男ですが聖女になりました

白井由貴

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IFストーリー(本編9話以降分岐)

IF 6話*

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※この『IFストーリー』は作者が考えていた複数ある没になったプロットの一つを文章化した『もしものお話』です。
※本編10話の途中でクロヴィスに出会わなかった世界線です。本編9話まで読み進めた後に読む事をおすすめします。




 赤い顔をしたリアムが、口を手で押さえながらピクピクと震えている。その表情を見ながら俺は必死にリアムの立派なそれを手で上から下へ、下から上へと何度も扱いていく。何度かその動きを繰り返しているうちにそれは質量をさらに増し、リアムが慌てたように俺の名前を呼んだ時には俺の顔に勢いよく精が放たれた。

「す、すまないっ!大丈夫か?!」
「大、丈夫……ちょっとびっくりしただけ」

 自分の手でもリアムを気持ち良くすることが出来てよかった思いながら、へらりと笑う。するとリアムの顔がまるでリンゴのように赤くなり、へなへなとその場にしゃがみ込んでしまった。

「どうかした?!大丈夫?!」
「あ、ああ、大丈夫……」
「よかった……」
「……その顔で微笑まれると、その……色々クるんだが……」

 赤い顔を逸らしながらそう言ったリアムに俺は首を傾げる。その顔とは、と頬に手を当てるとぬるりとした感触が指先に触れた。そう言えばリアムの精液が掛かったんだったと思い出し、シャワーで顔をゴシゴシと洗うと、リアムはほっとしたような表情を浮かべた。

 これで大丈夫だとリアムの手に手を添えると、リアムが何かを堪えるような表情をした後、リアムの手に添えた俺の手を掴んで引き寄せた。素肌同士が擦れる感覚に、頬が熱くなる。何度も何度も色んな人とこうして素肌を重ね合うことはあったが、今リアムとこうして触れ合っている以上にドキドキすることはなかった。
 
 心臓がはち切れんばかりにどきどきしている。もうすぐ破裂してしまうのではと言うほどにどくんどくんとと大きく鼓動する心臓。

「ラウルの今までを考えると、こうして素肌同士で抱き合うことも怖いだろうが……すまない、我慢できなかった」
「ううん、大丈夫。……リアムなら大丈夫だから」
「その……キスをしてもいいか?」

 リアムがまだほんのりと赤いままの顔でそう聞いてきた。俺はこくりと頷いて目を閉じる。すると少ししてから唇に柔らかな感触が当たった。俺の濡れた唇にリアムの荒れを知らないやわらかなくちびるが吸い付いてくる。啄むように、何度も重ね合う。

 薄く開いた唇から舌を出すと、途端にぴくりと跳ねるリアムの身体。べろぺろと舌先で唇を撫でると彼の唇が薄らと開かれ、おずおずと舌が差し出された。その舌に舌を絡めてちゅうちゅうと吸うと、俺を抱きしめるリアムの腕に力が込められる。苦しくて思わず呻きが漏れた。

 ちゅ、と音を立てて離れた唇。今彼は何を思っているのだろうか。俺は、また元気になったリアムの陰茎に手を伸ばし、手のひらで包むように軽く握ると、また緩く扱きだした。しかしその手はリアムによって止められ、俺達の唇は再び重なる。

「ん、ふっ……んんっ」

 喘ぎ声が鼻から抜ける。さっきとは違って貪るような口付けに呼吸を奪われていく。両手を掴まれてシャワー室の壁に縫い付けるように押し付けられた。

「んっ……ん、ぁっ」
「……っ、ん」

 唇が離れたかと思えば、また塞がれる。何度も角度を変えながらお互いに求め合い、口端からは飲み込めなかったどちらとも言えない唾液が伝っていった。

 漸く離れた頃には俺もリアムも息が上がっていた。リアムの口付けは、俺が今までされてきた誰よりも拙かったが、とても優しいものだった。性行為の前にする前戯のようなものだと思っていた。気持ちが悪くても前戯だからと我慢していたが、彼との口付けは他とは全く違っていたのである。
 
 心が満たされるとはこういうことを言うのだろう。口付けを終えた俺の胸はほかほかと温まっていた。

 リアムが俺の耳を食む。ちゅく、ちゅぱと鼓膜に直接届く水音に無意識に腰が揺れ、ゆるく勃ち上がった陰茎がリアムの足に当たった。リアムはそれに気がついているだろうに、耳の縁や中を舐めたり、耳殻の上部分を緩く噛んだりしている。

「ふ、ぅあ……んっ……あぁッ」

 リアムが膝頭で俺のモノを刺激した。ぐりぐりと柔く刺激を繰り返され、徐々に硬さや質量を増していく。
 耳を弄っていた舌は段々と下へと下がっていき、首筋にちうと吸い付いた。ぴりっとした痛みと共に俺のものは完全に勃ちあがる。

 次は、と舌が胸に移動した時、リアムがぴたりと動きを止めた。

「……リアム?」
「あ、いや……その、このまま続けてしまえばラウルを襲った奴らと一緒なのでは、と思って……」

 俺の手を離して項垂れるリアムに、俺は違うと呟いた。あいつらとなんて全然違う、行為自体はそうかもしれないが俺の心が全然違うんだ。だからやめないで、と言いたかったが、俺は言うことを躊躇してしまった。

 浅ましく求め続けるのがオメガだと頭の何処かでそう思っているからかもしれない。そう思ってしまえば、何も言えなくなってしまう。俺は今人生で一番情けない表情をしていることだろう。

 俺が黙って俯くと、リアムはそれを肯定とみなしたのか「ごめん」と一言呟いた。俺はその謝罪にのろのろと顔を上げると、すぐ近くにリアムの端正な顔とミルキーブロンドの瞳があり、驚きのあまり首をのけ反らせた。しかしリアムはそんな俺の反応には目もくれず、困ったように緩められた目でこちらをじっと見ている。

「違うと言ってくれるのは嬉しいが、無理はしていないか?……その、言うか迷ったんだが、俺は口付けもその先もこれが初めてだから上手くできる自信がないんだ。ラウルを傷つけないか、それだけが心配で……」

 どうやらさっきの謝罪は、リアムと奴らが一緒かもしれないというリアムの言葉を否定したことに対するものだったようだ。まさかあんな小さな呟きが聞こえているとは思わなくて早とちりをしてしまった。

 俺は無理をしていないという意味を込めて頭を横にふるふると振り、はたと気がついた。今リアムが言ったことを脳内で反芻する。彼は今何と言った?口付けもその先も初めてだと言わなかったか?

 皇族というものがどういうものなのか、元庶民の俺にはまだあまりわかっていないが、少なくともこの綺麗で格好良い容姿ならば引く手数多だったのではないだろうか。俺がそう言うとリアムは少し困ったような表情で頬を掻く。

「言い寄られたことも多かったが……いずれは政略結婚させられると思っていたからそういう関係には全く興味がわかなかった」
「……なるほど?」

 確かに皇子ともなれば政略結婚が普通なのかもしれない。第一皇子や第二皇子にも婚約者がいたはずだ。ともすればリアムもそろそろ婚約者を決められる頃合いなのだろうか。

 そこまで考えて、あれ?と思う。
 もしかしてリアムには既に婚約者がいるのだろうか。そうだとしたら俺が今した行為は……と考えているうちに血の気が引いてきた。しかしそれはすぐに解決する。

「まあまだ俺には婚約者なんていないんだが」

 付け加えられた言葉に俺は内心ほっとした。婚約者がいないと言うことにほっとしたのか、それともこの行為が罰せられるものではないことがわかったからなのか、それは自分でもわからない。

「今はラウルが好きだから、その……ラウルと恋人、というより結婚したいと思っている」
「……へ?」

 俺はその時、一目惚れだったと言われた時のことを思い出した。リアムは初めて会った時から俺の事をずっと好きだと言ってくれるけど……俺は?俺はリアムのことをどう思っているのだろうか。

 俺の心は一度壊れ掛けている。その所為なのかはわからないが自分の気持ちがよくわからない。愛がなくても性行為は出来る。愛がなくても快感は得られると知った。けれど俺はそれが虚しいことも知っている。
 俺はリアムのことが嫌いではない、寧ろ好きだ。だけどこの好きと言う気持ちがリアムと同じ恋愛感情の意味なのかがわからなかった。

 俺は、もしかしたら間違いを今から起こそうとしているかもしれない。誰か俺の口を止めてくれ、そう思いながらもつい口に出してしまった。

「もしリアムが良いのならその……俺と……しないか?」
 
 
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