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+11+ 貴方のつけた痕《挿絵あり》
しおりを挟む「ん⋯⋯」
心地よい頭を撫でる手の感触にふと目覚めると、目の前にルキフェルの美貌が至近距離であって驚いた。
「えっ」
思わず此処はどこで今は何時で学校はあるか等を考える。
「此処はお前の寝室で今日は休みだ。慌てるな」
見透かした様な答えが返ってきてレオンは顔を熱くする。
朝から己の部屋にルキフェルが居るのは初めてだ。
安堵と共に気恥ずかしさでいっぱいになる。寝起きの顔を見られてしまった。いや、寝顔もだ。どうしよう。恥ずかしい。
「昨晩は無理をさせたな。手加減はしたつもりだが身体は辛くないか」
「え⋯⋯、あ、はあ、その。お手数をお掛けしました」
封印を掛け直すのにあんなに深く繋がる必要があったとは。
そして、あの日と同じ行為とはにわかに信じ難いほどに、ルキフェルは始終優しくて、レオンはとにかく気持ち良かった。
レオンは今すごく恥ずかしい。
「あの、お茶を淹れてきます」
ルキフェルの顔を直視出来なくて、そう言ってベッドから下りるなりへたっと座り込んでしまった。
「⋯⋯?」
腰が抜けた様に重くてだるい。
初めての経験過ぎてレオンは驚いて言葉を失う。
「どうした?」
ルキフェルがベッドから下りてなんだかニヤニヤしながら覗き込んで来る。
「あの、腰が⋯⋯立てません」
「そうか。ならば癒してやる。来いレオン」
そう言って手を差し伸べられて、レオンは何だか不思議な感覚に胸がときめいた。
「はい」
その手を取るなりぐいっと引き寄せられて、優しく唇を重ねられる。
ふわりと紅蓮の炎の様な揺らめきが見えて、すうっと身体が軽くなった。
そのままふわりと抱きしめられて頰に額に口付けをされる。
「あの、ありがとうございます」
長身のルキフェルに抱き寄せられると、レオンの頭はルキフェルの顎の下にありあつらえた様にすっぽりと腕の中に収まる。
こうやって抱きしめられると安心する。此処が己の居場所なのだと錯覚してしまうほどだ。
「お前はいつも此処に居ろ」
「⋯⋯⋯⋯はい」
欲しい時に欲しい言葉をくれる。ルキフェルは奇跡の様な存在だとレオンは思った。
頃合いを見計らったかの様に側遣いのシャザールがレオンの部屋に紅茶を運んでやって来た。
シャザールは驚くかと思ったらごく普通に二人分の紅茶を持ってきたので、レオンの方が驚いてしまった。
シャザールが洗練された無駄のない動きでテーブルに紅茶を置きながらレオンを見るなり一瞬動きを止めた。レオンの首元に視線を止めたまま信じられない物を見た様にいつもは思慮深い知的な銀の眼差しを見開いた。
「後で癒す」
ルキフェルが何でもないことの様にカップを口に運びながら言った。
「⋯⋯はっ」
「美味いな。いい腕をしている」
ルキフェルがシャザールを見てニヤリと笑って言った。
「恐悦至極に存じます」
シャザールは救世主でも見る様な眼差しでルキフェルを見て瞳を潤ませた。
それはほんの一瞬の出来事で、シャザールは深々と一礼すると静かに退出してしまった。
今のは一体何だったのだろう。
二人のアイコンタクトもなんだか腑に落ちない。
いつから面識があったのだろうか。
「うちの側遣いと知り合いなのですか?」
「いいや、別に」
軽く流されて、レオンは首を傾げる。
「シャザールは何に驚いていたのでしょうか? 何を癒すのですか」
ルキフェルは、トントンと形の良い長い指先で自分の首筋を二度叩いた。
「キスマークが付いている。それが珍しかったのだろう」
「⋯⋯⋯⋯?」
「鬱血痕だ。俺が付けた傷には違いないからな。お前が望むなら後で癒してやる」
そう言われて思わず立ち上がり、部屋の隅にある青薔薇が映り込んだ壁掛け鏡を覗き込んだ。
レオンの首筋にまるで薔薇の花弁のような深紅の痕が浮き上がっていた。
どんな傷や痣も不死のこの身に残る事はかつてなかった。
レオンは信じられない思いでそれを見た。
「どうした。今消すか?」
そっとルキフェルが後ろから抱きしめて蒼い頭の上に顎を乗せてそう言った。
「いいえ。⋯⋯消さないで下さい」
レオンは鏡越しにルキフェルを見て答えた。声が震えてしまった。瞳が潤んでしまう。
レオンのこの気持ちはきっと説明しても分からない。
まるで宝物の様にその紅い花弁を指先でなぞる。
嬉しくて、信じられないくらい嬉しくて、ずっと消えないで欲しいと、そう思った。
「いい返事だ。さっきは敢えて癒さなかった。学友に見せつけてやれ」
「学友⋯⋯」
そう言われて、レオンはハッと思い出した。とても重要な案件を。
挿絵イラスト/とめい島様@10meitoo
(ご依頼主/のっぽ様@igb5yWRlNWhnI0W
※読者様がイラスト有償依頼してまでルキレオに課金して下さいました☆)
レオンはくるりと振り返りルキフェルを見上げる。
「あの⋯⋯ッ、週明けから選択科目が始まる件なのですが」
「ああ、その事ならば問題ないと言ったろう」
ルキフェルは事もなげにそう言った。どう問題ないのか。
レオンにとっては大問題なのだ。吸血鬼クラス全員灰になったとか洒落にならない。どう問題ないのか具体的に聞かないと落ち落ち眠れやしないではないか。
「それは先程、強固な封印を掛け直したからですか?」
「⋯⋯⋯⋯。いいや、違う。お前には長期間有効な封印は掛からないようだ。変わらず俺の側を決して離れるな」
ルキフェルは真剣な顔でレオンに向かってそう言った。
「えっ。ではどうしたら⋯⋯」
そんな。己はどれだけやっかいな体質なのだろうか。
一体どれだけルキフェルに手間をかけさせたら気が済むのか。
申し訳なさで一杯になるレオンの目の前で、ルキフェルがふいに立ち上がった。
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