クリスタルの封印

大林 朔也

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失望 2

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 外は、もう真っ暗になっていた。細い月の光を頼りにエレーナは走り続け、息を切らしながらディランの家のドアを激しく叩いた。

「ディラン、開けて!私よ、エレーナよ!」
 と、エレーナは大きな声を上げた。

 家の中から物を壊すような大きな音が上がった後で、酒に酔い赤い顔をしたディランが玄関のドアを開けた。
 いつもの優しいディランとは違う怖い目で、エレーナをジロリと見下ろした。

「なんだ。エレーナか…」
 と、ディランは低い声で言った。

「大事な話があるの」
 エレーナはそう言うと、ディランの家に入って行った。

 ディランの両親の気配はなく、いつも整理整頓されているというのに、リビングは散らかり放題だった。
 壁に飾られている絵は落ちていて、花瓶は壊されていた。クッションも転がっていて、本棚の本も全て床に落ちていた。

 その異様さにエレーナは不安になったが、妹を助けに行かなければならないという気持ちの方が大きかった。

「エレサが宮殿に連れて行かれたの。
 お願い、一緒に助けに行きましょう」
 エレーナがそう言うと、ディランは怒鳴り声を上げた。

 ディランは忌々しそうにエレーナを睨みつけると、テーブルの上にあった酒瓶を壁に投げつけた。酒瓶は粉々に割れてしまい、鋭い破片がギラギラと恐ろしく光った。

 ディランも全てを知っていたのだった。

「どうやってだよ!
 どうやって国王から取り返すっていうんだよ!騎士相手に、農具で立ち向かえっていうのか!
 無理に決まってるだろうが!」
 ディランは声を荒げると、エレーナを壁におしつけた。肩を握る手の力は凄まじく、ひどい痛みを感じた。

「無理でも…やってみましょう…。なんとかなるかも…しれない。
 エレサがいなくてもいいの?愛してるんでしょ?
 取り戻したくないの?」
 エレーナがそう言うと、ディランは薄ら笑いを浮かべた。宮殿に忍び込むなど不可能で、死ににいくようなものだ。

 ディランはしゃっくりをしながらエレーナの顔を見ると、酒に酔っていたこともあり姉の顔に妹を重ねた。
 その瞬間、愛しいエレサを奪い取られた憎しみが、さらに激しく燃え上がった。
 国王がエレサにしているコトが頭をよぎると、何度も壁を殴りつけた。何もかもを、壊してしまいたくなった。

「だったら、お前が、俺を慰めてくれよ。
 出来るよな?姉妹なんだから」
 ディランは酒臭い息を吐きかけながら言うと、エレーナをソファーに押し倒して細い体の上に覆いかぶさった。

 妹が国王に犯されるのなら、俺が姉を犯してやろうという良からぬ考えが浮かんだのだった。

(そうだ…エレサだけが食い物にされるなんて許せない。
 この女も、同じ思いを味わえばいい。
 だって姉妹なんだから…当然だろ??
 エレサが犯されるのなら、エレーナも犯されないといけない。いつだって…2人は一緒なんだから…)
 ディランはエレーナの甘い香りを嗅いで興奮を高めると、スカートを捲り上げて足を開かせ、その間に分け入った。

「やめて!」
 エレーナは両手と両足を必死にバタバタさせて、覆い被さっている男から逃げようともがいた。
 だが、そんなものは抵抗にすらならなかった。
 それ以上声を出さないように口を塞がれ、右手首も押さえつけられると、どうすることも出来なくなった。

(こわい…こわい…)
 異様な目で自分を見下ろしながら息を荒くしているディランを見ると、エレーナは怖くなり顔を背けて目を閉じた。
 
(やめて!)
 エレーナは力の限りに叫んだが、それはもう声にすらならなかった。

 一方、ディランは湧き上がった怒りと欲望の赴くままに、エレーナの優美な首筋に舌を這わせ舐め回し始めた。
 甘い香りと柔らかな肌を存分に味わいながら、シミひとつない綺麗な肌が唾液で汚れていくさまに異様な興奮を覚えていった。
 

 この瞬間、エレーナはディランがこれまで自らと勝負をしてきた数々の勝負事に手加減をしていたのだと分かった。

「エレーナには勝てないよ」
 ディランはいつもそう言っていたが、彼女に勝ちを譲っていたのだった。

 女の腕力では、どうやっても男の腕力には勝てないということを強烈に思い知った。嫌がれば嫌がるほどに男を興奮させていくことにも愕然として、何も出来なくなった。
 さらに、この男が友達だったということも、余計にエレーナを怯えさせる要因となった。

 ディランはエレーナが抵抗する力を失ったのを感じ取ると、残忍な笑みを浮かべた。
 美しい肌を舐めるのを止めて、すっかり恐怖で大人しくなった女の顔を見下ろした。

 
「やめ…て…。もう…やめて…ください…。
 おねがい…します…」
 と、エレーナは泣きながら言った。

 ディランはその涙を見ると、泣きながら別れを言いにきたエレサの顔が浮かんだ。
 ようやく正気に戻ると、エレーナから慌てて離れた。

 エレーナの涙が頬を伝うたびに、ディランは自らが恐ろしくなった。一生消えない傷を、彼女に負わせたのだから。
 酒に酔っていたのも正気でなかったのも、陵辱をした理由にはならない。全くならない。
 全ては鬼畜な陵辱者に責任がある。しかし、男は罰を受けることを拒んだのだった。

「泣くぐらいなら…もっと抵抗しろよな。
 死ぬ気で抵抗しろよ…被害者面しやがって…お前も…内心では喜んでたくせに。 
 いやいや言いながら…どうせ…感じてたんだろう」
 と、ディランは訳の分からないことを呟いた。エレーナが死ぬ気で抵抗したら、頭に血がのぼって殺していただろう。

「お前が悪いんだ!
 お前が俺を誘ったんだからな!
 男の家に女が1人でのこのこ来るなら、ヤラれて当然だろうが!お前だって、俺とずっとヤリたかったんだろう!妹がいなくなったその日に誘いに来るぐらいなんだから!
 本当にエレサを思うのなら、お前が行けば良かったんだ!お前が行けば、俺はこうはならなかった!俺はエレサと幸せになれたんだ!
 早く出てけよ!
 俺の目の前から消えてくれ!二度とその顔を見せるな!」
 ディランはそう大声を上げると、手当たり次第に部屋の中の物を放り投げた。

 許されない行為ですら、なんの罪も落ち度もない彼女をさらに傷つけることで自らを正当化し、彼女に原因があるとした。
 恐怖で体を凍りつかせ抵抗する力を奪ったというのに、陵辱者は抵抗を諦めたのなら女も望んだとすり替えることで、強姦ではなく合意があったと都合よく言い放ったのだった。
 
 エレーナはひどいショックで歩くことも出来ず、這うような格好で家を出た。外に出ても、ディランの恐ろしい言葉が追いかけてきた。
 体はずっと震えていたが、ここから早く逃げなければならないとヨロヨロと歩き出した。
 誰かに会わないことを願いながら、自分の家に向かって泣きながら歩き続けた。
 エレーナは家に帰ると、急いでお風呂に入った。
 男の手と舌の感触と唾液、浴びせられた言葉を洗い流そうとしたが、どんなに洗っても洗っても流れ落ちることはなかった。

 男から逃れても、おさえつけられた手首の痛みと体に刻み込まれたあらゆる恐怖は消えることはなかった。
 それは生涯消えることなく、エレーナの心に深く棲みつくのだった。

(胸が…張り裂けてしまいそう。
 友達だと思ってた…。手を貸してくれると思ってた…。
 あんな時間に…男の家に1人で行った私が悪かったの?
 私が…悪いの?
 今まで…あんなに仲良く遊んでいたのに…それなのに無理やりあんな事をするなんて…あんな酷い事を…。
 さっきのような事を…それ以上の事を…エレサが国王にされ続けるなんて耐えられない。
 好きでもない男に…その身を委ねるなんて…)
 と、エレーナは声にならない叫び声を上げた。

 傷ついた彼女に、男が投げつけた恐ろしい言葉が何度も何度も襲いかかってくるのだった。
 それは彼女が「誰か」に言わないよう「自分が悪い」と思わせるように投げつけた言葉の数々だった。

(もう…誰も…信じられない。
 誰にも…知られたくない。
 この事を…思い出すことすら…恐ろしい)
 エレーナは水を出し続けたまま、泣き続けたのだった。



※一部、削除してのせました。
 なろうの、ミッドナイトノベルの方は全文のせてます。
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