ナンパした相手は女装男子でした

白井由貴

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八話 お酒は二十歳になってから③*

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 夢を、見ていた。
 初めて身体を重ねたあの日、理玖とはその夜限りの関係性で恋人になったのだと思っていたのは自分だけだったのだという夢だ。

 甘い睦言を囁くその口は全て幻で、俺はただ勘違いをしていただけだったのだろうか。胸がきゅっと締め付けられるように痛み、俺は胸の辺りを掻きむしるように強く握りしめた。

「千草」

 ふと名前を呼ばれた気がして俯いていた顔を上げると、だだっ広い、ただただ白いだけの空間に現れたのは女の子の姿をした理玖だった。ひと月前に俺がナンパした時の姿のまま、こちらを真っ直ぐに見つめながら無表情に佇むその姿に背筋がぞくりと泡立つ。

 どうしてか嫌な予感がして、どうかその口を開かないでと懇願する俺を嘲笑うかのように目の前に佇む理玖の口が徐々に開いていき、一つの言葉を紡いだ。

「恋人じゃないよ」
「いやだ……やだ、聞きたくない」

 それ以上聞きたくないと耳を塞いでその場にしゃがみ込むが、声は脳に直接響いているかのように意味をなさなかった。

「恋人だと思っているのは千草だけだよ」
「ちが、やだ……違う、理玖はそんなこと」
 
 ――言わない。

 その一言は続かなかった。いや続けることができなかった。喉が張り付いたように声が出ないのだ。多分自分でもわかっていたのかもしれない、そう言い切れるほど俺は理玖のことを知らないし、多分理玖も俺のことを知らない。それを真正面から叩きつけられたような感覚が襲い、俺は目の前が真っ暗になった。



 はっと目を開けると、そこはさっきのようなだだっ広いただ白いだけの空間ではなくて、あの日に来た理玖の部屋だった。何度か瞬きを繰り返すうちに、ぼんやりとしていた頭が晴れていくのを感じる。ほうと息を吐き出すと、なぜか身体のあちこちが痛み、思わず呻き声が漏れた。

「おはよう、千草」
「う、……?」

 おはよう、そう言いたかったのに口から漏れたのは籠ったような音だけだった。首を傾げる俺の横にしゃがみ込んだ理玖が俺の髪を梳くように優しく撫でている。

 今目の前にいる理玖はさっき夢で見た格好とは違い、緩く巻いたセミロングの黒髪のウィッグをつけ、白地にチェック柄の膝丈までのスカートに黒のネクタイのようなひらひらがついたブラウスという格好だった。

 髪を撫でられる感覚がとても気持ち良くて、すり…と手に擦り寄るとくすりと微笑まれた。やっぱり理玖は笑っていた方が可愛い。なんだか愛しい気持ちが溢れてきて、理玖の頭を撫でようとしたのだが、どうも身体が動かない。まだアルコールの抜けきっていない思考では何が何だかわからずにもう一度首を傾げると、くすくすと笑い声が聞こえてきた。

「ねえ千草、千草は僕の恋人だよね?」

 そう聞かれて俺はすぐに頷くことが出来なかった。
 あまりに自信がなかったせいで答えを躊躇ったのだが、理玖はそうは思わなかったらしい。俺が理玖の恋人ではないと思っていると誤解したようで、綺麗な顔が苦し気に歪んだ。

「一ヶ月、何も音沙汰がなかったのはどうして?」

(は?いやいや、それはこっちの台詞なんだけど……)

「久しぶりに会えたと思ったら、知らない男にキスされて感じてるし、一ヶ月も空いてるはずなのにここは柔らかいし……」
「んぅ……っ」

 ここ、と後孔の周りを円を描くようにくるくると指でなぞられて、びくんと身体が跳ねる。理玖の指が後孔の周りからつうと移動し、孔に当たった。窄まったそこに指が軽く押し当てられると、そこは糸も容易くつぷりと飲み込んでいった。まるで指を食べるかのように内壁がうねうねと動いて、奥まで導いていく様子に何を思ったのか、理玖は引き抜いた指をぺろりと舐めた。

「もう浮気なんて考えられないくらい……僕なしじゃいられないようになるまで、千草のこと愛してあげる」

 うっとりと妖艶に微笑む理玖に下腹部がきゅんと疼く。俺がもし女の子で子宮があったら、今確実に子宮が疼いていたことだろう。

「千草が自分から僕を求めてくれたら、口も手も足も……全部拘束を解いてあげるから安心してね。ふふ、千草の恥ずかしいところ全部丸見えだね」
「……っ」

 恥ずかしさで顔が熱くなる。ソファの上で開脚するように拘束されているため、理玖の言う通り大事な部分が全て丸見えの状態になっていた。腕は背中側に回されているので、正直身動きがほとんど取れなくて少し苦しい。

 そんな俺の様子を楽しげに見つめる理玖は、ソファの下から三十センチ四方のトートバッグを取り出してごそごそと中を漁っている。プラスチックや金属が当たる音が聞こえるが、一体何が入っているのだろうか。

「そうだなあ……まずはこれ挿入れてみようか。ふふ、これ何かわかる?」

 そう言って見せられたのは、よくえっちな動画に登場する男性器を模した電動のバイブレーターだった。一応わかるというように小さく頷くと、理玖は満足げな笑みを浮かべながらそのバイブにコンドームをつけていく。理玖の綺麗な細い指がゴムの丸まった部分を伸ばしていく様子が妙に艶かしい。
 思わずこくりと喉を鳴らした俺を見た彼はふっと笑い、徐にゴムに包まれた先端部分を俺の後孔へと押し当てた。ぐっと押すと、それはずぷずぷと飲み込まれていく。痛みはないがひどく圧迫感があった。

 嫌だ、抜いてと視線で訴える。しかし理玖はそんな俺の視線を無視してスイッチを入れた。初めは僅かな振動だったそれは、次の瞬間には一気に強さを増していた。衝撃に身体が弓形にのけぞる。中で暴れ回るバイブに、塞がれた口からは声にならない声が断続的に漏れ、耐えるように閉じた瞼からはぽろぽろと涙が溢れでる。

「ふ、ぐっ、う、ううっ!」
「そんなに泣かないで、もっと気持ち良くしてあげるから」
「うぐっ、んう、んッ」

 違う、そうじゃないと必死で髪を振り乱しながらふるふると頭を振ると、困ったような表情をした理玖が俺の側に座った。どうしたのと優しく声を掛けながら口の拘束を取ってくれた。一気に肺に流れ込んできた空気に咳き込む。しかし中でうぃんうぃんと規則的に震えながら動くバイブにすぐに嬌声に変わった。

「んあっ、あっ、とめてぇ……っ」
「どうして?僕のじゃ満足できなくて誰かに抱いてもらったんでしょ?じゃあこれでもいいんじゃない?」
「ちが、あぁっ、して、なっ、い、ああぁッ」

 それは誤解だと理玖に伝えたいのに、喘ぎが邪魔をしてうまく伝えることができない。規則的な動きでイイ所を刺激し続ける大人の玩具に無理やり絶頂を迎えさせられ、涎を垂らしびくびくと震えながら精を放った。くったりと身体から力が抜け、同時に後孔の締め付けも緩んだのかくぷりという音と共に中からバイブが滑り落ちる。

 はあ、はあと荒い息を繰り返す俺に理玖はそっと唇を近づけ、呼吸をも飲み込むように強く深く口付けてきた。唇の熱さに、そして何より触れてくれたことが嬉しくて夢中でキスに応えていると、いつの間にあてがわれていたのか前立腺を擦るように一気にバイブを穿たれ、俺はまた声もなく果てた。

「んっ……今すっごくエロい顔してる」
「あ……、あう……っ」
「今度はこの可愛い胸にローター付けてあげるね」
「や、やら……んあっ、りく、ぅ……」

 絶頂の余韻で小さく痙攣する俺の身体をするりと撫で、既にぴんと勃っている両方の胸の頂にサージカルテープでローターを付けていく。そしてスイッチを入れたと同時に最大の強さまで引き上げられたローターは、確実に俺の胸を刺激し続け、すっかり萎えていた俺のモノはむくりと頭をもたげ始めた。
 
 後孔にはバイブを挿れられ、胸にはローターが張り付いている姿はどこぞのえっちな動画にありそうな光景だと思うだろう。しかし今の俺にはそんなふうに思う余裕はもうない。断続的に襲ってくる快感の波に耐えることすらも出来ず、ただ喘ぎながらされるがままになっていた。
 口を開く度に口端から飲み込めなかった唾液が溢れ、胸を汚していく。あまりの気持ちよさに、目尻からは涙が溢れた。

「あ……っ、やらぁ、も……ん、あぁっ」
「他の人にもそんな顔見せたの?」
「ちが……あんっ!やっ…みせ、てな、んんッ!」
「千草のこんな可愛い顔、僕だけのものなのに」
「ひあっ、ん、や……っ、おれ、りくらけ、あ、ッ」

 絶頂を迎えながらも必死に理玖だけだと訴えかけると、中に入っていたバイブが突然動きを止めた。ローターは未だ動き続けているので身体はぴくぴくと反応しているが、バイブが止まったお陰でようやく話ができると詰まっていた息を吐き出した。

「はぁっ……りく、ごかい……ぁ、っ」
「誤解?」
「おれ、りくいがい……んっ、してらい」
「……本当?」

 呂律がうまく回らない。正しく伝わったかどうかわからないが、理玖が泣きそうな表情で俺を見つめてきたので、疲れ切っていたが本当だよとへにゃりと笑った。するとぽろぽろと理玖は涙を溢しながら心底安心したようによかったと零し、快感に小さく震えている俺をそっと抱きしめた。
 
 俺は恥ずかしさでどうにかなりそうだったが、会えなかったこの一ヶ月、理玖のことを思いながら自分で後ろも慰めていたことを正直に話した。以前は前だけでも処理が出来たのに、今では後ろも一緒にしないと自慰すらもままならないことを告げると理玖はくすくすと可愛らしく笑う。

 しかし今日の話になった途端、理玖の顔から表情が抜け落ち、俺はごくりと唾を飲み込んだ。

「そっか、今日が誕生日だったんだね」
「う、うん……い、っ!」

 僕だって千草の誕生日を祝いたかったのにと呟いた彼は、胸についていたローターを乱暴に取って俺の胸に口を寄せ、散々弄られた所為で硬く敏感になった乳首に歯を立てた。強い力で噛まれたわけではなかったが、敏感な乳首は甘噛みされるだけでもかなりの刺激だった。
  
「お酒、飲んだの?」
「ひゃ……っ」
「酔っ払って、キスしちゃったの?」

 理玖の顔が苦しそうに歪み、俺の唇を塞いだ。これ以上何も知りたくない、聞きたくないとでもいうように貪るような激しい口付け。

 酔っ払って悠晴とキスをしてしまったことは事実なのでこれだけは俺も違うとは言えず、ただ理玖の気の済むままに貪られるしかない。お互い酔っていたとは言え、俺も俺で拒否すれば良かった話なのに、悠晴との関係が壊れることを恐れて何も言えなかったのは事実だ。

「千草から誘ったの?それともされちゃった?」
「さそって、ない……ッ、けど……おれから、しちゃっ、あぅっ」
「悪い子だね」
「ごめ、――ッ?!」

 中に入ったままだったバイブが突然震えながら中を掻き回すように動き、俺の身体は弓形に仰け反った。外されていたローターを軽く勃ち上がっていた陰茎の鈴口に当てられ、腰が跳ねる。

「悪い子にはお仕置きしないと、ね」

 そう言って笑う理玖の瞳は暗く、俺は快感と恐怖で小さく身体を震わせた。

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