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本編
29話*
しおりを挟む※この話はルネの回想ですが、話の都合上『補足:回想』ではなく、話数を付けて『本編』として更新しています。
【Side:ルネ】
さて僕が聖女になってからの話をしようか。
僕は聖女になる前、とある田舎街で親戚の手伝いをしながら穏やかに暮らしていたんだ。元は帝都に住んでいたんだけど、そこでちょっと人生に絶望して、僕は帝都から遠く離れた土地に逃げ出した。
「……なんで、髪が……?」
初めてのヒートもまだの頃、ある朝起きると髪の色が元の黒に近い紫色から白っぽい金色に変わっていて、僕はその瞬間から聖女になっていた。
「大丈夫よ。その髪色は聖女の証、さあ共に大聖堂へ行きましょう」
髪色が変わったことでパニックになっていた僕の耳に届いたのは優しげな女性の声だった。どこから聞きつけたのかわからないがその女性は大聖堂の人間だったようで、僕はあれよあれよと言う間に何もわからないまま大聖堂へと連行された。
大聖堂に着いてからは、聖女なら誰もが通る道だと思うけど確認と称して好き勝手に身体を暴かれた。最初は好きでもない男達に毎日犯され続けて嫌悪感でいっぱいだったけど、その頃の僕には生きる気力も生きる意味さえもなくて、自分のことなんて日を追う毎にどうでも良くなっていった。
激しく抱かれている時やヒートの最中だけは嫌なことを全部忘れられるから、途中からは自分から股を開いていたし、本能のままに快楽を求めていた。でも自分の意思で快楽に逃げることを選んだ筈なのに、どうしてか心だけはずっと泣いていた気がする。
頭と体と心が各々ばらばらという奇妙な状態が続いて何年か経ったある日、治癒魔法が使えなくなっていた。
「……え、なんで……なんで、魔法が……っ」
「どうしました?聖女ルネ?」
「魔法が……治癒魔法が、使えない……!」
そう言いながらパニックになっている僕を見かねた司教の一人が、その場でうずくまって動けない僕を抱えてベッドに寝かしつける。その後違う司教がやってきて、僕にこう言った。
「ああ、貴方も心が壊れてしまったのですね」
淡々と告げられたその言葉に一瞬ぽかんとなる。そうか、僕の心は壊れてしまったのか。そう他人事のように思った。
心が壊れたら治癒魔法が使えなくなるのだと初めて知った。魔法が使えないということが余程ショックだったのか、僕の頭は真っ白になり、気が付いたら与えられた自分の部屋のベッドにいた。ぼんやりと天井を見つめたまま動かない僕を見かねた司教が更に上の大司教を呼んだようで、隣には白い仮面をつけた大司教が立っていた。
訪れた大司教が僕の首についている金属の輪に触れて何かを唱える。するとちくっとした痛みが首に走り、僕の身体は指一本も動かすことが出来なくなった。そうして彼は動かなくなった僕を何処かに運んでいったんだが、それがまさか入ってはいけないとされる教皇の間だとは思わなかった。
教皇の間の奥、台座の裏の扉に僕の手を翳す大司教。原理はわからないが、大司教が口の中で何かを唱えた後すぐに僕の身体から自分の意思とは関係なく聖属性の魔力が溢れ出して扉の中に流れていく。治癒魔法が使えなくなっても、聖属性の魔力が体内に存在していた事実にほっとしたが、僕はそんな自分に驚いていた。
「……検討を、祈ります」
扉の中に一歩踏み入れた大司教は、僕の身体を冷たい壁に寄り掛からせた後、そう言いながら一歩後ろに下がってパタンと扉を閉じた。僕は下りの階段の手前に一人取り残された形になった。
明かりもなく暗いこの空間でも、僕の目はよく見えたのであまり不安はなかった。それというのも僕の元々の魔力である闇属性のお陰である。人にもよるが、僕は闇属性の魔力と相性が良かったようで、夜目がきいた。
「……おや?お前は確か……ルネ、といったか」
足音が聞こえるなと思っていたら、階段下から明かりと共にぬっと現れたのは若い美丈夫だった。不気味な程に整った容姿、魔力感知に疎い僕でもわかるくらい異様な魔力量。美丈夫――教皇は僕の全身を舐めるように見回して、僕を抱き上げた。
「今日から暫くはこの部屋で過ごすといい。いる物があれば与えよう。……だがその前に、味見といこうか」
僕はこの目を知っている。
欲に塗れ、性欲に溺れた目だ。
彼は僕の衣服を剥ぎ取り、うつ伏せにし、腰をぐっと持ち上げた。聖女の役目とかいうただの無理矢理な性行為の時にもこの臀部を突き出すような格好をさせられていたが、本当にここの奴らはこの格好が好きだなと心の中で嘲笑う。
嫌と言うほど快楽を覚えさせられた身体は、次に起こることを想定してか後孔をヒクヒクとさせている。毎日突っ込まれ続けた後孔は柔らかく、恐らくは前戯がなくても入るだろう。じっと臀部を見つめる美丈夫もそれを理解したのか、ニヤリと笑った。
「ほお……既にヒクついておるな。だがまあ待て、まずは清めねば」
そう言ってベッド脇の椅子に置いていた籠から細い瓶を一本取り出し、蓋を開けたあとその口をあろうことか僕の後孔にずぷりと差し込んだのである。
「……っ、ぁ!」
いくら慣れているとは言っても、それは陰茎を刺されることであって瓶ではない。僕の喉からは嬌声が溢れた。
そこからはもう地獄だった。
洗浄用のポーションが胎内に入ったことを確認した教皇はすぐに自身の陰茎を僕の後孔を穿ち、何回も何回も抽挿を繰り返しては僕の中に精を吐き出し続けた。僕も僕で教皇の手によってずっと絶頂を迎えさせられていた為に、途中からの記憶がない。
気を失っても一定時間が経つと強制的に起こされて、来る日も来る日もこの狭い部屋の中でずっと犯され続けた。どのくらいその生活が続いたのかもわからないが、僕が正気に戻った時には暗いだだっ広い部屋に移動しており、僕はその部屋の奥の壁に鎖で拘束されていた。
「……大丈夫?」
手足を拘束された状態の女性が声をかけてきた。僕よりも少し年上だろう彼女の髪も、僕と同じ髪色だったことから、彼女も聖女であることがわかった。
「私はリナ。数年前からここにいるわ。貴方も聖女よね?お名前は?」
「……僕はルネ」
「そう、良い名前ね。……ルネは、ここがどこだか知っている?」
首を横に振ると、リナはやっぱりと言って笑った。くすくすと言う笑い声が僅かに反響する。
「ここはね、表向き死んだことにされた、心が壊れて使い物にならない聖女達が放り込まれる場所なの。もう何人もこの場所で亡くなったわ」
「……僕にはリナが心を壊しているようには見えないけど」
「そう?なら嬉しいわ。……私はね、聖女になる前の記憶をなくしてしまったの。前ここにいた聖女の一人が私を甲斐甲斐しくお世話してくれてね、それでここまで正気に戻ることが出来たのよ」
もういないのだけれど、と寂しそうに微笑むリナに、僕は何も言えなくて口をきゅっと引き結んだ。
リナは僕を見ながらも、僕を見ていないような目でどこか遠くを見つめながら微笑んでいる。正気のように見えたのだが、もしかしたらまだ彼女の心は壊れてしまったままなのかもしれない。
「ミラは……ええと、ミラというのは私に親切にしてくれた聖女のことなんだけれどね、彼女は色んなことを教えてくれたの」
その時のことを思い出しているのか、彼女はどこか遠い目をしている。リナの癖なのか、話す度に左手の人差し指を右手でぎゅっぎゅと握りしめていた。
「……どんなことを教えてくれたんだ?」
「どんなこと……そうねえ、例えば、私達をここに閉じ込めているのは教皇様だということや、私達はもう外の世界では亡くなったことになっていること、教皇様が私達を抱き続ける理由だとか……本当に色々なことよ」
彼女の言葉に僕は耳を疑った。今、僕の聞き間違いでなければ彼女は『教皇が僕達聖女を抱き続ける理由』だと言わなかったか。聖女の役目について教えられた時、聖女と交われば特殊属性の最大魔力量が増えるのだと聞いたが、教皇が僕達を囲ってまでする意図が全くわからなかったのだ。それを彼女は知っていると言うのだろうか。
「これからたくさん時間があるのだから、私がミラから教えてもらったことを全てルネにお話しするわ。自分が知っている真実をみんなにも知ってほしい、それが彼女の願いだったもの」
本当はすぐにでも聞けばよかったのだろうが、ミラという聖女を思い出しながら寂しそうに微笑む彼女に話を催促する気には到底なれなかった。
毎日一度、枢機卿と見られる白いローブを見に纏った人間数人がが食事を届けに来る。その時だけは拘束が解かれるのかと思えばそうではなく、そのままで食べろと言われた。鎖が届かなければ少し長くはしてもらえるが、それは片方だけであって両方ではない。
僕は聞き手である左手首の鎖だけを伸ばしてもらい、与えられた食事とポーションを毎日腹の中に入れ続けた。
リナとはあれから他愛ない話をしながら親交を深め、どうにかリナの警戒心を緩める事に成功した。その中でわかったことだが、リナは本当に純粋というかとてもか弱い女性だった。聖女になって二年程で心を壊してしまったことにも頷ける。
「そう言えば前に、教皇がどうして聖女を抱き続けるのかを知っているって言っていたけど……どういうことなんだ?」
「ん?……ああ、あれはね、昔教皇様が教皇様になるずっとずっと前に、好きな人がいたらしいの。その人の名前はイザベル。この帝国での初めての聖女だと言われている女性だそうよ」
その話を聞いて、背筋がぞくりとした。
教皇が教皇になる前に好きだった人というのが、帝国初の聖女だという話が突拍子がなさすぎるというのもあるのだが、もしこの話が本当だった場合、あの教皇は長い年月を生きる化け物だということになってしまう。
教皇になる前にイザベルという女性の話を聞いて恋をしたと言うのであればまだいいのだが、これが本当にその言葉の通りであれば大問題ではなかろうか。
そんな困惑する僕の内心を知る由もないリナは、淡々と話を続ける。
「もう一人、ルロワという青年を含めた三人は幼なじみだったそうよ」
「ルロワって……もしかして初代皇帝の?」
「ええ、この帝国の初代皇帝ルロワ・クレイルーンのことらしいわ」
ルロワ・クレイルーンは初代皇帝として有名である。賢帝だったかと言われれば正直なところよくわからないがあ、ただ剣も魔法もかなりの腕前だったと聞いている。
初めは小国だったこの国は何代にも渡り、周りの小国と合併したり国土を取り合う戦争をしたりしてきた。漸く落ち着きを見せた時には既に数十年が経ち、他の国と並べるほどの大きさになっていた。
ルロワは元は様々な小国が集まってできたここをディアンス帝国と名付け、自らが初代皇帝となった、というのが歴史書に載っている文書である。
ただそんな初代皇帝と初代聖女が幼馴染だったとはどこにも載っていない。ましてやそこに教皇も加わるなんて、頭がこんがらがりそうである。
「教皇様は元々、ディアンス帝国になる前の小国にあった大聖堂の教皇の実子で、ルロワが初代皇帝になったのと同時期に教皇様は教皇という地位についたそうよ。そして同じタイミングでイザベルも聖女となったの」
同時期に初代皇帝と初代教皇、そして初代聖女が誕生するというのはいささか出来過ぎている気がする。ましてやその3人が幼馴染という関係性だったこともだ。
「ルロワとイザベルはお互い惹かれあっていて、やがて結婚したそうよ。でも教皇様は諦めきれなかった。イザベルの他にも4人の聖女が誕生したことを知り、大聖堂を建ててそこで聖女を管理することにしたの」
「管理って……」
「聖女を一箇所に集めることで、帝国民に対してアピールする意図もあったのかもしれない。けれどそれは全てイザベルを手に入れるためだった。……さて、今日の話はここでおしまい。続きはまた明日にしましょう」
リナはそこで一旦話を切り上げ、ふうと息を吐き出した。彼女はこうしてミラから聞いた話をする時、いつも別人のようになる。普段は穏やかで優しい彼女が、ミラから聞いた話をする時だけは決まって感情を全てどこかに捨ててしまったかのように、ただ淡々と話していくのだ。
それはまるで誰かが憑依しているかのようだった。
応援ありがとうございます!
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