56 / 199
第三章
四十話 文化祭へのお誘い 前編
しおりを挟む初デートの翌日、俺はいつも通り与えられた自室で一人勉強をしていた。タブレットを使用しての勉強にも大分慣れてきて、問題を解く速さも格段に上がってきているように思う。
今学習しているのは高校一年生の内容なので、高校三年間の内容を全て勉強しようとするとまだまだ先は長いように思えるが、それでも少しずつわからないところをわかるようにしていくのは楽しかった。
夕方も過ぎてもうすぐ夜という頃、壱弦からメッセージが届いた。なんでも九月の最後の週に高校の文化祭があるらしい。なるほど、だから最近の律樹さんは普段よりもさらに忙しさに拍車がかかっていたのかと納得する。
『壱弦はなにするの?』
『模擬店というか屋台?』
確かに文化祭といえば展示や演劇、模擬店というイメージがある。展示や演劇も楽しそうではあるが、模擬店にはやっぱり憧れがあった。多分この間見たテレビの影響かもしれない。
いいなぁ……俺も行ってみたいなぁなんて思いながら壱弦にメッセージを送ればそんな返事が来た。
『屋台?』
『うちのクラスはたこ焼きだってよ』
『たこ焼き!』
いいなぁ、いいなぁ!と自分が参加するわけでもないのに内心ワクワクする。
というのも俺は粉物全般が好きなのだ。その中でも特にたこ焼きが好きで、今度家でたこ焼きパーティーをしようねと律樹さんとも約束をしているくらいだ。たこ焼きって、齧ると中からとろりとした生地と弾力のあるたこが出てくるんだよね……ああ、食べたいなぁ。
『そういえば弓月ってたこ焼き好きだったっけ?』
『うん、好き』
テレビ電話でもないのにこくこくと首を縦に振りながらそう返す。だって美味しいからねと心の中で付け加えながら返信を待つが、数分経っても返信は返ってこない。
それまでは一分も掛からずに返ってきていたのにどうしたんだろうと首を傾げながら、もしかして俺今変な言葉を送ったっけとやりとりを確認してみるが特におかしなところはなさそうだ。
きっと壱弦も文化祭の準備や勉強で忙しいんだろう。そうざわざわとする自分の心を落ち着かせるように、一旦机の上にスマホを置いて勉強の続きをすることにした。
そうして十分が経過した頃、ピロンという電子音と共に俺もよく使うとてもいい笑顔のうさぎが親指を立てているスタンプが返ってきた。
続けてメッセージが届いたのを見て、どうやら俺が何かしたわけではなくてただ忙しかったのだとわかって、俺はほっと息を吐いた。
『それでさっき伝えた日程なんだけどさ、弓月空いてる?』
文化祭は三日間あるらしい。律樹さんと共有しているカレンダーアプリを見てみると、一日目以外は特に用はなさそうだったのでそう送る。まあそうは言っても一日目のこの日は朝から病院に行くだけなので本当は午後からは空いているのだが、病院に行った後はいつも疲れてしまうのでこの日は勉強もお休みだ。
しかしどうして俺に予定を聞いたんだろう。俺は生徒じゃないから文化祭には関係がないのでは、と首を捻っているとピロンとスマホが音を立てた。
『もしよかったら文化祭に来ないか?』
その言葉に俺は目をぱちくりと瞬かせる。
見間違いだろうかと目を擦ったりしてみるが、やはりそこには文化祭へのお誘いが書かれていた。
文化祭とは学校の行事だ。だから誘われたもののそもそも俺なんかが行ってもいいのかがわからない。
俺は『俺生徒じゃないけど』とスマホに打ち込んで……消した。これは言わなくていいことだと思ったのだ。俺がもう生徒じゃないことくらい俺も壱弦もわかってる。それをあえて言葉にするのはほんの少し躊躇われた。
でも本当は行ってみたい、行けるなら高校の文化祭に行ってみたいとは思っている。けれどそれと同時に怖いなとも思うのだ。
俺が返事に迷っていると、再びピロンと新着メッセージを告げる電子音が鳴った。
『文化祭の二日目と三日目は一般開放するんだ。まあ一般開放って言っても、俺たち生徒や先生達からチケットをもらった人しか入れないんだけどな』
なるほどと思うと同時に、あれ?という疑問も浮かぶ。生徒や先生達からチケットをもらわなければならないということはつまり、チケットを持っていない俺にはそもそも行く権利がないってことだ。
チケットがないから行けないということは簡単だけど、それを送れば催促しているように思われないだろうかと不安になる。文字を打ち込んでは消し、また打ち込んでは消してを繰り返していると再び電子音が受信を告げた。
『瀬名先生から貰ってたらそれで良いんだけど、もし持っていなかったらチケットは俺が渡すから安心して。俺は裏方だから当日は暇なんだ。もし来れるなら俺に案内させてほしい』
チケットが一人当たり何枚貰えるのかはわからない。そんな貴重なものを俺に渡してもいいのかななんて思っていると、続けてメッセージが送られてくる。
『返事はすぐじゃなくても良いから』
俺もう塾の時間だからまたな、というメッセージを最後にやりとりが終わった。
深く息を吐きながら勉強机に突っ伏す。
行きたい行きたくないで言えば、もちろん行ってみたい。けれどもやっぱり怖いとも思ってしまう自分がいる。
指先でシャーペンを転がしながらまた溜息を吐く。壱弦は俺を案内してくれると言ったが、きっと俺は彼の思うような反応が出来ないだろう。声が出ないから話しかけられても上手く答えられないし、昨日の律樹さんとのお出掛けみたいに人酔いをするかもしれない。
様々な不安ごとが波のように襲ってきて、俺は耐えるようにぎゅっと目を閉じた。
170
お気に入りに追加
1,154
あなたにおすすめの小説
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる