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第4話 しゃべるネコ登場!
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放課後、足どり軽く帰宅する。マンションの4階9号室、それが僕の家。
あからさまに不吉な数字だけど、それが理由でほかの部屋より安いんだとお父さんは言っている。ホントかどうか、わからないけどね。
「ただいま」
ドア開けると、ネコのザムザがちょこんと座ってる。
「やあザムザ、待っててくれたの?」
「音がしたから来たニャー。不審者かと思ってニャ」
「えらいな!」
「不審者ってのは間違ってなかったけどニャ!」
そう言うとザムザは、プイとおしりを向けて歩いてく。まったく、つれないネコだ。
ネコがどうしてしゃべるのか、不思議に思うよね。でもその前に、ザムザって名前から説明するよ。
僕の両親は本好きで、家は本であふれてる。という説明でザムザの由来がわかった人は、少しは本を読むんだろうね。
カフカという作家がいて、なんとかっていう本の主人公がザムザなんだって。カフカにザムザ、似た名前だ。両親はカフカの本が大好きで、そこからネコの名前をもらったってわけ。
左右に本が積まれた廊下、その突きあたりにリビングのドアがある。今日もまた、両親の楽しげな会話が聞こえてくる。きっと、本や小説の話題で盛りあがってるんだろう。
残念ながら僕には、本好きの遺伝子は受け継がれなかったらしい。僕はまったく本を読まない。だから廊下に積まれた本たちも、人によっては宝の山かもしれないけど、僕にとっては廊下をせまくする障害物だ。
本の山が途切れた場所にドアがあって、開けるとザムザもいっしょに入ってくる。
僕はカバンを投げ出して、ベッドにゴロンと横になる。
「ザムザ、ご飯食べたの?」
「食べたニャ。あ、オレのネコ缶はあげニャいよ!」
「狙ってないから!」
そう言って笑う。そうだ、どうしてネコがしゃべるのか、それを説明しないとね。
寝転がりながら、制服のポケットから携帯電話を出す。「言語ニャウ」というアプリが起動中だ。かわいいネコの絵が笑ってて、吹き出しに「ON」と書いてある。ネコの頭をなでるようにこすると、吹き出しが「OFF」に変わる。すると、
「ニャーニャー」
ザムザの声がネコの鳴き声に変わる。いや、正確にはいままでもニャーニャー言ってたんだけど、アプリの声の方が大きくて、かき消されてたんだ。いま、アプリをOFFにしたから、ザムザの鳴き声だけが聞こえてる。
アプリのネコの絵は、しょぼんとした顔だ。もう一度、頭をなでてあげると、「OFF」が「ON」になって、
「なんでオフったニャ? オレの言葉が耳に痛かったのかニャ?」
と、生意気でかわいい声が携帯から聞こえてくる。僕はすかさず、
「僕がネコ缶食べてるときに、となりから人間の言葉で文句《もんく》言われたらイヤだろ?」
「やっぱり狙ってたんだニャー!」
怒ったザムザが、寝転ぶ僕に乗っかってくる。
「冗談! 冗談!」
ザムザを抱きしめる。
どういう仕組みかわからないけど、「言語ニャウ」は本当にネコがしゃべっているように、その場の雰囲気にぴったりな言葉を選び出す不思議なアプリだった。
僕はあたたかい生き物を抱きしめながら、しあわせにひたってるけど、
「あ、そうだ」
大事なことを思い出す。小説を書くんだ。ベッドから飛び起きると、ザムザも驚いて跳びはねる。
「ニャンだニャンだ?」
目をパチクリさせてるザムザに、
「ねえ、小説の書き方って知ってる?」
「小説? 知るわけないニャー。オマエはネコを過大評価してるニャ」
まったく正論だけど、ここはネコの手も借りたいところだ。
それに、ザムザを拾ったのは学校の図書室だ。図書室のいちばん奥に机があって、そこにザムザが来たんだ。図書室で出会った本好きのネコ。きっと小説の書き方だって知ってるはずだ。
「でもザムザ、しょっちゅうお父さんの書斎入って、本をながめてるの知ってるぞ」
「ニャにぃ?」
「それに、開いた本の上で寝てるけど、こっそり読んでるだろ」
「ニャ!」
「実は本、読めるじゃないの?」
「ニャーニャー」
「いきなりネコの声にもどってもダメだぞ。本読んでるなら、書き方教えてよ」
「しかたないニャ~」
そう言って、ザムザが僕を見る。目には知的な輝きがあって、僕よりよっぽど賢そうだ。
「ヤン・シュヴァンクマイエルは、『人間をいちばん人間らしくするのは想像力だ』って言ったニャ」
「だれ?」
「ヤン・シュヴァンクマイエル」
「作家?」
「チェコのアニメーション作家だニャー」
「えーと、想像力がなんだって?」
「『人間をいちばん人間らしくするのは想像力』だニャ」
「つまり?」
「人間! 考えるニャ!」
「人間呼ばわりかよ」
「想像するニャ~」
ザムザは会話に飽きたように、ベッドの上でゴロゴロしはじめる。あとは僕の問題だとでも言うように。
でもザムザの言葉は響いた。まずは考えること、想像すること。
机に座り、パソコンを開く。古いノートパソコンはお父さんのお下がりだけど、小説を書くくらいの機能はある。ワープロソフトを起動させて、キーボードに手を置く。
想像だ、想像力だ。イマジネーション。
画面でカーソルが点滅している。1回、2回、3回……数えるのをあわててやめる。なにしてるんだ。
んー、やっぱり書き方がわからない。ブラウザを立ちあげて、小説の書き方を検索する。無数に出てくる。逆に多すぎだ。
気がつくと関係ないサイトを見たり、ネット辞書で「よだつ」の意味や「超新星」の知識(それもすぐ忘れてしまう知識)を仕入れて、時間だけがたっている。
まずい、まだ1文字も書けてないのに。
集中しよう。ノートパソコンを見つめる。パソコンの画面って意外と汚れてるよね。画面を一生懸命拭き、キーボードの掃除を追えたところで我に返った。なにしてるんだ!
集中、集中だ。
つぎに我に返ったのは、動画サイトで大量のネコ動画を観終えたときで、
「こんなかわいいネコ飼ってるのに、ネコ動画を観てニヤけるなんて、変態だニャあ」
ザムザのあきれた声が聞こえる。
「うるさいよ!」
まずい。小説を書こうと思った初日、僕はまだ1文字も書けてない。
ふたたび画面に向かいあい、じっと凝視していると、ワープロソフトのカーソルがゆっくり、定期的に点滅を繰り返す……まるで催眠術のように、僕を眠りへと、心地よいまどろみの世界へと……いざな……おやすみなさい……
あからさまに不吉な数字だけど、それが理由でほかの部屋より安いんだとお父さんは言っている。ホントかどうか、わからないけどね。
「ただいま」
ドア開けると、ネコのザムザがちょこんと座ってる。
「やあザムザ、待っててくれたの?」
「音がしたから来たニャー。不審者かと思ってニャ」
「えらいな!」
「不審者ってのは間違ってなかったけどニャ!」
そう言うとザムザは、プイとおしりを向けて歩いてく。まったく、つれないネコだ。
ネコがどうしてしゃべるのか、不思議に思うよね。でもその前に、ザムザって名前から説明するよ。
僕の両親は本好きで、家は本であふれてる。という説明でザムザの由来がわかった人は、少しは本を読むんだろうね。
カフカという作家がいて、なんとかっていう本の主人公がザムザなんだって。カフカにザムザ、似た名前だ。両親はカフカの本が大好きで、そこからネコの名前をもらったってわけ。
左右に本が積まれた廊下、その突きあたりにリビングのドアがある。今日もまた、両親の楽しげな会話が聞こえてくる。きっと、本や小説の話題で盛りあがってるんだろう。
残念ながら僕には、本好きの遺伝子は受け継がれなかったらしい。僕はまったく本を読まない。だから廊下に積まれた本たちも、人によっては宝の山かもしれないけど、僕にとっては廊下をせまくする障害物だ。
本の山が途切れた場所にドアがあって、開けるとザムザもいっしょに入ってくる。
僕はカバンを投げ出して、ベッドにゴロンと横になる。
「ザムザ、ご飯食べたの?」
「食べたニャ。あ、オレのネコ缶はあげニャいよ!」
「狙ってないから!」
そう言って笑う。そうだ、どうしてネコがしゃべるのか、それを説明しないとね。
寝転がりながら、制服のポケットから携帯電話を出す。「言語ニャウ」というアプリが起動中だ。かわいいネコの絵が笑ってて、吹き出しに「ON」と書いてある。ネコの頭をなでるようにこすると、吹き出しが「OFF」に変わる。すると、
「ニャーニャー」
ザムザの声がネコの鳴き声に変わる。いや、正確にはいままでもニャーニャー言ってたんだけど、アプリの声の方が大きくて、かき消されてたんだ。いま、アプリをOFFにしたから、ザムザの鳴き声だけが聞こえてる。
アプリのネコの絵は、しょぼんとした顔だ。もう一度、頭をなでてあげると、「OFF」が「ON」になって、
「なんでオフったニャ? オレの言葉が耳に痛かったのかニャ?」
と、生意気でかわいい声が携帯から聞こえてくる。僕はすかさず、
「僕がネコ缶食べてるときに、となりから人間の言葉で文句《もんく》言われたらイヤだろ?」
「やっぱり狙ってたんだニャー!」
怒ったザムザが、寝転ぶ僕に乗っかってくる。
「冗談! 冗談!」
ザムザを抱きしめる。
どういう仕組みかわからないけど、「言語ニャウ」は本当にネコがしゃべっているように、その場の雰囲気にぴったりな言葉を選び出す不思議なアプリだった。
僕はあたたかい生き物を抱きしめながら、しあわせにひたってるけど、
「あ、そうだ」
大事なことを思い出す。小説を書くんだ。ベッドから飛び起きると、ザムザも驚いて跳びはねる。
「ニャンだニャンだ?」
目をパチクリさせてるザムザに、
「ねえ、小説の書き方って知ってる?」
「小説? 知るわけないニャー。オマエはネコを過大評価してるニャ」
まったく正論だけど、ここはネコの手も借りたいところだ。
それに、ザムザを拾ったのは学校の図書室だ。図書室のいちばん奥に机があって、そこにザムザが来たんだ。図書室で出会った本好きのネコ。きっと小説の書き方だって知ってるはずだ。
「でもザムザ、しょっちゅうお父さんの書斎入って、本をながめてるの知ってるぞ」
「ニャにぃ?」
「それに、開いた本の上で寝てるけど、こっそり読んでるだろ」
「ニャ!」
「実は本、読めるじゃないの?」
「ニャーニャー」
「いきなりネコの声にもどってもダメだぞ。本読んでるなら、書き方教えてよ」
「しかたないニャ~」
そう言って、ザムザが僕を見る。目には知的な輝きがあって、僕よりよっぽど賢そうだ。
「ヤン・シュヴァンクマイエルは、『人間をいちばん人間らしくするのは想像力だ』って言ったニャ」
「だれ?」
「ヤン・シュヴァンクマイエル」
「作家?」
「チェコのアニメーション作家だニャー」
「えーと、想像力がなんだって?」
「『人間をいちばん人間らしくするのは想像力』だニャ」
「つまり?」
「人間! 考えるニャ!」
「人間呼ばわりかよ」
「想像するニャ~」
ザムザは会話に飽きたように、ベッドの上でゴロゴロしはじめる。あとは僕の問題だとでも言うように。
でもザムザの言葉は響いた。まずは考えること、想像すること。
机に座り、パソコンを開く。古いノートパソコンはお父さんのお下がりだけど、小説を書くくらいの機能はある。ワープロソフトを起動させて、キーボードに手を置く。
想像だ、想像力だ。イマジネーション。
画面でカーソルが点滅している。1回、2回、3回……数えるのをあわててやめる。なにしてるんだ。
んー、やっぱり書き方がわからない。ブラウザを立ちあげて、小説の書き方を検索する。無数に出てくる。逆に多すぎだ。
気がつくと関係ないサイトを見たり、ネット辞書で「よだつ」の意味や「超新星」の知識(それもすぐ忘れてしまう知識)を仕入れて、時間だけがたっている。
まずい、まだ1文字も書けてないのに。
集中しよう。ノートパソコンを見つめる。パソコンの画面って意外と汚れてるよね。画面を一生懸命拭き、キーボードの掃除を追えたところで我に返った。なにしてるんだ!
集中、集中だ。
つぎに我に返ったのは、動画サイトで大量のネコ動画を観終えたときで、
「こんなかわいいネコ飼ってるのに、ネコ動画を観てニヤけるなんて、変態だニャあ」
ザムザのあきれた声が聞こえる。
「うるさいよ!」
まずい。小説を書こうと思った初日、僕はまだ1文字も書けてない。
ふたたび画面に向かいあい、じっと凝視していると、ワープロソフトのカーソルがゆっくり、定期的に点滅を繰り返す……まるで催眠術のように、僕を眠りへと、心地よいまどろみの世界へと……いざな……おやすみなさい……
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