ナンパした相手は女装男子でした

白井由貴

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九話 お酒は二十歳になってから④*

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 イキすぎて息も絶え絶えになった俺に理玖はそっと口付ける。はふはふと口を小さく開閉しながら酸素を求める姿に興奮したのか、理玖は履いていたスカートを捲り上げ、パンツをずらしてがちがちに固く反り立った男根を取り出した。
 可愛い女の子のような顔の下、俺よりも大きくて立派な陰茎が反り勃つ様子は違和感を感じるはずなのに、どこか背徳的にも感じられて心臓がどくりと脈打つ。

 ふーふーと息を荒くしながら口角を上げる彼の黒の瞳には確かに雄がいた。姿形は女の子なのに目だけはしっかりと男の欲を宿している。可愛いのに格好良い、俺はその目に胸が高鳴った。
 彼は固くなった男根の先端を俺の後孔に添えた。軽く当てるだけでぴとりと吸い付き、後孔は理玖の陰茎の先端を包み込んでいく。少しでも力を入れればすぐにでも全て挿入ってしまいそうなほど、何度も玩具で解されたそこは柔らかかった。

「ねえ千草、僕は千草の恋人でいてもいい?」
「ん……っ、りくと、恋人がいい……んあっ」
「本当?」
「ほんと、っあ、んん……ッ」

 頷いた瞬間、ずぷんと滑るように理玖の陰茎が全て俺の中に収まった。甘い痺れが全身を満たし、俺の身体は玩具では得られなかった充足感に満たされていく。理玖は繋がったまま俺のことをぎゅっと抱きしめて、涙に濡れる瞼にキスを落とした。

「……っ、千草の中は熱いね……ん、っ」

 きゅっと締まった後孔に、思わずと言った感じで息を詰める理玖。俺の中を確かめるように、緩慢な動きで抽挿し始めた。

 理玖が動く度に感じる甘い痺れに甘い声が口から漏れ出る。ゆっくりと入り口付近まで抜いていき、ずぷずぷと時間を掛けて奥へと進んでいく動き一つ一つに、身体が小さく震えた。

 でも絶頂を迎えるには刺激が足りない。
 何度も何度もイった後の身体は早くイキたいとせがむ様に淡い刺激に震え、切ない吐息が漏れる。熱を分け合うように理玖と抱き合うことは幸せなはずなのに、激しく突いて欲しいという淫らな願望が、僅かな快感を身体が拾う度に俺の脳を占めていった。

 小さな喘ぎ声の合間に理玖の名前を呼ぶと、口角を上げた理玖が「なあに?」と答える。でも急に恥ずかしくなって、もっと突いて欲しい、もっと激しくして欲しいという言葉は口に出せなくて、俺は言葉の代わりに腰を揺らして求めた。
 しかし理玖はにこにこと笑いながらもう一度「なあに?」と言って、焦らすように動かしていた腰をぴたりと止めてしまったのだ。

「え、あっ……りく……?」
「どうして欲しいか、口に出して言ってごらん?」

 結合部を指でつうっと撫でられて、きゅうんと中が締まる。中にいる理玖の形や大きさがはっきりと分かるようで、顔が熱くなった。

「んっ……ほら、千草はどうして欲しいの?」
「あ、っ……う、動いて…….」
「動くだけでいいの?」

 理玖はくすりと笑い、理玖のものが収まっている下腹部をさわさわと撫でた。小さく腰を動かして、これでいいのかともう一度聞かれ、俺はふるふると頭を横に振った。

「んっ……や、もっと奥まで、突いて……ほしい」
「奥まで突いてって……やらしいね、っ」
「んあぁっ!」

 ずちゅんっと最奥を目指して陰茎が深く突き刺さり、ビクビクと身体が弓形に跳ねた。待ち侘びていた物が与えられ、痺れるような快感が全身を支配する。

 あまりの気持ち良さに途切れ途切れに口から喘ぎが漏れ、目尻に涙が浮かぶ。

「や、あんっ!あっ、あ、ッ……も、イく……ッ!」
「んっ……イっていいよ、千草」

 ばちゅん、ばちゅんと音を立てて強く腰を打ち付けられ、頭が真っ白になった。身体が小刻みに震えると同時に雀の涙程の精液がとろりと垂れ、内股に流れていく。

 どうやら俺は達してしまったらしい。しかし理玖はまだ体内で硬さを保ったまま俺の中で動きを止めており、射精はしていないようだった。

「今イったからかな?すごく締まって、絡みついてくる……っ、動いたらすぐイっちゃいそうなくらい、気持ちいいよ」

 ちゅっと音を立てて理玖の唇が俺の唇に触れた。口端を伝う唾液をペロリと舐めた後、瞼にキスが落とされる。

 千草は気持ちいい?と聞かれ、こくこくと頷く。

「ねぇ千草?」
「……?」
「もっと気持ちいいこと、しよっか」
「?……え、あッ……や、あぁっ!」

 イったばかりの萎えた陰茎を握られて腰が跳ねる。今し方出たばかりの精液で濡れる鈴口を親指でくちゅくちゅと弄られ、ぴくんぴくんと小刻みに跳ねてしまう身体に理玖が嬉しそうに笑った。

 またイってしまいそうだと訴えると陰茎への刺激が止んだ。離れていく手を縋るように見つめていると、理玖は幸せそうに微笑みながら俺の両膝を押さえるようにぐぐっと開いていく。

「っ、千草の中、熱くて気持ちいい……もう出たくないくらい……だから、もう少し奥に挿れるね?」
「ふ、ぁっ……?」

 今もう一番奥に当たっているのでは?と理玖を見れば、まるで獣のようにギラついた瞳とかち合った。

 縛られた腕を持たれながら、繋がったままずるずると倒れるようにゆっくりとソファの座面に横たえられる。正常位の状態になり、上から覆い被さるように頭の横に手を置かれた。

「ここで終わりじゃないんだ。……ほら」
「う、くっ……やめ、ぁっ……いっ、あ、あぁッ……!」
「んっ……初めてだからやっぱり狭いね……っ」

 これ以上は入ってはいけないと身体が悲鳴を上げている。酷い圧迫感と痛み、そして脳天を突き抜けるような快感に頭がおかしくなりそうだ。
 やだやだむりだってと髪を振り乱しながら頭を振るが、それもすぐに出来なくなった。痛みと圧迫感とこれから先の未知への恐怖に身体を震わせる。閉じることを忘れたかのように開きっぱなしの口からは涎がこぼれ、見開かれた目からは涙があふれていた。

 みちみちと身体の奥の奥を割り開かれていく感覚が怖かった。痛い、怖い、無理だと懇願するが、彼は突き進むのをやめない。そのままずぷずぷと奥へと押し込まれていく陰茎。

「く、っ……」
「あ、ッ……やら、っ……やめ……んぐ、ぁ――ッ!」

 ――ぐぽんっ!

 入ってはいけないところに入った音がした。

「――……ッ!」

 目の奥が、頭の中がチカチカする。

 ずっと絶頂を迎えているような、そんな強烈な快感が全身を駆け巡り、頭の中が白に埋め尽くされていく。びくんびくんと身体は跳ねるように震え、それと同時にきゅうっと後孔が射精を促すように中にいる理玖を締め付けるように蠢いた。

 理玖のものが一際大きくなって震えた瞬間、俺の中が熱いものでいっぱいになる。じゅわあっと熱が広がっていくのを感じながら、俺の意識は途切れた。



「ごめんっ!」

 目を覚ましてすぐ、理玖に土下座で謝られた。
 起き抜けのふわふわとした頭では何がどうなっているのかわからなくて僅かに動く首を傾げると、理玖が目に涙を浮かべながらもう一度ごめんと呟いた。

「千草が他の男とキスしてるのを見て、どうしようもなく嫉妬して……それで、怒りに任せて千草を乱暴に抱いてごめん。こんな彼氏なんてそりゃあ嫌だよね……本当にごめん」

 そう言えばそうだったと、ふわふわの頭をフル回転させて昨夜の出来事を思い出し――はたと動きを止めた。

「千草が僕以外の人を好きでも僕は……って……千草?」

 急に固まった俺を心配そうに上目遣いで見る理玖はこの世で一番可愛いと思うくらい可愛い。

 しかし、俺の頭は別のことに占領されていた。
 多分冷静になった理玖が情事中の俺の言葉を信じていないのかもしれないと、今の言葉で確信してしまった。

 俺は枯れに枯れたかすかすの声で、どうにか昨日のことを初めから説明していく。

 ずっとこの一ヶ月間はバイトで忙しかったこと、理玖から連絡が来るのをずっと待っていたこと、誕生日は毎年友達が祝ってくれて今回はお酒デビューに付き合ってもらったこと――この一ヶ月の間にあったことを全て話した。

 初めてのアルコールで加減が分からずに酔ってしまった結果、心配してくれた友人である悠晴の口を自分の口で塞ぐという愚行もきちんと説明をして、謝罪する。その後はおそらく悠晴も酔っていて、勢いでキスをしてしまったのだろうと言うと、理玖が長い長い溜息を吐いた。

「……僕、その悠晴って人にちょっと同情するかも」

 どういうことかわからずに首を傾げると、困ったように眉根を下げた理玖にぽんぽんと頭を撫でられた。なんだか馬鹿にされている気がしないでもないが、意味がわからなくて何も言い返すことが出来ない。
 むう、と唇を尖らせると、今度は僕の番だねと理玖が話し出した。

 理玖も同じようにこの一ヶ月はずっとバイトをしながら俺からの連絡を待っていたらしい。俺を見かけた時は丁度バイト上がりだったそうだ。今日も連絡がないと落ち込みながら帰宅する途中で、偶々向いた方向に他の男とキスをする俺の姿を見て絶望し、頭に血が昇ってしまったらしい。

 そこから先は嫉妬に狂って、連れ帰った俺を玄関で犯した後、このソファに縛りつけて玩具で犯し、俺が気を失うまで犯したのだそうだ。玄関で犯した後にかなりのヤケ酒を煽ったせいで、縛りつけたり玩具で犯すなんてことをしてしまったと言われた。

「……そう言えば、なんであんな物が理玖の家にあったんだ?もしかして……」
「僕が使うためじゃないからね?僕も男同士のセックスに関しては知らないことも多かったから、取り敢えず動画とか見てみたんだ。そしたら大人の玩具を使っている物があって、気持ち良さそうだったから……千草が気持ち良くなってくれたら嬉しいなって、買っちゃった」

 えへへっと可愛らしく笑う理玖に、俺はどういう感情を持てばいいのかすっかりわからなくなってしまった。

 理玖が使うわけではないという点に落ち込めばいいのか、俺とのセックスのために勉強してくれたことに喜べばいいのか、はたまた買われてしまったこととされてしまったことに絶望すればいいのか。
 俺の感情は今まさにぐちゃぐちゃだ。

「あと、最後のはやり過ぎたと反省してます……ごめんなさい」

 最後の、と言われた瞬間に蘇ってくる感覚に、全身が熱くなって下腹部がきゅんっと疼いた。身体は指一本動かせないほど怠いのに、身体が続きを求めるように熱を持ち始める。

「……千草?」

 急に黙り込んだ俺を不安そうに見上げる理玖。咄嗟に顔を見られないように横に向けると、心配そうな声音で名前を呼ばれた。

 今の俺は身体の上に申し訳程度にバスタオルをかけられているだけで、その下は全裸だ。身体は綺麗に拭かれてはいるものの、なんなら腹の中にはまだ理玖が中出ししたモノが残っているような状態である。

 そんな状況で身体が熱くなるとどうなるか。

「……千草、それ……」
「……っ」

 あれだけ絶頂を迎えたというのに、俺の股間はむくりと頭を擡げていた。

「……違う、これは寝起きだから……っ」

 我ながら苦しい下手な言い訳だと思う。さっきまで大人しく萎れていた陰茎が、寝起きから大分経ってから、それも下の話をしている時に急に元気になるのは少なくとも寝起きのアレではない。

 理玖もそれに気付いたのか、一瞬ぽかんとした後ににやにやと笑いながら俺の下腹部を手のひらで包む様に撫でてきた。

「ふふっ、思い出して期待しちゃった?」
「ちがっ……わ、ない……けど……っ!」
「照れちゃってかーわいっ!」

 可愛いのはお前の方だよ!という言葉をごくりと飲み込んで、楽しそうに笑う理玖の頭に手を乗せる。どうしたの?と小首を傾げる理玖にまた熱が籠りそうになるが、なんとかぐっと堪えて、この一ヶ月ずっと考えていたことを口に出した。

「あの、さ……俺も二十歳になったし、今度一緒にまたあのバーに行きたいって思ってるんだけど……どうかな?」

 二十歳になったら理玖と一緒にあのバーでお酒を飲んでみたいと、初めてバーに行った時からずっと思っていたことだった。どんなお酒があるのかもあまり知らないが、理玖やマスターならお酒に詳しいだろうし、何より理玖と飲むのはとても楽しそうだと思った。

 そう言うと、理玖はその大きな目をぱちくりとさせた後に、それはもう今まで見た中で一番綺麗なふわりとした笑顔を浮かべた。

「うん……!絶対行こうね!約束だよ?」
「ああ、約束だな」

 どちらからともなく小指を出して絡め、ゆびきりげんまんの歌を歌う。前回と違って今度はしっかりと次の約束が出来たことに俺はほっとしていた。

 目の前で俺と絡み合った自分の小指を見つめながら幸せそうに笑っている理玖に、自然と笑みが溢れる。
 早くその日が来ればいいのにと思いながら、俺もその光景を目に焼き付けるようにじっと見つめたのだった。
 

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