117 / 199
第四章
八十九話 あまくてあまい
しおりを挟む湯船の中で達し、その上出してしまうという失態を犯した後、俺たちはもう一度頭の先から足の先まで綺麗に洗い直し、お風呂を終えた。律樹さんは、俺も悪かったから謝らなくていいよなんて言って笑ってくれた。けれどやっぱりそれじゃあ俺の気が済まなくて、彼の静止を振り切りごめんなさいと頭を下げた。
身体が熱い。いつもより長い時間お湯に浸かっていたせいもあるだろうが、先程の行為による熱の方が大きいような気がする。心臓もまだまだばくばくとうるさくて、俺は頭から湿ったバスタオルを被りながら脱衣所に敷かれた足拭きマットの上にしゃがみ込んだ。
一足早くお風呂を出た俺とは違い、律樹さんは今お風呂の掃除をしてくれている。俺がしてしまった失態の尻拭いをしてくれているのである。本当なら俺がしないといけないのに、俺の顔が赤かったことを心配した律樹さんが先に出してくれたのだ。
(はあぁ……それにしても、俺なんで胸で……っ)
俺も、まさか胸でイくなんて思わなかった。
寧ろ自分でもほとんど触れたことのないそこ――そもそも自慰すらもほとんどしたことがない――を律樹さんに触れられるという羞恥はあったが、気持ちがいいとはまた違った感覚だったように思う。なんというか、むずむずするというか、背筋がぞくぞくするというか、そんな感覚だった。
「――どうかした?」
「……っ!」
頭を抱えながらお風呂の中でのことを考えていると、突然がらがらとお風呂の扉が開き、律樹さんの不思議そうな声が降ってきた。ばっと振り向いた先、俺の目の前には立派な律樹さんのものが律樹さんの動きに合わせて僅かに揺れている。
やっぱり大きいなぁ……とぼんやりしていると、くすくすと笑う声が上から降ってきた。
「……あんまり見られると恥ずかしいかな」
「……‼︎」
そう言われると同時に我にかえった。そうだよなと思うよりも前に反射的にばっと顔を逸らしたが、目に焼きついた先程までの光景に顔だけじゃなく全身の体温が一気に上がる。
脳裏に残るその映像を振り切るようにふるふると頭を振れば、急に激しく動かしたせいなのか頭がくらりと揺れた。咄嗟に床に膝をついたことで倒れることはなかったが、正直危なかったかもしれない。俺は安堵にほっと息を吐き、頭から被っていたバスタオルをぎゅっと握りしめた。、
「あ、そうだ」
「?」
いつの間にか部屋着を着終わっていた律樹さんが声を上げた。その声にバスタオルを頭から被った状態のまま顔を上げて首を傾げる。
「こっちにおいで。首輪つけてあげる」
そう言う律樹さんの手にはさっきもらったばかりの黒色のカラーがあった。そういえばお風呂に入るときに濡らしたくなくて外したんだったか。濡れても大丈夫な素材で作られているらしく、本当はつけたままお風呂に入ることも可能なんだそうだが、初めのうちは綺麗に使いたいからと一度外したのだ。
俺は緩む頬を押さえながら、羽織っていたバスタオルを床に落として律樹さんの方へと歩いていった。さっきまでふらついていたとは思えないほどの足取りの軽さに、どれだけ嬉しいんだと心の中で笑う。
彼の前に辿り着くと同時に、つけやすいようにと顎を上げて目を瞑った。いいこだねという律樹さんの声が聞こえ、思わず頬が緩んだ。
首筋に律樹さんの手が触れる。続いてひやりとした硬い感触が首に回り、かちりと音が鳴った。
「……ん、出来たよ」
律樹さんの声を合図に目を開く。そして首元に手をやれば、さっきまではなかった硬い感触が指先に触れた。
ありがとうと頬を緩めると、彼もまた満足そうな笑みを浮かべながら俺の頭を撫でた。その優しい手つきに目を細めると、唇に柔らかな感触が合わさった。
「ん……あんまり可愛かったから、つい」
「……!」
さっきも思ったけれど、律樹さんの態度や言葉がプロポーズの後から甘い気がする。……いや、今までも十分甘かったと言われればそうなのかもしれないけれど、今はそれ以上だ。
もしかしたら俺が知らないだけで、世の恋人というのは皆こんな感じなのかもしれないが、ほんの少し照れ臭くて恥ずかしい。
「ほら、早く服を着ないと風邪ひいちゃうよ」
身体が火照っていたせいで今の今まで寒さなんて感じなかったけれど、言われてみればほんの少し涼しい気がした。風邪をひいたら大変だと、用意していた部屋着をいそいそと着ていく。肌触りの良いこの部屋着は俺の一番のお気に入りだった。
それからドライヤーで髪を乾かし、歯を磨いてから俺と律樹さんは一緒に寝室へと向かった。恋人としていちゃいちゃするためである。
律樹さんはプレイは今日の夜にすると言っていた。本当なら今頃は限界を迎えている欲求は、何故か今はなりを潜めている。まあふとした瞬間に身体の奥底からどうしようもないほどの欲求が湧き上がってくることはあるが、それでも貰ったカラーに指先を触れれば、どういう原理なのかはわからないけれど驚くほど簡単にすうっとおさまっていくのだ。
寝室のベッドの上で二人並びながらスマホで会話をする。会話とはいっても俺がスマホで律樹さんは口頭とスマホの両方なので、側から見れば不思議な光景だろう。でも俺たちにとってはこれが普通であり、日常だった。
俺が打ち込んだ内容に、律樹さんがくすりと笑う。何かおかしいことでもあった?と首を傾げれば、彼は何も言わずに俺の頭をその大きくてゴツゴツした手で撫でた。
『りつきさんって俺の頭撫でるの好きだよね』
「うん、好きだよ」
律樹さんは事あるごとに俺の頭を撫でる。俺の頭を撫でて楽しい事なんてあるはずがないのに、今も今で幸せそうな表情で撫でてくるものだから冗談混じりに言ってみただけだった。けれど返ってきたのは真っ直ぐな瞳と言葉。「好きだよ」――その言葉に、おさまったばかりの心臓がまたうるさく鳴り始めた。
171
お気に入りに追加
1,154
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる