さんも定時には上がってね。」
受付にいた女性に勤務終了だと言い渡し、俺たちはビルを後にした。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
αなのに、αの親友とできてしまった話。
おはぎ
BL
何となく気持ち悪さが続いた大学生の市ヶ谷 春。
嫌な予感を感じながらも、恐る恐る妊娠検査薬の表示を覗き込んだら、できてました。
魔が差して、1度寝ただけ、それだけだったはずの親友のα、葛城 海斗との間にできてしまっていたらしい。
だけれど、春はαだった。
オメガバースです。苦手な人は注意。
α×α
誤字脱字多いかと思われますが、すみません。
【側妻になった男の僕。】【何故か正妻になった男の僕。】アナザーストーリー
selen
BL
【側妻になった男の僕。】【何故か正妻になった男の僕。】のアナザーストーリーです。
幸せなルイスとウィル、エリカちゃん。(⌒▽⌒)その他大勢の生活なんかが覗けますよ(⌒▽⌒)(⌒▽⌒)
壁穴奴隷No.19 麻袋の男
猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。
麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は?
シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。
前編・後編+後日談の全3話
SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。
※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。
※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。
処女姫Ωと帝の初夜
切羽未依
BL
αの皇子を産むため、男なのに姫として後宮に入れられたΩのぼく。
七年も経っても、未だに帝に番われず、未通(おとめ=処女)のままだった。
幼なじみでもある帝と仲は良かったが、Ωとして求められないことに、ぼくは不安と悲しみを抱えていた・・・
『紫式部~実は、歴史上の人物がΩだった件』の紫式部の就職先・藤原彰子も実はΩで、男の子だった!?というオメガバースな歴史ファンタジー。
歴史や古文が苦手でも、だいじょうぶ。ふりがな満載・カッコ書きの説明大量。
フツーの日本語で書いています。
帝国皇子のお婿さんになりました
クリム
BL
帝国の皇太子エリファス・ロータスとの婚姻を神殿で誓った瞬間、ハルシオン・アスターは自分の前世を思い出す。普通の日本人主婦だったことを。
そして『白い結婚』だったはずの婚姻後、皇太子の寝室に呼ばれることになり、ハルシオンはひた隠しにして来た事実に直面する。王族の姫が19歳まで独身を貫いたこと、その真実が暴かれると、出自の小王国は滅ぼされかねない。
「それなら皇太子殿下に一服盛りますかね、主様」
「そうだね、クーちゃん。ついでに血袋で寝台を汚してなんちゃって既成事実を」
「では、盛って服を乱して、血を……主様、これ……いや、まさかやる気ですか?」
「うん、クーちゃん」
「クーちゃんではありません、クー・チャンです。あ、主様、やめてください!」
これは隣国の帝国皇太子に嫁いだ小王国の『姫君』のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる