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愚かさの果てに 2
しおりを挟む人間を見下ろす神の目のような月から逃れられると思われる、新月の夜を待った。
その日が来ると、国王たちはオラリオンに集まり、闇に隠れるように聖なる泉へと向かった。
月の光はなくても星の光で、聖なる泉のアクアマリンの水面は美しく輝いていた。
濁った瞳で見る泉は、より一層妖艶な輝きを放ち、まるで泉の底に沈められているモノの方が、この時を待ち望んでいたかのように思えた。
5つの国の国王は邪な思いを胸に、泉の中に一歩足を踏み入れた
月の光はなく、何者の目からも逃れられるように思えた。心と身体を狂わせるような冷たい夜風が吹く。
やがて7色に輝く光が、聖なる泉の底からさした。
淫らに揺れながら艶めく水面を輝かせ、その秘所を知らせ、国王の醜悪な欲望を満たす言葉を囁いた。
1人の国王が我慢出来ずに泉の中に飛び込むと、残る4人の国王も競うように泉の中に飛び込んでいった。
泉の底深くの大きな岩に鎖で繋がれていた闇の魔法書を見つけると、目を輝かせながら闇の魔法書に群がった。
鎖から外して闇の魔法書を手に取り泉から出ると、罵り合いながら闇の魔法書を我が物にしようと力尽くで引っ張り合った。
聖なる泉の水面が闇の魔法書を探すように渦を巻き出すと、国王たちは急いで馬車に飛び乗った。オラリオンの城へと戻ると、暗い一室に逃げ込み、中から鍵をかけた。
盾と斧を掲げる国の国王がギラギラした目で、闇の魔法書の鍵を壊して、震える手で闇の魔法書を開いた。
「いつの日か、必ず、全てを滅ぼす使者となるであろう」
と、1ページ目に記されていた。
今すぐに闇の魔法書を閉じなければならない。聖なる泉の底に沈めるようにとの警告であったが、正気を失った国王には神の言葉ですら届かなかった。
日が昇ると、ビロードのカーテンを閉めて読み耽った。糸のように細い月が出てきても、水を飲むこともパンを食うこともなく闇の魔法書を読み耽った。
また日が昇り、暮れた。
三日目の月の夜に、最後のページを開いた。
「闇の鎖」と、書かれていた。
国王は闇の鎖について読むと、一斉に歓喜の声を上げたのだった。落ち窪んだ目をし、口から涎を垂らしている国王は狂人と化していた。
しかし、滴り落ちるような真っ赤な字で、こうも書かれていた。
「覚悟せよ。
闇の魔法は神の意に背くもの。
何者も神の許しなしに、この魔法を使ってはならぬ。
力は絶大であり、尊き生命を奪うもの。
闇の鎖から逃れし者がいるならば、神の意に背き者たちに罰を与える為、絶大な力を得る。
神の命に忠実に従い、神の意に背き者たちに、天上の怒りを降り注がせよう。
いつの日か、必ず、全てを滅ぼす使者となるであろう」
オラリオンの国王が読み上げると、一同は声を上げて笑い始めた。
「逃れし者?絶大な力?天上の怒り?全てを滅ぼす?
何を馬鹿なことを!」
またもや警告は届かなかった。
何故、その文字だけが、血の滴るような赤で書かれているのかも考えようとはしなかった。
国王はあまり尊大であり、闇の魔法書に取り憑かれた彼等は神すらも恐れなくなっていた。
「完璧に成功させれば、何も恐れることはない!
ようやく人間でも魔法を使うことが出来る!闇の魔法書を手に入れたのだ!」
5つの国の国王は血肉を喰らうように歯を剥きながら、手を叩いて笑い合ったのだった。
「これで魔法使いの力を我が物にすることが出来るぞ!
欲しいモノは、持っているモノから奪い尽くせばよい!
そもそも奴等は人間とは見た目が違う。何を考えているのか分からない黒い瞳と黒い髪の毛をした、真っ黒な心を持った異形の者たちだ!
人間に逆らった罰として、足元に跪かせておかねばならない。どちらが先に神の手によって作られた上位種であるのかを思い知らせてやる!
奴等の力は我々が支配してこそ、本当の意味で人間の役に立つのだ!奴等の全てを奪い尽くし、奴等の全てを手に入れようぞ!」
国王はもう成功したかのように歓喜の声を上げたのだった。
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