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第一章 メス堕ち前夜
第十八話 洗脳(2)
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バラの香りのする女の子の部屋で、ぼくは一人座り込んでいる。
何度見ても変わらない。
ドアに備え付けられた鏡に、ピンクの下着を着た可愛らしい女の子が映っている。
この儚げな少女が自分の姿なんて、どうしても信じられない。
けれども、頭を覆うサラサラの髪、ブラに包まれる左右の乳房の重さ、サラサラのショーツの感覚が、目の前の少女が紛れもなく自分であると告げている。
鏡の中の少女と、目と目が合う。
つぶらな瞳の奥から、戸惑いと恐れが伝わってくる。
(やばい……)
ゴクリと唾を飲みこむ。
口がカラカラに乾いていく。
「このままだと、本当に。変えられちゃう。なっちゃう……女に」
鼓動が速くなり、脈に合わせて体が微かに揺れる。
早くここを出ないと、大変なことになる。
ぼくの本能が、命の大きな危険を訴える。
何とかして出ないと。
出られるんだったら、もう何がどうなっても構うものか。
「逃げないと。どうにかして、ここを抜け出さないと」
鏡の中の少女は、焦った顔で落ち着きなく左右をキョロキョロと見回している。
ドア以外に逃げ口がない。
やはり正面突破しかないのだろう。
しかし、ドアに近づけば近づくほど、不思議なバラの香りが、更に強さを増していく。
どういうわけか、嗅いでいるうちに頭がくらくらしてくる。
視界がぼやけてくる。
逃げないと、早く逃げないと。
だけど、体の自由が利かない。
「だ、だめ……ぼく」
目がぐるぐると回り、ピンクの部屋全体が渦を巻いていく。
例の声が脳内で鳴り響く。
ぼくは、ただただ、聞いていることしかできない。
もうこれまで……なの?
(ママの香水、すごい。あの人間の目を見てよ。あっという間にトロンととろけちゃったよ。涎まで垂らしてる。面白ーい)
(ふふっ。すごいでしょ。ママの作った香水は。一家直伝の「ヒトコロリ」よ。そのうちニャン太にも教えてあげるわね。この香りは人間のメスによく効くの。この娘の脳はだいぶメスになってきているから、よく効くはずよ)
(すごーい。さすがママだね)
(ふふっ。ちょうどいい感じで、頭がとろけてきたわ。これなら始められるわね)
(ねっ。始められるね)
目の前に、五円玉のようなものが浮かんでいる。
糸につるされて、ゆらゆらと左右に揺れている。
僕の目は、ぼんやりとその動きを追いかける。
ただただ、追いかけずにはいられない。
言われたわけでもないのに、なぜかそうしてしまう。
(そう。よく見なさい。ゆーらゆら。揺れているわね)
「……う、うん。ゆれて……る」
(ゆーらゆら。五円玉だけを見るの。ゆーらゆら)
「ゆーらゆら、ゆーらゆら」
(そう。いい娘ね。見ているだけで、あなたはだんだん心地よくなるの。ほら、ゆーらゆら)
「……ゅーら、ゅら……」
(そうよ。その調子。もっと眠くなるの。ゆーらゆら。頭が白く。ゆーらゆら。声に合わせて、ゆーらゆら。霞んでくるの。ゆーらゆら)
「……ゅーら……ゅら……」
何度見ても変わらない。
ドアに備え付けられた鏡に、ピンクの下着を着た可愛らしい女の子が映っている。
この儚げな少女が自分の姿なんて、どうしても信じられない。
けれども、頭を覆うサラサラの髪、ブラに包まれる左右の乳房の重さ、サラサラのショーツの感覚が、目の前の少女が紛れもなく自分であると告げている。
鏡の中の少女と、目と目が合う。
つぶらな瞳の奥から、戸惑いと恐れが伝わってくる。
(やばい……)
ゴクリと唾を飲みこむ。
口がカラカラに乾いていく。
「このままだと、本当に。変えられちゃう。なっちゃう……女に」
鼓動が速くなり、脈に合わせて体が微かに揺れる。
早くここを出ないと、大変なことになる。
ぼくの本能が、命の大きな危険を訴える。
何とかして出ないと。
出られるんだったら、もう何がどうなっても構うものか。
「逃げないと。どうにかして、ここを抜け出さないと」
鏡の中の少女は、焦った顔で落ち着きなく左右をキョロキョロと見回している。
ドア以外に逃げ口がない。
やはり正面突破しかないのだろう。
しかし、ドアに近づけば近づくほど、不思議なバラの香りが、更に強さを増していく。
どういうわけか、嗅いでいるうちに頭がくらくらしてくる。
視界がぼやけてくる。
逃げないと、早く逃げないと。
だけど、体の自由が利かない。
「だ、だめ……ぼく」
目がぐるぐると回り、ピンクの部屋全体が渦を巻いていく。
例の声が脳内で鳴り響く。
ぼくは、ただただ、聞いていることしかできない。
もうこれまで……なの?
(ママの香水、すごい。あの人間の目を見てよ。あっという間にトロンととろけちゃったよ。涎まで垂らしてる。面白ーい)
(ふふっ。すごいでしょ。ママの作った香水は。一家直伝の「ヒトコロリ」よ。そのうちニャン太にも教えてあげるわね。この香りは人間のメスによく効くの。この娘の脳はだいぶメスになってきているから、よく効くはずよ)
(すごーい。さすがママだね)
(ふふっ。ちょうどいい感じで、頭がとろけてきたわ。これなら始められるわね)
(ねっ。始められるね)
目の前に、五円玉のようなものが浮かんでいる。
糸につるされて、ゆらゆらと左右に揺れている。
僕の目は、ぼんやりとその動きを追いかける。
ただただ、追いかけずにはいられない。
言われたわけでもないのに、なぜかそうしてしまう。
(そう。よく見なさい。ゆーらゆら。揺れているわね)
「……う、うん。ゆれて……る」
(ゆーらゆら。五円玉だけを見るの。ゆーらゆら)
「ゆーらゆら、ゆーらゆら」
(そう。いい娘ね。見ているだけで、あなたはだんだん心地よくなるの。ほら、ゆーらゆら)
「……ゅーら、ゅら……」
(そうよ。その調子。もっと眠くなるの。ゆーらゆら。頭が白く。ゆーらゆら。声に合わせて、ゆーらゆら。霞んでくるの。ゆーらゆら)
「……ゅーら……ゅら……」
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