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番外編 特別な聖夜を貴方に①【2023クリスマス】
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※このお話は本編の時系列とは関係なくお楽しみ下さい。
※このお話には玩具責めが含まれます。苦手な方はご注意ください。
「ねえ、来週の日曜日って空いてる?」
十二月も半ばに差し掛かった今日、恋人の理玖からそんな誘いを受けた。温かな布団の中から手を出して机の上のスマホを取り、カレンダーアプリを起動して日付を確認した時に気がついた。
そうか、来週はもうクリスマスイブなのか。
「恋人になって初めてのクリスマスだし、一緒に過ごせたらって思ってるんだけど……どう?」
「えっと、その日は……あ」
「……え?」
クリスマスイブ――それは恋人達が甘く幸せな夜を過ごす特別なイベントだと何処かで聞いたことがあるが、今までそういう事にあまり縁のなかった俺はすっかり失念していた。つまりは、クリスマスイブだということを忘れて冬休みだし予定もないしと、片っ端からバイトのシフトを入れていたのである。
急に動きを止めた俺に何か気がついたらしい理玖が、そっと俺の背中に額を当てた。未だ素肌のままの背中に理玖の熱い吐息が掛かり、びくりと体が震える。つい先程まで愛されていた身体はほんの少しの刺激にも敏感になっているようで、さっきまで責められていた胎がぞくりと反応した。
「っ、……ごめん、理玖」
「……いいよ、わかってる」
「でも……」
少し切な気な理玖の声音に、俺は謝ることしかできない。俺はいつもそうだ。イベント毎にはあまり敏感な方ではなくて、寧ろ周りに言われて初めてイベントを認識する。元々こういう事には疎いから、友人達が言い始めるまでは全く気が付かずに過ごすことも多かった。
でも今は状況が違う。今までのようにいつも通りバイトをして、家に帰って、家族とパーティーをしてケーキを食べて寝るという訳にはいかない。というよりも、今年は理玖がいるのだ。
……今まで忘れていた俺が言うことではないけれど、俺だって出来れば初めてのクリスマス、そしてクリスマスイブは恋人である理玖と過ごしたい。
「バイト……何時に終わるの?」
「ディナーも入ってるから、早くて十時くらいだと思う」
「……そっか。うん、わかった」
すり、と背中に理玖の柔らかな髪が当たる。少し擽ったくて、寝返りを打って理玖の方に顔を向けると、彼は俯きながら俺の背中に腕を回した。
「……次の日は?」
「え?えっと……あ、休みだ」
「っ、本当?!」
がばりと顔を上げた理玖と目が合う。黒曜石のような瞳はキラキラと輝き、期待に満ちている。俺はその勢いに押されながらもこくりと頷き、スマホの画面を見せた。
繁忙期なのに休んで大丈夫なんだろうかと心配になる一方で、クリスマスが休みで良かったとホッとしている自分がいる。
「ならさ、僕とデートしない?」
おうちデートじゃなくてお外でデート、と付け加えられた言葉。
そういえば俺達はあまり外でのデートというものをしていなかったなと思い出した。男同士というものもあるかもしれないが、基本会うのは理玖の家だけだ。
一緒に映画を見たりご飯を食べたり、話をしたり、身体を重ねたり――いつも同じように過ごしていた。勿論それが嫌だったわけじゃない。一緒にいられるだけでも楽しくて嬉しくて、幸せなことにはかわりない。けれど、理玖と街中を恋人のように連れ添って歩きたかったのも本当だった。
「……いいのか?」
「あのさ……僕だって好きな人と外でデートとか……したいんだよ?でも千草が……嫌かなって思って」
嫌なわけがない、俺がそう言うと理玖は驚いたように目を見開いて、それからとても嬉しそうに笑った。
「じゃあ……クリスマスデート、だね」
はにかむ理玖は可愛い。
女装をしていなくても可愛かった。
「ということで、もう一回戦どう?」
「何が、ということでなんだよ……んっ」
「そういうこと言わないの。……明日から少しの間会えないんだから、千草のこと充電させて」
理玖が俺の上に覆い被さり、妖艶に笑む。さっきまでのゆったりした雰囲気は何だったのかと言いたくなるほどの変わりようにごくりと喉を鳴らすと、彼は瞳を細めて俺に口付けをした。
──それが、今から一週間ほど前のこと。
今日は24日、つまりクリスマスイブである。
意味を調べてみると、本来クリスマスイブとはクリスマスの夜という意味らしく、クリスマスとは24日の日没から25日の日没の期間のことをいうらしい。バイトの休憩中、バイト先の店長である渚さんとクリスマスについて話している時に気になって調べてみたら、そんなことが書いてあった。
理玖に会うのは明日の朝から夜までの一日、ということはだ。つまりは俺と理玖はクリスマスを殆ど余す事なく一緒にいられるということではないだろうか。そう思うとこの後に会うのがより一層楽しみになる。
「お疲れ様です」
「うん、お疲れー。明日は恋人とデートなんでしょ?楽しんでおいで」
「……渚さん、もしかして俺が明日休みなのってやっぱり……」
「ん?……あ、もしかして今気がついた?」
困ったように笑う渚さんは、優し気な双眸で俺を見た。
「だって悠晴くんから千草くんに恋人出来たらしいって聞いてたのに、千草くんったらいつでも入れますって言うんだもの。ありがたい事にうちは皆シフトに入りたがってくれるから人手も足りているし……それに千草くん、最近ずっと出ずっぱりだったでしょ?たまには休まないと!」
「……ありがとうございます」
「ううん、こっちこそいつもありがとうね。本当、千草くんと悠晴くんには助けられてるんだから、クリスマス、楽しんでおいで」
流石は二児の母親かと言うべきか、この人のお店で働いて良かったと心の底から思う。ただのアルバイト従業員のことも考えてくれる優しい人、それが渚さんだった。
それから俺は閉店まで働き、店を出たのは十時を回った頃だった。明日は朝から理玖とのデートだ。今日は賄いも食べたので家に帰ったらさっさと寝ようとスマホを見ながら帰路に着く。
流石に十二月も後半となると夜は寒い。何枚も重ね着をしている筈なのに、身体は少しだけ寒さを訴えている。マフラーから出た口元から白い息が吐き出され、その寒さを物語っていた。
手袋を忘れた手の甲に、ほんのりと冷たい柔らかなものが触れた。それが雪だと認識する前に、手の仄かな熱によって結晶は雫へと姿を変える。ぼんやりと空を見上げれば、真っ暗な空間からひらりひらりと白い花弁のように雪が舞い降りてきていた。
ホワイトクリスマス――そんな言葉が思い浮かび、理玖はきっと喜ぶだろうなと考えて僅かに頬が緩む。しんしんと降る雪は積もるだろうか。積もればいいなと考える俺は、やはりまだまだ子供なのかもしれないと思った。
そうして降り注ぐ雪を眺めていると、不意に手の中のスマホが震えた。ブーブーと小刻みな振動が着信を伝えてくる。誰だろうと視線を落とすと、そこに書かれていた名前に驚きつつも心が弾む。
「――はい、もしもし」
『千草?……僕、だけど』
「うん、知ってる」
俺たちはあまり電話をしない。トークアプリがあるからメッセージだけで会話することが出来るし、どうしても話がしたい時はいつも会って話している。だからこうして電話をすることはほとんどなかった。
電話越しに聞こえる理玖の声はいつもより少しだけ強張っていて、慣れない電話で緊張しているようだった。今頃ベッドの上やソファーの上で正座でもしながら顔を赤くして話しているのだろう。理玖は、そういうやつだ。
今の彼の状況が簡単に想像できて、俺の頬は寒い夜空の下でも少し熱く、緩んでいる。たったこれだけのやり取りなのに胸が温かくなるのは、俺が理玖のことを本当に好きだからなのだろう。
「どうしたの?」
『……その、千草の声が……聞きたくて』
俺の恋人は本当に可愛い。そんな可愛いことを言われた俺の胸はとくんとくんと高鳴ってしまう。ああ、どうしようもなく今すぐに理玖に会いたくなった。
『……千草?』
「今から、そっちに行ってもいいか?」
『えっ……!い、いいの?』
理玖の声が僅かに弾む。
俺はくるりと体を回転させると、来た道を戻り始めた。そして一度通話を終えて、兄へと連絡をする。今日はこのまま出掛けるから明日帰る、そう送るとすぐに了承の意を伝えるスタンプが送られてきた。
※このお話には玩具責めが含まれます。苦手な方はご注意ください。
「ねえ、来週の日曜日って空いてる?」
十二月も半ばに差し掛かった今日、恋人の理玖からそんな誘いを受けた。温かな布団の中から手を出して机の上のスマホを取り、カレンダーアプリを起動して日付を確認した時に気がついた。
そうか、来週はもうクリスマスイブなのか。
「恋人になって初めてのクリスマスだし、一緒に過ごせたらって思ってるんだけど……どう?」
「えっと、その日は……あ」
「……え?」
クリスマスイブ――それは恋人達が甘く幸せな夜を過ごす特別なイベントだと何処かで聞いたことがあるが、今までそういう事にあまり縁のなかった俺はすっかり失念していた。つまりは、クリスマスイブだということを忘れて冬休みだし予定もないしと、片っ端からバイトのシフトを入れていたのである。
急に動きを止めた俺に何か気がついたらしい理玖が、そっと俺の背中に額を当てた。未だ素肌のままの背中に理玖の熱い吐息が掛かり、びくりと体が震える。つい先程まで愛されていた身体はほんの少しの刺激にも敏感になっているようで、さっきまで責められていた胎がぞくりと反応した。
「っ、……ごめん、理玖」
「……いいよ、わかってる」
「でも……」
少し切な気な理玖の声音に、俺は謝ることしかできない。俺はいつもそうだ。イベント毎にはあまり敏感な方ではなくて、寧ろ周りに言われて初めてイベントを認識する。元々こういう事には疎いから、友人達が言い始めるまでは全く気が付かずに過ごすことも多かった。
でも今は状況が違う。今までのようにいつも通りバイトをして、家に帰って、家族とパーティーをしてケーキを食べて寝るという訳にはいかない。というよりも、今年は理玖がいるのだ。
……今まで忘れていた俺が言うことではないけれど、俺だって出来れば初めてのクリスマス、そしてクリスマスイブは恋人である理玖と過ごしたい。
「バイト……何時に終わるの?」
「ディナーも入ってるから、早くて十時くらいだと思う」
「……そっか。うん、わかった」
すり、と背中に理玖の柔らかな髪が当たる。少し擽ったくて、寝返りを打って理玖の方に顔を向けると、彼は俯きながら俺の背中に腕を回した。
「……次の日は?」
「え?えっと……あ、休みだ」
「っ、本当?!」
がばりと顔を上げた理玖と目が合う。黒曜石のような瞳はキラキラと輝き、期待に満ちている。俺はその勢いに押されながらもこくりと頷き、スマホの画面を見せた。
繁忙期なのに休んで大丈夫なんだろうかと心配になる一方で、クリスマスが休みで良かったとホッとしている自分がいる。
「ならさ、僕とデートしない?」
おうちデートじゃなくてお外でデート、と付け加えられた言葉。
そういえば俺達はあまり外でのデートというものをしていなかったなと思い出した。男同士というものもあるかもしれないが、基本会うのは理玖の家だけだ。
一緒に映画を見たりご飯を食べたり、話をしたり、身体を重ねたり――いつも同じように過ごしていた。勿論それが嫌だったわけじゃない。一緒にいられるだけでも楽しくて嬉しくて、幸せなことにはかわりない。けれど、理玖と街中を恋人のように連れ添って歩きたかったのも本当だった。
「……いいのか?」
「あのさ……僕だって好きな人と外でデートとか……したいんだよ?でも千草が……嫌かなって思って」
嫌なわけがない、俺がそう言うと理玖は驚いたように目を見開いて、それからとても嬉しそうに笑った。
「じゃあ……クリスマスデート、だね」
はにかむ理玖は可愛い。
女装をしていなくても可愛かった。
「ということで、もう一回戦どう?」
「何が、ということでなんだよ……んっ」
「そういうこと言わないの。……明日から少しの間会えないんだから、千草のこと充電させて」
理玖が俺の上に覆い被さり、妖艶に笑む。さっきまでのゆったりした雰囲気は何だったのかと言いたくなるほどの変わりようにごくりと喉を鳴らすと、彼は瞳を細めて俺に口付けをした。
──それが、今から一週間ほど前のこと。
今日は24日、つまりクリスマスイブである。
意味を調べてみると、本来クリスマスイブとはクリスマスの夜という意味らしく、クリスマスとは24日の日没から25日の日没の期間のことをいうらしい。バイトの休憩中、バイト先の店長である渚さんとクリスマスについて話している時に気になって調べてみたら、そんなことが書いてあった。
理玖に会うのは明日の朝から夜までの一日、ということはだ。つまりは俺と理玖はクリスマスを殆ど余す事なく一緒にいられるということではないだろうか。そう思うとこの後に会うのがより一層楽しみになる。
「お疲れ様です」
「うん、お疲れー。明日は恋人とデートなんでしょ?楽しんでおいで」
「……渚さん、もしかして俺が明日休みなのってやっぱり……」
「ん?……あ、もしかして今気がついた?」
困ったように笑う渚さんは、優し気な双眸で俺を見た。
「だって悠晴くんから千草くんに恋人出来たらしいって聞いてたのに、千草くんったらいつでも入れますって言うんだもの。ありがたい事にうちは皆シフトに入りたがってくれるから人手も足りているし……それに千草くん、最近ずっと出ずっぱりだったでしょ?たまには休まないと!」
「……ありがとうございます」
「ううん、こっちこそいつもありがとうね。本当、千草くんと悠晴くんには助けられてるんだから、クリスマス、楽しんでおいで」
流石は二児の母親かと言うべきか、この人のお店で働いて良かったと心の底から思う。ただのアルバイト従業員のことも考えてくれる優しい人、それが渚さんだった。
それから俺は閉店まで働き、店を出たのは十時を回った頃だった。明日は朝から理玖とのデートだ。今日は賄いも食べたので家に帰ったらさっさと寝ようとスマホを見ながら帰路に着く。
流石に十二月も後半となると夜は寒い。何枚も重ね着をしている筈なのに、身体は少しだけ寒さを訴えている。マフラーから出た口元から白い息が吐き出され、その寒さを物語っていた。
手袋を忘れた手の甲に、ほんのりと冷たい柔らかなものが触れた。それが雪だと認識する前に、手の仄かな熱によって結晶は雫へと姿を変える。ぼんやりと空を見上げれば、真っ暗な空間からひらりひらりと白い花弁のように雪が舞い降りてきていた。
ホワイトクリスマス――そんな言葉が思い浮かび、理玖はきっと喜ぶだろうなと考えて僅かに頬が緩む。しんしんと降る雪は積もるだろうか。積もればいいなと考える俺は、やはりまだまだ子供なのかもしれないと思った。
そうして降り注ぐ雪を眺めていると、不意に手の中のスマホが震えた。ブーブーと小刻みな振動が着信を伝えてくる。誰だろうと視線を落とすと、そこに書かれていた名前に驚きつつも心が弾む。
「――はい、もしもし」
『千草?……僕、だけど』
「うん、知ってる」
俺たちはあまり電話をしない。トークアプリがあるからメッセージだけで会話することが出来るし、どうしても話がしたい時はいつも会って話している。だからこうして電話をすることはほとんどなかった。
電話越しに聞こえる理玖の声はいつもより少しだけ強張っていて、慣れない電話で緊張しているようだった。今頃ベッドの上やソファーの上で正座でもしながら顔を赤くして話しているのだろう。理玖は、そういうやつだ。
今の彼の状況が簡単に想像できて、俺の頬は寒い夜空の下でも少し熱く、緩んでいる。たったこれだけのやり取りなのに胸が温かくなるのは、俺が理玖のことを本当に好きだからなのだろう。
「どうしたの?」
『……その、千草の声が……聞きたくて』
俺の恋人は本当に可愛い。そんな可愛いことを言われた俺の胸はとくんとくんと高鳴ってしまう。ああ、どうしようもなく今すぐに理玖に会いたくなった。
『……千草?』
「今から、そっちに行ってもいいか?」
『えっ……!い、いいの?』
理玖の声が僅かに弾む。
俺はくるりと体を回転させると、来た道を戻り始めた。そして一度通話を終えて、兄へと連絡をする。今日はこのまま出掛けるから明日帰る、そう送るとすぐに了承の意を伝えるスタンプが送られてきた。
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