【一話完結】一分で読めるショートショート集

意地悪な流れ星

商店街の会長、田中正彦は、店先のシャッターが閉じられたままの光景にため息をついた。かつては活気に溢れていたこの商店街も、今では閑散としている。人々は大型ショッピングモールやオンラインショッピングに移行し、商店街は次第に忘れられていったのだ。

その夜、田中は家の屋上に上がり、星空を見上げた。広がる夜空に一筋の流れ星が見えると、田中は思わず手を合わせた。「どうか、この商店街にもう一度活気を取り戻してください」と祈った。しかし、すぐに苦笑いを浮かべた。「こんなことで願いが叶うわけないか」とつぶやき、屋上を後にした。

翌日、世界中で原因不明の電波障害が発生した。スマートフォンもパソコンも使えなくなり、通信システムは完全にダウン。混乱は瞬く間に広がり、世界中がパニックに陥った。ニュースも届かず、情報の流通は完全にストップした。

その状態が続くこと1年。人々は次第に電波のない生活に慣れ始めた。テレワークは消え去り、会社では紙とペンが主流となった。手紙文化やハンコ文化が復活し、船や飛行機の往来も難しくなり、地産地消が増えた。大型ショッピングモールは仕入れが難しくなり、次第に人々は地元の商店街に目を向けるようになった。

商店街はかつての活気を取り戻し、田中の目の前にはかつての賑わいが広がっていた。八百屋の店頭には新鮮な野菜が並び、電気屋の店内にはお客さんが溢れている。田中は祈りが叶ったことに驚きつつも、心の中で複雑な思いを抱えていた。

「商店街に人は戻ってきたけど、この不便な生活が続くのは辛いな」と田中は呟いた。人々が電波なしの生活に慣れる中で、自分自身もその生活に適応していく必要があると感じながらも、やはり以前の便利な生活に戻りたいという気持ちは拭えなかった。