未来も過去も

もこ

文字の大きさ
上 下
31 / 110
「過去の部屋」

3

しおりを挟む
エレベーターまでは20メートルもないぐらいだから、あっという間に着いた。田所さんは荷物を下ろして支えながら、当然のように下へ向かうボタンを押した。
「あの、俺はここで。」
休みだと言った以上、下に降りないのは気が引けたが、これ以上田所さんと関わりたくなかった。どこに行くのか訊ねられるのはまずい。外へ出るのだと思われるのはもっとまずい。

「ああ、じゃあ私はこれで。」
何か考えていた田所さんはこちらを向くと、意外にもアッサリと荷物を離して解放してくれた。
「ありがとうございました。」
ホッとしてつい笑顔になって挨拶をした。

田所さんは一瞬ビックリしたような顔をしたが、みるみる耳を赤くして口元を押さえた。
「こちらこそ。今度、一緒にご飯でも食べましょう。」
モゴモゴ手の中で喋ると、ちょうどきたエレベーターに入っていった。

『ご飯でも食べましょ、って何だ?何で赤くなった?』

頭がはてなマークでいっぱいになったが、気を取り直して荷物を持ち上げた。
「っと、と…。」
思ったより重い。田所さんよく肩の上に上げたな。俺にも出来るかな。その方が楽なのかも。思い切り抱え上げ、肩の上に乗せようとしたが、バランスを崩した。

「おおおっ!」
まずい!落としちゃダメだ!荷物を両手でがっしりと掴んだが、バランスを保てず、後ろによろけてしまった。

幸い1、2歩後退したところが壁で、ドスンとぶつかって止まった。そのままズルズルとしゃがみ込む。荷物を落とさなくて良かったあ。この重さは無理だ。どこかに台車ないかな?キョロキョロと辺りを見回していると、「ピン」と音がして目の前の扉が開いた。

「…何をしている?」
低音ボイスで呟きながらエレベーターから出てきたのはコウイチだった。何だかグレーのパーカーの上に黒のミリタリーシャツを重ねて楽な装いだ。明るい色のズボンが足の長さを強調している。これで髪型変えればモテるだろうに。

「あ、お、重くて…。ちょっとバランス崩した。」
何だか恥ずかしくて、ヘラリと笑ってみせた。コウイチは、俺の腹にある荷物を持ち上げ傍に置くと、手を差し伸べて立たせてくれた。

「どこに行くんだ。」
荷物を抱えてこちらを見た。俺は上を指で示した。
「君のとこ。」
「はあ?」
狙い通り、唖然としてくれた。ちょっと嬉しい。
「それ、プレゼント。いつも美味しいご飯食べさせてもらってるから。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

これって普通じゃないの?~お隣の双子のお兄ちゃんと僕の関係~

syouki
BL
お隣の5歳上のお兄ちゃんたちと兄弟のように育ってきた僕の日常。 えっ?これって普通じゃないの? ※3Pが苦手な方は閉じてください。 ※下書きなしなので、更新に間があきます。なるべくがんばります。。。(土日は無理かも) ※ストックが出来たら予約公開します。目指せ毎日!! ※書きながらかなりエロくなりました…。脳内ヤバいですwww ※エールをしてくれた方、ありがとうございますm(_ _)m 

【R18】孕まぬΩは皆の玩具【完結】

海林檎
BL
子宮はあるのに卵巣が存在しない。 発情期はあるのに妊娠ができない。 番を作ることさえ叶わない。 そんなΩとして生まれた少年の生活は 荒んだものでした。 親には疎まれ味方なんて居ない。 「子供できないとか発散にはちょうどいいじゃん」 少年達はそう言って玩具にしました。 誰も救えない 誰も救ってくれない いっそ消えてしまった方が楽だ。 旧校舎の屋上に行った時に出会ったのは 「噂の玩具君だろ?」 陽キャの三年生でした。

からっぽを満たせ

ゆきうさぎ
BL
両親を失ってから、叔父に引き取られていた柳要は、邪魔者として虐げられていた。 そんな要は大学に入るタイミングを機に叔父の家から出て一人暮らしを始めることで虐げられる日々から逃れることに成功する。 しかし、長く叔父一族から非人間的扱いを受けていたことで感情や感覚が鈍り、ただただ、生きるだけの日々を送る要……。 そんな時、バイト先のオーナーの友人、風間幸久に出会いーー

この愛のすべて

高嗣水清太
BL
 「妊娠しています」  そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。  俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。 ※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。  両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。

大嫌いだったアイツの子なんか絶対に身籠りません!

みづき
BL
国王の妾の子として、宮廷の片隅で母親とひっそりと暮らしていたユズハ。宮廷ではオメガの子だからと『下層の子』と蔑まれ、次期国王の子であるアサギからはしょっちゅういたずらをされていて、ユズハは大嫌いだった。 そんなある日、国王交代のタイミングで宮廷を追い出されたユズハ。娼館のスタッフとして働いていたが、十八歳になり、男娼となる。 初めての夜、客として現れたのは、幼い頃大嫌いだったアサギ、しかも「俺の子を孕め」なんて言ってきて――絶対に嫌! と思うユズハだが…… 架空の近未来世界を舞台にした、再会から始まるオメガバースです。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

処理中です...