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序『とんでもないところに来てしまった』

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本書は皆様の応援のおかげでAmazon Kindleにて2020年7月21日に全文改稿の上、電子書籍化致しました!
本文は非公開となりますが、以下Kindle試し読みページを掲載させて頂きます。



――――――



「あ、あのっ、あのっ!」
 僕は嫌な予感がした。すごくした。
 まるで、まるで、巣に持ち帰られたような。
 ドタンと押し倒されて、見上げればイケメン妖怪のニヤリ顔。
「あ、あの、ですね……」
 これはアレだ。貞操の危機というヤツだ。
 シロ、いや、士狼しろうさんも勘違いしているようだったもの。
 ここはハッキリ言わないとダメなんだきっと!
「僕、オトコです!」
 僕はからすさんのからすみたいに綺麗な青味を帯びた黒い眼を真っ直ぐに見て、声を張って叫んだ。
 ハアハアと思わず肩で息をしながら、どうだっ! と顔色をうかがっていると、彼は一瞬瞠目しブハッと破顔はがんした。
「んなの見りゃ分かるわ」
 ハハッと笑いを滲ませた彼は僕の頬にそっと触れた。
「え……?」
「『さくら神子みこ』をはらませりゃあ一族は千年栄えるんだってよ。十五年前のガキん時は興味なかったけどな。……んな別嬪べっぴんに育つたあな」
さくら神子みこ』? それって僕のことかな。
 十五年前というと三歳の時だ。
 僕が神隠かみかくしにった頃。僕はここに来ていたの?
 いや、それよりも。何を言っているんだろう。
 はらませるとか別嬪べっぴんとか、チョット待って。話聞いてた?
「僕はオトコだっ!」
 カアァ――ッと顔を熱くしながらもう一度叫ぶと、彼は「関係ねぇよ」とやたらイケボで耳元へと囁いた。
美味うまそうに育ったお前見て気ィ変わったわ。士狼しろうは熟れるのを我慢強く待ってたわけか。ご愁傷様。帰ってくるまでに先越してやる」
 れろっと首筋をぬるりとしたものが這う。
 生温かいその濡れた感触に僕は目を見開いた。
「わ、わ……なに……ひゃッ」
 僕は慌てて首を竦めた。
「……んだよ、うぶな反応しやがって。マジで未通女おぼこかよ」
 くくっとからすさんが悪そうな顔で愉しげに笑う。
「マジで経験ねぇの? 士狼しろうは随分気ィなげぇな。俺ならフライングでも味見くれえしとくけど」
 耳元で囁かれてビックリしてしまう。
「シロはこんな変なことしないもんっ!」
 馬鹿にされたようで恥ずかしくて悔しくて僕は思わず叫んだ。
「シロ? ああ? 士狼しろうの話してんだよ。ずっと一緒だったんだろうが。本当に彼奴あいつのデケェ魔羅まら、まだ突っ込まれてねぇのか」
 ニヤニヤして全身を舐めるように見られて僕は目を見開く。
(え、ナニ? ナニを言っているの? まら? 突っ込む? 日本語でお願いします)
「てことは、俺が一番乗りだな。俺のオンナにしてやるよ」
 気をよくしたように僕の顎をすくって頬を傾けたイケメン鴉天狗からすてんぐを僕は力一杯突き飛ばした。
 ドンっ! と両手で遥か彼方まで突き飛ばしたつもりだったけれど、彼は少し身体が揺れた程度で、ん? っと首を傾げた。
(あ、体幹しっかりしてるんですね)
「おっ、抵抗すんのか。いいねぇ」
 からすさんの鋭い眼に獲物を狩るウキウキみたいな不穏な光が浮かぶ。
 僕は恐怖に震え上がる。
 この体格差。この腕力差。筋肉量ゼロのこの僕が、絶対に敵うわけがない。
「……あの、退いてくださいっ! 人違いですっ。僕は『さくら神子みこ』とやらではありませんし、子供も産めません! 男なので!」
 イケメンに押し倒されたら誰でも喜ぶと思ったら大間違いだ。
「人違い……?」
「そうですよ」
「じゃあ証拠を見せろよ」
「はあ? 証拠?」
「ああ。『さくら神子みこ』は腹んトコに桜のあざがある」
 ドキンッ! と僕の心臓が跳ねた。
(え、嘘、それって……アレのことじゃ)
「どうした。顔色が悪ィな? あるんじゃねぇの、あざ
「あ、りま……せんっ」
「おっと、逃がさねぇよ」
 泣きそうになって逃げようとした僕の腕を捕らえて楽々と僕を組み敷き、両手首を片手でひと纏めに床に縫い止めると、ツツッと長い指先がシャツの上から僕の胸元をなぞった。
「や……め……ッ」
 まるで導かれるようにゆっくりと下りていった指先が僕のおへその上でピタリと止まる。
「ひ……ッ!」
 恐怖のあまり竦み上がる僕のシャツが引きちぎられる。
 ビリィ……ッ! という布の裂ける音と同時に辛うじて留まっていた下三つのボタンが弾け飛んだ。
 愉しそうに口角を上げる鴉天狗からすてんぐ
 露わになった僕のおへそ。
 僕のあざはくっきりと鮮やかにおへその上に五つの花びらを広げて咲いていた。
 僕が知っている薄紅色それよりもずっと濃く色づいていて驚く。
「あるじゃねぇかよ。嘘吐うそつき」
 至近距離で、青味がかった黒い眼が恐怖におののく僕の亜麻色あまいろの瞳を映す。
「『さくら神子みこを喰らわば百年長生きし、精を喰らわば若返り、嫁に貰わば一族は千年栄える』……か」
 からすさんは納得したようにそう呟くと、僕の両手首を変わらず捕らえたままで下腹部にその端正な顔を寄せた。
 そして、その花びらにれろっと舌を這わせる。
「ひゃ……ぁ、やら……、やめっ!」
 僕は身を捩りながら泣きそうな声をあげた。
「『はらませると一族は千年栄える』『体液であやかしの妖力が回復する』か。そりゃ狙われるわな」
(なんだその設定。盛りすぎだろ。冗談じゃないっ!)
「はな……し……て」
「そして、……はらんだらにその種族の紋様もんようがすぐに浮き上がるんだと」
 からすさんの舌が僕のおへその下へと移動し、ぢゅううっと強く吸い上げた。
「ひゃっ!」
「お前は俺達『四妖しよう』の誰かの印が出るまでずっと抱かれ続けることになるだろうなァ……」
四妖しよう? よ、よにんもいるの……!?」
「ああ。俺と士狼しろうとあと二妖によう桜神界ここで特に妖力が強い四妖よにんだ」
(と、とんでもないところに来てしまった!)
「や、やだ! 離してっ!」
「心配しなくても俺が最初で最後だ」
 愉しげなからすさんの声と同時にズボンと下着を一度にずるりと下ろされて、僕は悲鳴をあげた。
「うわああぁぁ――ッ!」
 僕の白い脚が大きく左右に開かれて、片脚がからすさんの肩にかけられる。
 鴉天狗からすてんぐが僕の内股を赤い舌で厭らしく舐めながら、わざわざ僕と視線を合わせて言った。
「お前がはらむまで何度だって抱いてやるよ」
「ひっ!」


 やだ、やだ、やだ。
 助けて、シロ――――ッ!
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