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やきもち
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俺はギョッとして彼女を見つめた。俺のことには目もくれず、真っ直ぐに洸一のことを見て歩いてくる。な、何をする気!?
「ねぇ、智弘さん。これでも分からない?」
洸一と俺との境目に立った女は、徐に髪の毛を解くとハーフアップに縛り直した。途端に、活発なイメージから清楚な雰囲気に変わった姿を唖然と眺めた。緩くウェーブがかった髪が肩の下まで伸びている。もう少し化粧を薄くすれば、モテるかもしれない。が、厚い化粧が邪魔をしている。
「分からないな。それに俺は智弘じゃない。」
洸一はずっとウィスキーに目線を置いて、同じ調子であしらっている。俺もこの女の勘違いにイライラがつのってきた。せっかく楽しい時間だったのに…。
「陽和さん、この方の名前は智弘さんではありませんよ。それに、偽名を語る方でもありません。もうすぐ、美香さんがいらっしゃるのでしょう?髪を直してきてはいかがですか?」
マスターが穏やかな口調で諭すが、女は聞いてはいないようだった。
「ねぇ、こっち向いて…」
「やめろっ!」
女の手が洸一の肩に触れた途端、俺は反射的にその腕を振り払っていた。
驚いた顔の洸一が、サッとこちらに振り向く。俺は立ち上がって洸一の頬を両手で包み込んで上を向かせると、唇を重ねた。舌を入れて濃厚なやつを女に見せつける。上顎をなぞり舌を捕まえると、洸一も俺の頭を引き寄せて、それに応えてくれた。
「…ンはあっ…はあっ……。」
洸一の頭を胸に抱え込み、呼吸を整えて女を睨んだ。
「洸一は俺の男だ。3月だって!?…2月からこっち、1日たりとも離れて夜を過ごしたことはない。勘違いにもほどがあるだろっ!気分が悪いっ!とっとと失せろっ!」
呆然と見ていた女に睨みを利かせていると、洸一が立ち上がって俺を引き寄せた。
「ということだ。悪いな。連れが来たらどこかに消えてくれ。マスター、帰る。釣りは要らない。」
洸一は、ポケットからお札を1枚出してマスターに渡すと、さっきとは反対に、俺の顔を持ち上げた。こ、洸一っ!?また…?
「……んんんんっ…。」
舌で何度も優しく唇をノックされたかと思うと、激しく吸いつかれた。目を閉じるべきなのが分かるけど、閉じられなかった。女はまだ呆然と俺たちを見ている…マスターは洸一が渡した1万円札で目隠しするようにしながらも、下から覗き込んでる…。洸一…分かったから………もう…ヤバイ…。
「帰るぞ。」
俺が洸一の腕をタップすると、洸一がようやく唇を離して耳元で囁いた。い、今耳はヤバイから…。ここは俺たちの部屋じゃないから……分かってる…?
「じゃ、マスター。また。」
「ご馳走さまでした。お幸せに。」
俺は何も言えないでいるうちに、洸一に引きずられるようにして扉に向かった。扉を抜ける瞬間に振り返ってみると、満面の笑顔で見送るマスターと、渋面を作ってこちらを見ている女が見えた。
外に出ると、涼しくなった秋の風が柔らかく頬を撫でた。洸一は速足で大通りまで出ると、タクシーを捕まえるのに手を挙げた。
「こ、洸一…速いっ!」
俺が文句を言うと、挙げていた手を下ろして、洸一が抱きしめてきた。
「嬉しかったんだ。…早く帰って……続きをしよう。」
顎を持ち上げられ、洸一の傾けた顔が近づいてきた。俺も…俺も早く続きを…したい…。
…早くタクシーがつかまりますように…。洸一の濃厚なキスを受け止めながら、洸一の背中に回した手をちょっとだけ上に向けた。
「ねぇ、智弘さん。これでも分からない?」
洸一と俺との境目に立った女は、徐に髪の毛を解くとハーフアップに縛り直した。途端に、活発なイメージから清楚な雰囲気に変わった姿を唖然と眺めた。緩くウェーブがかった髪が肩の下まで伸びている。もう少し化粧を薄くすれば、モテるかもしれない。が、厚い化粧が邪魔をしている。
「分からないな。それに俺は智弘じゃない。」
洸一はずっとウィスキーに目線を置いて、同じ調子であしらっている。俺もこの女の勘違いにイライラがつのってきた。せっかく楽しい時間だったのに…。
「陽和さん、この方の名前は智弘さんではありませんよ。それに、偽名を語る方でもありません。もうすぐ、美香さんがいらっしゃるのでしょう?髪を直してきてはいかがですか?」
マスターが穏やかな口調で諭すが、女は聞いてはいないようだった。
「ねぇ、こっち向いて…」
「やめろっ!」
女の手が洸一の肩に触れた途端、俺は反射的にその腕を振り払っていた。
驚いた顔の洸一が、サッとこちらに振り向く。俺は立ち上がって洸一の頬を両手で包み込んで上を向かせると、唇を重ねた。舌を入れて濃厚なやつを女に見せつける。上顎をなぞり舌を捕まえると、洸一も俺の頭を引き寄せて、それに応えてくれた。
「…ンはあっ…はあっ……。」
洸一の頭を胸に抱え込み、呼吸を整えて女を睨んだ。
「洸一は俺の男だ。3月だって!?…2月からこっち、1日たりとも離れて夜を過ごしたことはない。勘違いにもほどがあるだろっ!気分が悪いっ!とっとと失せろっ!」
呆然と見ていた女に睨みを利かせていると、洸一が立ち上がって俺を引き寄せた。
「ということだ。悪いな。連れが来たらどこかに消えてくれ。マスター、帰る。釣りは要らない。」
洸一は、ポケットからお札を1枚出してマスターに渡すと、さっきとは反対に、俺の顔を持ち上げた。こ、洸一っ!?また…?
「……んんんんっ…。」
舌で何度も優しく唇をノックされたかと思うと、激しく吸いつかれた。目を閉じるべきなのが分かるけど、閉じられなかった。女はまだ呆然と俺たちを見ている…マスターは洸一が渡した1万円札で目隠しするようにしながらも、下から覗き込んでる…。洸一…分かったから………もう…ヤバイ…。
「帰るぞ。」
俺が洸一の腕をタップすると、洸一がようやく唇を離して耳元で囁いた。い、今耳はヤバイから…。ここは俺たちの部屋じゃないから……分かってる…?
「じゃ、マスター。また。」
「ご馳走さまでした。お幸せに。」
俺は何も言えないでいるうちに、洸一に引きずられるようにして扉に向かった。扉を抜ける瞬間に振り返ってみると、満面の笑顔で見送るマスターと、渋面を作ってこちらを見ている女が見えた。
外に出ると、涼しくなった秋の風が柔らかく頬を撫でた。洸一は速足で大通りまで出ると、タクシーを捕まえるのに手を挙げた。
「こ、洸一…速いっ!」
俺が文句を言うと、挙げていた手を下ろして、洸一が抱きしめてきた。
「嬉しかったんだ。…早く帰って……続きをしよう。」
顎を持ち上げられ、洸一の傾けた顔が近づいてきた。俺も…俺も早く続きを…したい…。
…早くタクシーがつかまりますように…。洸一の濃厚なキスを受け止めながら、洸一の背中に回した手をちょっとだけ上に向けた。
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