11 / 110
「元」
1
しおりを挟む「元」は飲み始めるには早い時間からか、客は少なくカウンターにスーツ姿の男性が一人とテーブル席が2つ埋まってるだけだった。予約のしてある俺たちは、奥の個室に通される。ショッピングモールの中にあるとはいえ、地元の魚屋の3代目が作るつまみは旨く、いつもサラリーマンや買い物帰りの客で賑わっている。
「さて、報告を聞こうか。」
お通しと頼んだビールが届くと、カンパイもそこそこに課長が口を開いた。
「特に問題はなかったと思います。当日のスケジュールは、メールで報告した通りです。」
配達業務の翌日、部屋に備え付けてあるパソコンで当日の動きを報告していた。
「あ、でも先方に名前を聞かれて初めて名乗りました。あとこれから何度か俺が訪ねることも。大丈夫ですよね?」
ビールを飲みながら話す。
「ああ。大丈夫。」
頼んだ刺身や焼き魚が運ばれてきて、それを受けとりながらそれまで黙っていた生田が口を開いた。
「正直、やっぱキツいですねー。たまにここから出たくなります。」
「ははは。そうだろうな。小野寺君は?」
「俺はまだ大丈夫です。」
俺の言葉に生田が被せるように話す。
「小野寺は性欲薄いから。」
「な、な、な…何言ってんだよっ!」
真っ赤になる俺と、そんな俺を見て大笑いする課長。笑っている課長に生田が訪ねた。
「今までの人はどんなふうに過ごしていたんすかね。1年も拘束されて。ここの唯一の弱点は外からの人が泊まれるスペースがない事ですよ。部屋に誰も連れ込めないし。」
「お前たちが初めてだからな。今後考えるだろう。」
課長の言葉で驚いた。
「俺たちが最初なんですか?」
「ああ。あの部屋が機能するようになって5年になるが、そこからあらゆる可能性とリスクを考えて、今回のプロジェクトを行動に移すまで時間がかかったようだ。」
マグロの刺身を醤油につけながら、ずっと聞きたかったことを聞いてみた。
「課長はいつから関わっているんですか?」
「3年前。お前たちと同じくスカウトされてな。それまでは経理部の1社員だった。何にも知らずに毎日売り上げの確認してたよ。」
「どうして配達員は拘束されるんでしょう?」
「それはリスクを増やさないためだ。色々とな。」
店員が唐揚げを運んできたので、それ以上追求するのをやめた。
「その色々で禁欲生活なんすよ。どうやって解消しよ。」
「いろいろあるだろう。」
どんな「いろいろ」があるか、生田と課長が盛り上がっているそばで、俺は自分が性欲が薄いかどうかを考えていた。そういえば今までの彼女とは、自分から求めたことがなかったかも。けど、ちゃんとできたし、彼女も感じていたし。…感じてたよな?
自分の経験が人よりも少ないかも知れない。少ないのか?分からん。でも今のこの状況で経験を積むとしても…。
「さて、報告を聞こうか。」
お通しと頼んだビールが届くと、カンパイもそこそこに課長が口を開いた。
「特に問題はなかったと思います。当日のスケジュールは、メールで報告した通りです。」
配達業務の翌日、部屋に備え付けてあるパソコンで当日の動きを報告していた。
「あ、でも先方に名前を聞かれて初めて名乗りました。あとこれから何度か俺が訪ねることも。大丈夫ですよね?」
ビールを飲みながら話す。
「ああ。大丈夫。」
頼んだ刺身や焼き魚が運ばれてきて、それを受けとりながらそれまで黙っていた生田が口を開いた。
「正直、やっぱキツいですねー。たまにここから出たくなります。」
「ははは。そうだろうな。小野寺君は?」
「俺はまだ大丈夫です。」
俺の言葉に生田が被せるように話す。
「小野寺は性欲薄いから。」
「な、な、な…何言ってんだよっ!」
真っ赤になる俺と、そんな俺を見て大笑いする課長。笑っている課長に生田が訪ねた。
「今までの人はどんなふうに過ごしていたんすかね。1年も拘束されて。ここの唯一の弱点は外からの人が泊まれるスペースがない事ですよ。部屋に誰も連れ込めないし。」
「お前たちが初めてだからな。今後考えるだろう。」
課長の言葉で驚いた。
「俺たちが最初なんですか?」
「ああ。あの部屋が機能するようになって5年になるが、そこからあらゆる可能性とリスクを考えて、今回のプロジェクトを行動に移すまで時間がかかったようだ。」
マグロの刺身を醤油につけながら、ずっと聞きたかったことを聞いてみた。
「課長はいつから関わっているんですか?」
「3年前。お前たちと同じくスカウトされてな。それまでは経理部の1社員だった。何にも知らずに毎日売り上げの確認してたよ。」
「どうして配達員は拘束されるんでしょう?」
「それはリスクを増やさないためだ。色々とな。」
店員が唐揚げを運んできたので、それ以上追求するのをやめた。
「その色々で禁欲生活なんすよ。どうやって解消しよ。」
「いろいろあるだろう。」
どんな「いろいろ」があるか、生田と課長が盛り上がっているそばで、俺は自分が性欲が薄いかどうかを考えていた。そういえば今までの彼女とは、自分から求めたことがなかったかも。けど、ちゃんとできたし、彼女も感じていたし。…感じてたよな?
自分の経験が人よりも少ないかも知れない。少ないのか?分からん。でも今のこの状況で経験を積むとしても…。
0
お気に入りに追加
36
あなたにおすすめの小説
社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
十七歳の心模様
須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない…
ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん
柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、
葵は初めての恋に溺れていた。
付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。
告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、
その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。
※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
君のことなんてもう知らない
ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。
告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。
だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。
今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、他の人と恋を始めようとするが…
「お前なんて知らないから」
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる