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ゆびわ
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カタカタカタカタ…。
小さなオフィスにキーボードの叩く音が響き渡る。今日は吉川さん以外の全員が集まっていた。吉川さんは3月末で寿退社をする。今日は有休を取っていていない。課長は先ほど電話で呼び出されてどこかに行っていた。
「…小野寺…」
「ん?」
さっきから左の席に座る生田がこちらをチラチラ見ていた。
「小野寺、ちょっと一緒にコーヒーでも入れようぜ。」
いきなり数値を入力している手を止めた生田が俺を誘った。なんだ…コーヒーが飲みたかったの?
給湯室に行って、コーヒーメーカーにコーヒーと水を入れ、スイッチを入れると生田が急に振り返って言った。
「お前、付き合っている奴いるだろ?」
「えっ?い、い、いないよ。」
急な事で対処出来なかった。ジワジワと顔が熱くなる。そんな俺を眺めながら、生田が俺の左後ろの首筋を指差して言った。
「付いてるぜ。愛されたシルシ。」
俺は咄嗟に首筋を押さえて、ニヤニヤ笑う生田の顔を見た。今朝起きた時に洸一の唇が当たっていた所だ…顔が熱い…。顔を洗った時、鏡では見えなかった…。
「エッチの時に付けられたとしたら…女じゃないな…。」
貼ってやるよ、と絆創膏をポケットから取り出して生田が笑った。
まだ顔が赤いような気がする…。生田はまだニヤニヤしながらコーヒーメーカーの後始末をしていた。4人分のコーヒーをお盆に乗せて給湯室を出たところに課長が帰ってきた。
「小野寺君、ちょっといい?」
お盆を生田の机に置いて、課長の後に続き廊下に出る。
「所長が呼んでる。行ってきなさい。」
「所長?」
巌城さんが…何で…?最後の配達任務の事について洸一と一緒に説明を受けて以来、1か月以上巌城さんに会っていなかった。今更、消印の事を言われるんじゃないだろうな?
「小野寺です。失礼します。」
かつて訪れたことのある地下の所長室に足を踏み入れる。一礼して顔をあげると、巌城さんの他には誰もいなくて、その巌城さんが応接セットのソファから立ち上がるところだった。
「小野寺君、さ、入って入って。」
にこにこ笑って手招きする巌城さんにホッとする。消印のことではなさそうだ。
「何か…?」
一礼して巌城さんの前に腰を下ろしながら問いかける。同じく座った巌城さんはどこかソワソワしていて落ち着きがない。
「いやね、小野寺君、来週の土曜日に有休届出しただろ?」
「はい…。」
4月3日。俺がこのショッピングモールから出れるようになった最初の土曜日に神奈川県の実家まで行くことにしていた。もちろん洸一も一緒に。前日から、ちょっとした旅行も兼ねて洸一と出かけ、俺は両親に洸一を紹介しようと思っていた。
「洸一もさ、その前日の金曜日に休みを取ったんだ。それで、閃いたってわけ…」
何が閃いたのか聞きそびれてしまった。
「おっ、所長!!」
大声で慌てて入ってきた洸一の姿に気を取られて…。
小さなオフィスにキーボードの叩く音が響き渡る。今日は吉川さん以外の全員が集まっていた。吉川さんは3月末で寿退社をする。今日は有休を取っていていない。課長は先ほど電話で呼び出されてどこかに行っていた。
「…小野寺…」
「ん?」
さっきから左の席に座る生田がこちらをチラチラ見ていた。
「小野寺、ちょっと一緒にコーヒーでも入れようぜ。」
いきなり数値を入力している手を止めた生田が俺を誘った。なんだ…コーヒーが飲みたかったの?
給湯室に行って、コーヒーメーカーにコーヒーと水を入れ、スイッチを入れると生田が急に振り返って言った。
「お前、付き合っている奴いるだろ?」
「えっ?い、い、いないよ。」
急な事で対処出来なかった。ジワジワと顔が熱くなる。そんな俺を眺めながら、生田が俺の左後ろの首筋を指差して言った。
「付いてるぜ。愛されたシルシ。」
俺は咄嗟に首筋を押さえて、ニヤニヤ笑う生田の顔を見た。今朝起きた時に洸一の唇が当たっていた所だ…顔が熱い…。顔を洗った時、鏡では見えなかった…。
「エッチの時に付けられたとしたら…女じゃないな…。」
貼ってやるよ、と絆創膏をポケットから取り出して生田が笑った。
まだ顔が赤いような気がする…。生田はまだニヤニヤしながらコーヒーメーカーの後始末をしていた。4人分のコーヒーをお盆に乗せて給湯室を出たところに課長が帰ってきた。
「小野寺君、ちょっといい?」
お盆を生田の机に置いて、課長の後に続き廊下に出る。
「所長が呼んでる。行ってきなさい。」
「所長?」
巌城さんが…何で…?最後の配達任務の事について洸一と一緒に説明を受けて以来、1か月以上巌城さんに会っていなかった。今更、消印の事を言われるんじゃないだろうな?
「小野寺です。失礼します。」
かつて訪れたことのある地下の所長室に足を踏み入れる。一礼して顔をあげると、巌城さんの他には誰もいなくて、その巌城さんが応接セットのソファから立ち上がるところだった。
「小野寺君、さ、入って入って。」
にこにこ笑って手招きする巌城さんにホッとする。消印のことではなさそうだ。
「何か…?」
一礼して巌城さんの前に腰を下ろしながら問いかける。同じく座った巌城さんはどこかソワソワしていて落ち着きがない。
「いやね、小野寺君、来週の土曜日に有休届出しただろ?」
「はい…。」
4月3日。俺がこのショッピングモールから出れるようになった最初の土曜日に神奈川県の実家まで行くことにしていた。もちろん洸一も一緒に。前日から、ちょっとした旅行も兼ねて洸一と出かけ、俺は両親に洸一を紹介しようと思っていた。
「洸一もさ、その前日の金曜日に休みを取ったんだ。それで、閃いたってわけ…」
何が閃いたのか聞きそびれてしまった。
「おっ、所長!!」
大声で慌てて入ってきた洸一の姿に気を取られて…。
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