【一話完結】一分で読めるショートショート集

規則

ある日、主人公の山田さんの家の目の前に突如として大きな石が置かれていた。その石はまるで意図的に置かれたかのように、玄関の真ん前に鎮座している。山田さんは不審に思いながらも、まずは石を動かそうと試みた。彼は近所の友人たちに助けを求め、数人がかりで石を動かそうとしたが、びくともしない。

この石の存在は山田さんにとって不快であった。玄関のドアはなんとか開けられるが、家の外に出るたびに石と玄関の隙間を無理やり通る必要があり、毎日がストレスの連続だった。

「こんなことでは生活できない」と山田さんは決意し、役所に相談することにした。最初に訪れたのは生活環境課だった。しかし、生活環境課の担当者は申し訳なさそうにこう言った。「これは我々の課の管轄外です。公共施設課に相談してみてください。」

次に山田さんは公共施設課に足を運んだ。担当者に状況を説明すると、今度は彼も困惑した表情を見せ、「申し訳ありませんが、これは都市整備課の担当になるかと思います。」と言って、山田さんを都市整備課に案内した。

都市整備課でも同じように説明すると、担当者は「確かに大変ですね。しかし、これは我々の管轄ではありません。市民相談課にお問い合わせください。」と、また別の課を紹介された。

その後も、山田さんは市民相談課、建設課、道路課とたらい回しにされ、ついには最初に訪れた生活環境課に戻ってきてしまった。

「この石をどかしてもらうためにどこに相談すればいいのか」と問うと、生活環境課の担当者は「本当に申し訳ありませんが、これは市役所のどの課でも対応できないようです」と、ついに手を挙げた。

山田さんは諦めかけたが、石に対する不満は募る一方だった。そこで彼は一計を案じた。夜中、ひと気が少なくなった頃、彼は一台のトラックを借り、市長の家に向かった。そして、彼の家の玄関前にあの巨大な石を置いたのだった。

翌日、市長の家の前にその石が置かれているのを見た市民たちは驚いた。市長も困惑し、その石をどかそうと試みたが、もちろんびくともしなかった。市長はすぐに役所に連絡を入れた。

しかし、皮肉なことに、市長もまた同じように役所のたらい回しに遭った。最終的に彼もまた諦めざるを得なかった。山田さんは市長の苦境を見てほくそ笑んだ。そして、彼は役所の規則に縛られた市民の苦悩を身をもって理解した市長に対し、こう言った。

「市長、この石は役所の規則では動かせない。しかし、私たち市民も同じように困っているのです。どうか、この石をどかす手段を見つけてください。そして、同じような問題が二度と起こらないようにしてください。」

市長は黙って頷き、その後、市の規則を見直すための委員会を設置した。山田さんの行動は、市の制度を見直す契機となったのだった。