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第三章
六十七話 夕陽と宵闇
しおりを挟む色々とあった二日間が終わった。
……とは言っても、学校では今は後夜祭が行われているので文化祭自体はまだ終わってはいない。けれど不可抗力だったとはいえ他のDomからの威圧を浴び、一瞬でも調子を崩したということもあって、俺はコンテストが終わったあと律樹さんに連れられて帰路についた。
文化祭が終わっていないのに教師が帰ってもいいのかと思うだろう。正直、俺もそう思った。だから大丈夫だと告げたのだが、律樹さんを始め、保科さんや六花さんにもここは素直に甘えておけと言われた結果今に至る。
実際俺が思っていたことは間違っていなかった。本来であれば後夜祭中もその後も生徒の指導や監督、それから設備の片付けなどの仕事が山ほどあったらしい。しかし今回の騒動のことで学校側としても何か思うところがあったようで、ケアが必要な被害者のパートナーとして早く帰れるようになったのだそうだ。
正直そこら辺の事情はよくわかっていない。所謂大人の事情というやつだそうだ。あまり詳しく教えてはもらえなかったのだが、呼び出された律樹さんから話を聞いた保科さんが険しい顔つきで「ふざけてるな」と言っていたのでそういうことなのだろう。これ以上は怖くて聞けなかった。
そういえば俺が最後に見ていたコンテストだが、ミス部門、ミスター部門ともに最後まで大きな盛り上がりを見せていた。人だかりから少し離れたところで会場が沸く様子を見ていたが、あれは本当にすごかった。
そんなコンテストだが、律樹さんの結果はミスター部門の教師の部で優勝。なんでも圧倒的な女性票を獲得しての優勝だったらしく、司会者をしていた男子生徒が興奮気味に叫んでいた。
(まあ……この顔だもんなぁ……)
運転する横顔を眺めながらそう思った。
男の俺から見ても律樹さんは綺麗で格好良いと思う。姉である六花さんもすごく綺麗な人だから、もしかすると彼らのお父さんが途轍もなく綺麗な人なのかもしれない。
俺と彼は母親たちが姉妹の従兄弟なのだから少しだとしても同じ血が流れているはずなのに、少し違うだけでここまで差が出るものなんだなぁ……と思わず苦笑がこぼれる。
「……ん?どうかした?」
目の前の信号が赤になり、車が止まる。視界の端で俺が笑ったのが見えたのか、律樹さんがこっちを向いた。
フロントガラスから差し込む夕焼けの強い光に、琥珀色の瞳がきらりと輝く。少し視線を上に上げれば、少し色素の薄い栗色の細く艶やかな髪の毛に反射して金色のような輝きを放っていた。それがとても眩しくて、俺は思わず目を細める。
整った顔立ちだとは前々から思っていたけれど、今視界に映っている彼の姿はまるで絵本の中に出てくる王子様のようだ。コンテストで律樹さんに投票した人たちが見たら卒倒するんじゃないかというくらい綺麗だった。
「弓月?」
俺はなんでもないよというように首を横に降り、眉尻を下げて笑った。信号が青に代わり、律樹さんが前を向くのと同じくらいに車が動き出す。つられて前を向けば、目の奥を焼くような鋭さと煌めきを持った夕陽が真っ直ぐに俺たちに向かっていた。あまりの眩しさにほんの少し視線を横に逸らす。見えた窓の外は赤く染まっていて、そこはとても幻想的な景色だった。
律樹さんが俺の頭にぽんと手のひらを置いた。同時にふわりと香る優しい香り。大きな手のひらが俺の頭の上をぽん、ぽんとゆっくりと小さく上下に跳ねる。それがなんとなく気持ち良くて、俺は目を閉じた。
「あ、そうだ。今日の夜ご飯はテイクアウトにしようと思うんだけど、弓月は何が食べたい?」
今からデパートに向かうから駐車場に着くまでに考えおいてくれたら嬉しいという律樹さんの言葉にこくりと頷き、俺は膝の上に置いていたスマホを手に取った。俺が会話によく使うメッセージアプリを開くと、何件かの新着メッセージが届いていることに気がついた。
どうやら壱弦と六花さんが俺のことを気遣ってメッセージを送ってくれたらしく、二人とも内容は示し合わせたようにほとんど同じだった。
書かれている内容は二つ、俺の体調を気遣う内容と昨日と今日の文化祭についての感想である。俺は二人に体調は大丈夫だという旨と俺も楽しかったという言葉を書いて送った。本当に二人には昨日今日と、心配をかけてしまった。今日の場合は不可抗力だったけれど、それでも心配をかけてしまったことは事実なので謝罪も入れておく。
既読はつかない。……それもそうか、二人とも今は後夜祭に参加しているのだからスマホを見る暇なんてないだろう。それなのにこうして俺にメッセージを送ってくれたことに胸が温かくなった。
ゆらゆらと身体が揺れる。肩に触れた温もりがじんわりと俺を溶かしていくようだった。
「弓月、着いたよ」
律樹さんの声が耳のすぐ近くで聞こえ、俺は落ちていた瞼を押し上げた。どうやらいつの間にか眠っていたらしい。通りでお店で夜ご飯をテイクアウトして車に戻ってからの記憶がないわけだ。
俺は隣で俺の身体を揺する律樹さんの顔を見てから、視線をまっすぐ前に向けた。さっきまであんなにも強い力を放っていた夕陽はいつの間にか姿を隠し、代わりに星空が姿を表そうとしている。フロントガラス越しに見上げた空には赤と紺の美しいコントラストが浮かんでいた。
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